国内試乗

【国内試乗】「フォルクスワーゲン・Tロック」手堅さも万全な新生コンパクトクーペSUV

フォルクスワーゲンが着々とラインナップを増やすコンパクトSUVに新しく加わったTロック。クロスオーバー風の佇まいから、フォルクスワーゲンSUVのビジュアル担当と思いがちだが、持ち味はズバリ心臓部。搭載する2Lディーゼルは日常域で素晴らしいポテンシャルを披露してくれた。

クーペ風の見た目よりも日常での走りを評価したい

フォルクスワーゲン(VW)のコンパクトSUVラインナップに新しくTロックが加わり、日本上陸を果たした。位置づけは、Tクロスより大きくてティグアンよりも小さい、3兄弟に例えれば真ん中っ子に当たる。全長と全幅をTクロス→Tロック→ティグアンの順番に記すと、全長は4115→4240→4500mm、全幅は1760→1825→1840mmとなり、3台の実車を並べて見ると、末弟のTクロスに大きさは近いと感じられた。

Aピラーからルーフを通ってCピラーへと繋がるクロームラインやCピラーのサイドパネル、大きく張り出したホイールアーチなどデザインコンシャスなエクステリア。

またこの3台は、キャラクターの違いはあれど、Tクロスとティグアンが王道SUV路線を行くならば、Tロックはクーペ風クロスオーバーの当世風な佇まいとなる。スタイリッシュなキャラクターがTロックのチャームポイントで、Aピラーからサイドルーフ全体に渡って伸びてCピラーへと繋がるクロームラインや、タルガバーを連想させるCピラーパネルが独自のサイドプロフィールを演出している。インテリアの仕立てはラインナップにより異なるが、水平基調のインパネにはカラーアクセントを与えることも可能で、ダブレット感覚で使える「Active Info Display」を備え、内外装とも目新しさが際立っている。

Tクロスやティグアンと比べてやや低めの重心位置となり、ハンドリング特性も最適化されている。また、ルーフとボディの色を変えた2トーン仕様にすることも可能。

デザインやキャラクターのアプローチが、同じVWグループのアウディQ2と似ているのは、モジュラープラットフォームが共通なことも大きいだろうが、ほか全ても似ているのかと考えるのは早合点。なぜなら、その走りからはしっかりとVWらしい手堅さが感じとれたからだ。

パワーユニットは2L TDIに7速DSGを組み合わせた前輪駆動のモノグレード。可変ダンパーのアダプティブ・シャシー・コントロールは「R-Line」のみ標準装着される。

Tロックのパワーユニットは、前輪駆動の2L直4ディーゼルを搭載し、日本ではこの一種類となる。兄と弟のエンジンラインナップを見てみると、末弟Tクロスが前輪駆動の1L直3ガソリン、長兄ティグアンが前輪駆動の1.4L直4ガソリンと4輪駆動の2L直4ディーゼルとなり、日本では3兄弟間のパワーユニットに被りがないことに気づかされる。つまり、各々には狙いを定めたカスタマーがいて、見た目だけでなく、走りの個性も際立たせた販売戦略が取られているのだ。

水平基調のインパネには、8インチの「Active Info Display」が全車標準装備される。「RLine」と「Sport」にはサイドボルスター部にマイクロフリースを使用したスポーツシートが採用される。

今回はドライ&ウェット、一般路&高速道路などの環境で、合計250kmほど試乗を行ったが、試乗車は「R-Line」と呼ばれるスポーティライン。225/40R19タイヤを装着し、大きさをいなす目的でこのモデルにのみ可変ダンパーが標準装着されるが、高速巡航での路面からの突き上げ処理やステアリングの座りには、正直ネガティブな印象を受けるシーンもあった。このあたりは、スタイリッシュなルックスとのトレードオフ感は否めないだろうが、16インチを標準装着する「STYLE」なら、その印象もだいぶ変わってくるはずだ。

ラゲッジスペース容量は通常時で445L。ラゲッジの底面を一段階下げることができ、さらなる拡張も可能。後席は60:40の分割可倒式が採用される。

しかし、市中を低・中速で走り回ったり、高速道路のランプウェイを駆け上がったりするシーンでは、アクセルの踏み込みに対する2Lディーゼルエンジンの応答性の高さや滑らかなシフトマナーは流石のひと言。右足の微調整を強いられることもなく、はたまた高速巡航では気になった静粛性や振動も、一般路がメインなら気にならないレベルだった。高速道路では大径ホイールの悪癖を受けたとしても、街中ではブレッド&バターの役割をきっちりと演じている。つまり、日常的にクルマを使う人に対して何が大切かをよく分かっている、ゴルフを筆頭とするVWコンパクトセグメントの一員としての責務は果たしていた。

やはり、Tロックを個性派やオシャレビークルと形容するのは早合点だ。VWのドンズバらしく手堅く抜かりのない、実に誠実な一台と言えるだろう。

フォト=篠原晃一/K.Shinohara ルボラン2020年9月号より転載

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