大波乱と対峙するディーラーの精鋭メカたち
瑞々しい5月の青葉と山鳥のさえずりが心地よいドイツ・アイフェル地方のニュルブルクリンクに、またしても24時間レースの季節が訪れた。この世界一過酷な「グリーンヘル」を舞台にした伝統の耐久レースに、SUBARUの戦闘集団『STI』がチームとして活動をスタートしてから11年目を迎えた今回、果たしてどんなドラマが繰り広げられたのだろうか?
21万人もの観客が大歓声で迎える中、第46回ADACチューリッヒ24時間レースは、木曜日からはじまったプラクティスと予選を消化し、いよいよ決勝スタートを迎えた。146台ものマシンと共にナンバー90を掲げた「SUBARU WRX STI」がグリッド上に並ぶ。これまでにも同チームでクラス優勝を遂げている、カルロ・ヴァン・ダムがステアリングを担い、トップ30のFIA GT3マシンらに続いて、第3グループの先頭から勢いよくスタートを切った。
だが、レース序盤からWRX STIに早くも試練が降りかかる。パワーステアリングの油圧パイプからオイル漏れがみつかり、オイルリークの箇所の特定に手間取って長時間のピットインを余儀なくされてしまったのだ。その間にライバルに3周差、48分もの遅れを取ってしまう。一難去って、また一難。事前に対策は練っていたとは言え、次はコース上で測定されている走行中の排気音量の超過をレースコントロールから指摘される。急遽、慌ただしくマフラーアッセンブリーが用意され、全国SUBARU販売店から派遣されたメカニックの精鋭たちが、ピットインの際に僅か5分で交換するという早業を見せた。
全長25.378kmものロングコースとあって、薄暗くなり始めた頃にはコースのあちらこちらでクラッシュが発生し、その事故処理のためにイエローコーションが続く。北緯が高いニュルにやっと日没が訪れたのは21時過ぎ。気温がぐっと下がり、5月とは思えない寒さがチームとマシン、そしてスペクテイターたちを襲う。その頃にはWRX STIとおなじSP3TクラストップのVWゴルフ7を、僅か1周差まで追い上げていた。毎周十数秒ずつ差を縮め、追いつくのも時間の問題か……?
午前1時過ぎ、山内英輝がついにゴルフ7を捕らえ、一気に引き離す。ピットの中は歓喜に沸き、レース後半への溢れるモチベーションに凍える寒さも吹っ飛んだ瞬間だった。バトンを引き継いだ井口卓人はその座を確かなものとし、ミスがないように丁寧に周回を重ねた。だが湿った空気に不吉さを覚え、夜空を見上げると厚い雨雲が少しずつアイフェルの森へと忍び寄っていた。後の大波乱を予想させるかのように……。