
映画「OVER DRIVE」
羽住英一郎監督インタビュー
国内映画でモータースポーツ作品は珍しいと思いますが、羽住監督がラリーを題材に選んだきっかけは?
「若者のクルマ離れと言われる時代の中、トヨタがWRC(FIA世界ラリー選手権)に挑戦していますが、確かにラリーって一般には馴染みが薄いと思います。ただ、サーキットのレースと違って、ラリーは私たちが通る一般公道を使うから映像的にも迫力があるなと。自動車メーカーがモータースポーツに参入する目的のひとつに、最終的には市販車へのフィードバックがあると思います。そういう意味でもフォーミュラよりも市販車に近いマシンが日常にある景色の中で闘うラリーの方が伝わりやすいと思いました。しかも、この作品ではメカニックをフィーチャーしています。もちろん華やかなドライバーの世界も描いていますけど、むしろメカニック視点の“モノづくり”だったり“挑戦”というテーマが日本人の琴線に触れるなぁと思ったのです」
首都高をラリーカーが疾走するシーンが衝撃的でしたが、この架空のシリーズ戦はどういった着想ですか?
「僕自身がすごくモータースポーツが好きなので、とにかく日本でラリーが盛り上がっていて、ラリーマシンが疾走するシーンをスクリーンで観てみたいロケーションや、国内シリーズという設定だけどイベントの規模感や競技中継の演出などはWRCに寄せてみたいという願望を含んでいます。国内トップカテゴリーとして、実在する“全日本”を名乗るわけにはいかないので、SEIKOさんにメインスポンサーとして名前を使わせていただきました。ラリーマシンも南アフリカ国内選手権を2連覇したトヨタ・ヤリスを輸入したり、モータースポーツに欠かせないスポンサーも色々な企業に協力をいただいて全部リアルにするという点にはかなりこだわりました。劇中のスポンサーにウソがあるとガッカリしますよね、似ているけどひと文字違うとか(笑)」
ラリーという難しいテーマをエンターテインメイントに仕立てた手法は?
「映画としてはまったくモータースポーツに興味がない方にも楽しんでいただきたいと思って作りました。だからラリー競技を分かりやすく噛み砕いて説明するよりも、プロフェッショナルの世界をよりリアルに描く方が新鮮に楽しんでいただけるだろうというアプローチです。だからこそ、森川 葵さんが演じるモータースポーツを知らない役柄の視点が重要なのです。もちろんモータースポーツ好きの人たちもガッカリさせません。なにより僕自身がモータースポーツファンですから。自分が観たい世界が描けたという自信はあります」
俳優陣の演技も秀逸でした。なにか特別な演出はありましたか?
「主人公の檜山篤洋を演じた東出くんも含めて、メカニック役のキャスト全員には、クランクインの1カ月前からヤリスをバラして組み立ててというトレーニングに参加してもらいました。東出くんは完璧主義で“自分は不器用だから”と言いますが、工具の名前や使い途からパーツの役割に至るまで、全部理解してからセリフを覚えるとか、それこそ専門用語の応酬なのに彼はすべて自分の血と骨にして表現してくれたので、“本物”になりましたね。一方、弟・直純役の新田真剣佑にはWRCドライバーの写真を見せて、細マッチョな身体に仕上げてもらいました。2カ月で見事に鍛え上げましたね。しかもマスクで顔の隠れたコクピットでの“目”の演技とか表彰台での立ち姿とか、日本人離れした理想的なドライバーの雰囲気を出してくれましたね。これは彼らが持つチカラだなあと感じました」
リアルな走行や整備シーンが実現できたポイントは?
