フェラーリ

【海外試乗】「フェラーリF8 トリブート」背中で猛る史上最高のV8

本気で走れば最良のドライビングコーチに

プレゼンテーションを終え、実際にステアリングを握れたのは翌日の朝。あいにくのウェットコンディションだったが、試乗ステージとして用意されたのは、フェラーリのテストコースであるフィオラノサーキットとマラネロおよびモデナの市街地とエミリア・ロマーニャの山岳路だ。

まずはシートに座り込みコクピットドリルをひと通り確認する。新世代のHMI(ヒューマン ・ マシン ・インターフェイス)を備え、エアベントは円型の新しいデザインにリフレッシュ。パッセンジャーシートのダッシュボードには8.5インチの横長タッチスクリーン式ディスプレイが配され、走行情報をドライバーと共有することができる。配布された資料にはステアリング径が小さくなったと記してあったが、感覚的な範疇では気づかないレベルだろう。

早速、マネッティーノを推奨された「WET」にセットしてF8トリブートを走らせる。マラネロ周辺の道は整備が行き届いているとは言い難く、むしろ不整備具合に驚いてしまう。言わずもがなアスリートのような足周りのはずだが、イヤな振動や突き上げに悩まされることはなく、走ってすぐに乗り心地の良さに感服させられた。

ハイウェイではシフトセレクタースイッチを「AUTO」にセットしてクルーズしてみると、シフトマナーは実に滑らかで、2500rpm手前で気持ちよくステップアップを繰り返し、キャビンの中にいる限り、最新のV8フェラーリを駆っていることを忘れてしまいそうなほどサウンドは穏やかだった。ちなみに、車外での生音は、やはり過給機付きのそれという印象は否めなかったが、エモーショナルで高揚感を高めてくれるサウンドであることに違いはない。

マネッティーノを「SPORT」にセットし、パドル操作に切り替える。路面コンディションをわきまえて、可能な範囲で積極的な走りを試みた。するとエンジンは豹変して猛り、ワイルドなサウンドを響かせる。コーナリングでは機敏かつイメージ通りに頭の向きを変え、適度にロールを許してから、スムーズに立ち上がりコーナーを抜けて行く。ステアリングと右足を少し乱暴に操作してしまっても心配無用。クルマが正しくコーチングしてくれるので、走りにわずかな破綻さえも生じさせない。それでいて、絶対に自分がクルマにコントロールされているのに、「自分でしているぞ」という感覚を持たせてくれるから、アドレナリンの放出が止まらないのだ!

写真では見えないが、ボンネット下に設置されたラジエターの傾斜を変更することで冷却性が劇的に向上。試乗車は星型をモチーフにした10スポークデザインのホイールにピレリPゼロを装着。エアベントのデザインやパッセンジャーシート前の8.5インチディスプレイなどが新しいインテリアとなる。

「RACE」モードに入れないとギアやステアリング、ブレーキに制御が加わるFDE+(フェラーリ・ダイナミック。エンハンサー+)は作動しないので、一連の制御をシャシー性能の賜物と考えると、やはりこのパフォーマンスにも感服せずにはいられなかった。
史上最高のV8を積む跳ね馬ながら、優秀なドライビングコーチでもあるF8トリブート。コンフォート性も高く、日常からサーキットまで、あらゆる欲求を満たし、夢の世界へ連れていってくれる。そして先日、日本で発表されたSF90ストラダーレはV8エンジンと3基のモーターからなるパワーユニットだ。もしかすると、純粋なV8はF8トリブートが最後かもしれない……ということが頭をよぎり、手に入れることができた幸運な方は、内燃機関時代の証人として、V8を背負った跳ね馬を思う存分堪能してほしい。

フォト=フェラーリ・ジャパン/FERRARI JAPAN ル・ボラン2019年12月号より転載
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