アストンマーティン

「アストンさま、お見事!」嶋田智之の【アストン・マーティン新型ヴァンテージ】試乗リポート

デートに使うならDB11かな(笑)

ようやくステアリングを握ることができました、新型アストン・マーティン・ヴァンテージ。ひゃっほー! ……えっ? おまえは“イタフラ”じゃないのか、って? まぁル・ボラン本誌で連載してるくらいだから否定なんてできませんけど、実はこっちはこっちでヲタクっぽいくらいに好きなんです。そんなこといわずにしばしおつきあいくださいまし。

さて、ヴァンテージといえば、先代はFRスポーツカーとしての理想といっていいぐらいの絶妙なハンドリングが、それを味わっちゃったドライバーの間で抜群に高い評価を得ていたモデルでした。昨年の11月に世界同時発表となった新しいヴァンテージがもちろんそこを越えてくるだろうことは想像ができてたけど、「ならばどんな風に?」そして“あくまでもグランツーリスモ”といいつつも充分に先代ヴァンテージと張り合えるDB11 V8と、「どんな違いが?」僕としては、それはもうメチャメチャ興味津々だったのでした。

で、いきなり結論めいたことを申し上げちゃいますが、新型ヴァンテージ、「お見事!」です。街中、首都高速、高速道路、そしてワインディングロード。いろんなシチュエーションでとっぷりと走らせてみて、僕は確信しちゃったのでした。スポーツドライビングというものを純粋に楽しみたいなら、「これはアストン・マーティンのロードカー史上最強といえる存在である」と。残念ながらクローズドコースは未体験だし、サーキットこそがこのクルマの最も活きる場所だって簡単に連想できちゃったけど、それでも僕のその印象はまったく間違ってないと思うのです。

いや、すべてにわたって最高だ、というつもりはありません。正直に白状するなら、クルマを受け取って都心を走りはじめた100mほどで「……ん?」と感じたところはあったし、決して路面がいいとはいえない首都高速では「うわ……」と思ったところもあったのです。どういうことかといえば、ライドフィール、これまでのアストンの方程式からすると、かなりハードめな印象なのです。

昨今のアストンはエンジンのトルク特性や変速スピードといったパワートレイン系とアダプティブダンピングシステムの減衰などのシャシー系を、それぞれ別に選択できるようになっていて、ヴァンテージでは「スポーツ」「スポーツプラス」「トラック」から選べるんですけど、最も標準的でソフトな「スポーツ」で走っていても、路面のギャップや大きなうねりをキッチリ伝えてきます。首都高速で「トラック」に入れてちょっと元気よく走ってみたりすると、継ぎ目などでは“もしかして今、飛んだ?”と思えるほど活きのいい動きを見せることもあるくらいハードです。

それにロードノイズも結構大きめだし、3000rpmも回すと車内はわりと賑やか。もちろんそれらには“アストン・マーティンにしては”という但し書きが頭につくわけで、基本的な乗り心地はほどほどに良好で粗さもないんですけど、例えばDB11のようなエレガントな乗り味を期待してヴァンテージを走らせると、少し意外に感じるかも知れません。着座位置が素晴らしく低いことで気分が盛り上がるから、僕なんかは高速道路の巡航でも「トラック」を選んで『車体全体がビシッと引き締まった感じでまっすぐ走るのも楽だぜー』なんて喜んでる。少しも苦じゃないのですけど、それでもデートに使うならモードは「スポーツ」固定にして道も選ばなきゃなぁ~、なんてありもしないシチュエーションを思い浮かべたほどでした。

ヴァンテージはファイター!

でも、「だからこそお見事!」だったのです。走り屋の聖地へと踏み込んでみたら、これが楽しいのなんのって! 曲がる曲がる。ものすごく曲がる。それを知っちゃったら、「……ん?」とか「うわ……」とかは、もうどうでもよくなっちゃう。

シャシー系のモードを「スポーツ」にして走っても過大にロールせず、安定して気持ちよく曲がってくれるのですが、場所が場所だけにアクセルペダルにもチカラが入りがち。なので即座に「スポーツプラス」に入れたわけですけど、そうなると長いノーズはさらに気持ちよくインを刺そうとしてくれます。ステアリング操作に対するクルマの反応は、ほどよくシャープにしてめちゃめちゃ素直。こんな感じに曲がって欲しいと念じながらステアリングを切り込んでいくと、イメージしたとおりに正確に曲がってくれる感じなのです。