「僕自身の尊敬の念を込め褒め言葉として”バカ”と呼びますが、この映画を作るにあたって、数多くのラリーバカとメカニックバカに出会って刺激を受けました。ターボチャージャーについて取材した際に、口数の少ないメカさんにターボについて質問してみたら、ヨダレを垂らさんばかりに熱弁を振るってくれまして(笑)、篤洋のキャラクターに採り入れました。また走行シーンは、全日本でシリーズチャンピオンを何度も経験している奴田原文雄さんと勝田範彦さんにドライブしていただきましたが、おふたりの横に乗せてもらったことがあるのですが、こちらは横に乗ってちょっと走ってもらった程度でヘトヘトなのに、1日で何十キロも競技スピードで走り続ける彼らの集中力はスゴイですね。真剣佑と北村匠海のドライビングシーンは、おふたりが付きっきりで演技指導です。ここもリアルにこだわりました。実はこの映画のキーになるストーリーである兄弟(東出&新田)がラリーを始めたきっかけを語るシーンがあります。これは奴田原さんがラリードライバーになったきっかけ、”自転車で坂道を誰がいちばん速く駆け下りれるか”を使わせていただいたんです」
ラストのイメージでは続編もありえますか?
「今回クランクアップを迎えて、もう1本モータースポーツの映画を撮ってみたいと思いました。でもモータースポーツも映画もかなりの予算が必要ですが、両方を合わせると想像以上のお金が掛かりますよね。だからこの『OVER DRIVE』がヒットしてくれないと困るんです(笑)」

羽住英一郎(はすみ えいいちろう)1967年生まれ、千葉県出身。ROBOT所属。2004年、『海猿 ウミザル』で劇場映画監督デビュー。「海猿 EVOLUTION」(05年/CX)、『LIMIT OF LOVE 海猿』(06年)、『THE LAST MESSAGE 海猿』(10年)、『BRAVE HEARTS 海猿』(12年)の海猿シリーズをはじめ、『暗殺教室』(15年)、『暗殺教室〜卒業編〜』(16年)など大ヒット作を次々と手掛ける。「ダブルフェイス」(12年/TBS・WOWOW)では東京ドラマアワード2013単発ドラマ部門グランプリを獲得。TVドラマ「MOZU」シリーズ(14・15年/TBS・WOWOW)、『劇場版MOZU』(15年)も話題に。その他の作品に、『逆境ナイン』(05年)、『銀色のシーズン』(08年)、『おっぱいバレー』(09年)、『ワイルド7』(11年)など。
「信じて駆けろ!!」
全てを懸けた兄弟の熱き想いが走り出す。
映画「OVER DRIVE」
2018年6月1日(金)全国東宝系公開!
【ストーリー】
世界最高峰のラリー競技・WRC(世界ラリー選手権)の登竜門として、若き才能たちがしのぎを削る国内トップカテゴリーのSCRS(SEIKOカップラリーシリーズ)。スピカレーシングファクトリーとライバルチームの熾烈な優勝争いは激しさを増していた。スペシャルステージで競われるのは、コンマ1秒の世界。
「攻めなきゃ、勝てねーから!」
WRCへのステップアップを目指すスピカ所属の天才ドライバー、檜山直純(新田真剣佑)。真面目で確かな腕を持ち、チームに貢献するメカニックの兄・檜山篤洋(東出昌大)の助言を無視し、リスクを顧みない、勝気なレースを展開する。ラウンド毎に衝突を繰り返す二人。いつしか、チームにも険悪なムードが漂い始め……。
そんなある日、素行の悪い直純の新しいマネジメント担当として遠藤ひかる(森川 葵)がやってくる。なんの知識もなく、完全に場違いな、ひかる。彼女を待ち受けていたのは、檜山兄弟の確執に秘められた過去、そして、チーム全員を巻き込む試練だった。
出演:東出昌大 新田真剣佑/森川 葵
北村匠海 町田啓太 要 潤 / 吉田鋼太郎
監督:羽住英一郎/脚本:桑村さや香/音楽:佐藤直紀
配給:東宝/コピーライト:©2018「OVER DRIVE」製作委員会/制作プロダクション:ロボット