コーナーへのアプローチでブレーキを残しながらステアリングを切っていくと、フロントがスイッとコーナーの内側を向き、その瞬間にはリアも反応していて、狙ったとおりのラインに乗せていける。立ち上がりでアクセルペダルを踏んでいくと、アンダーステアなんて微塵も見せることなく、気持ちよく行きたい方向に加速していく。ほとんどニュートラルステアといっていいぐらいです。多少オーバースピード気味で侵入したりアクセルペダルを少し余分に踏み込んだりしてみましたが、その場合には電子制御が上手に介入してくれて、リアから弾けていくような怖さはまったく感じられません。もともとリアの踏ん張りは限界が高いので、わりと頑張らないとそこまで届かないですけどね。

路面がそう荒れてなかったので 「トラック」に入れてみると、基本的なクルマの動きの方向性としては「スポーツプラス」に似てますが、まるでホイールベースが短くなったかのように、動きはより素速くシャープになります。このモードで頑張るとリアは少しスライドするのですが、それも結構なところまで踏ん張って踏ん張って、それからジワッとはじまる感じ。しかも4つのタイヤが今どんな状況にあるのかがはっきりと伝わってくるし、ステアリングやアクセルペダルに対する反応も素速く正確だから修正も容易だし、何より楽しいのです。

おそらく一連の動きにはブレーキをつまむトルクベクタリングやオープンから100%ロックまでを瞬時にシームレスに切り替えてくれるEデフといった電子制御系が巧みに働いてくれるからだろうけど、それがいつ働いていつ解除されるのかなんてまったく判らないほど。ドライバーとしては自分がちょっとばかり上手くなったようなごくごく微かな戸惑い混じりで、ただただ曲がることが楽しいのです。

そうなるとESPボタンを長押しして解除して……なんて気持ちもムクッと持ち上がってくるわけですが、ヤメました。だって小雨が降ってきちゃって路面が最も滑りやすい状況になっちゃったんだもん。まだ日本に1台のヴァンテージを、万が一にも壊しちゃうわけにいはいきません。それはサーキットを走るチャンスに恵まれるまで、おあずけ。だけど、サーキットでこそ真価を発揮してくれそうな気配はプンプンと漂っていたのでした。

あぶなく忘れるところでしたが、AMG由来の4リッターV8ツインターボは、やっぱりバカっ速です。回していくとアストンらしく角がややまろやかに感じられるサウンドが歯切れよく爆ぜていき、気分は盛り上がるし素早くスムーズに伸びてもいきますが、基本的な性格としてはフラットなタイプ。低回転域から強力なチカラを放出していって、どこからでも弾けるような加速を提供してくれます。だからあらゆる局面で、速い速い。

ふと思い出したのは、このクルマのダイナミック性能を作り上げたチーフエンジニア、マット・ベッカーさんの言葉、「ヴァンテージはファイターだからね」。そう、DB11は相当にスポーツできるグランツーリスモ、対してヴァンテージはその気になればグランドツーリングもこなせるけど、明らかに徹頭徹尾ドライバーがクルマや自分自身と真摯に対峙するための、ザ・スポーツカー!」なのです。きっちりと性格分けがされてたのですね。

このサイト(CARSMEET WEB)のハギワラ編集長が「あんたはヒトとして軽々しいんだから“月刊イタフラ”みたいな軽い調子で書きなさいよ」っていうから地のままやっちゃったんで、何だか信憑性に欠けるような印象をお持ちになった方もおられるでしょうが、新型ヴァンテージ、お見事です! ……ホントのホントに楽しかった。

ASTON MARTIN VANTAGE
【Specification】■全長×全幅×全高=4465×1942×1273mm■ホイールベース=2704mm■車両重量=1530kg■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3982cc■最高出力=510ps(375kW)/6000rpm■最大トルク=685Nm/2000-5000rpm■トランスミッション=8速AT■サスペンション(F:R)=ダブルウィッシュボーン:マルチリンク■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク■タイヤサイズ(F:R)=255/40R20:295/35R20■車両本体価格=20,118,376円

アストンマーティンジャパン https://global.astonmartin.com/ja

嶋田智之

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