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国際的コンサル機関【J.D.Power Auto Summit】で語られた「クルマの未来」

桃田氏の特別講演から

1968年に米国カリフォルニアで事業を開始した「J.D.Power」は、自動車産業をはじめ、情報通信や航空、ホテルやヘルスケアなど幅広い分野のCS(顧客満足度)と品質に関する調査やコンサルティングを行う国際的専門機関だ。そのJ.D.Power Japanが去る11月14日に開催した「J.D.Power Auto Summit」において、「クルマの未来」「ユーザー視点で見る今後のクルマ社会」といった最先端のテーマが語られたので報告しよう。

まずは、全日本ツーリングカー選手権やNASCARなどでレーシングドライバーとして活躍し、現在では世界各国の自動車産業やエネルギー、IT関連の最先端を取材しているモータージャーナリストの桃田健史氏による、「クルマの未来」をテーマにした特別講演が行われた。

日本では「自動運転」「電動化」「つながるクルマ」と称される技術や、トヨタ自動車が掲げる移動、物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービス「MaaS/マース(Mobility as a Service)」は、メルセデス・ベンツが発信元といわれるキーワード「CASE(Connected Autonomous Shared Electric)」がオリジナルとのこと。

その最前線を追った桃田氏によれば、電動化を進める中国の「NEV(新エネルギー車)規制(2019年に10%、2020年に12%まで電動化義務づけ)」や、日中連合と独米連合が争う電動化に欠かせない充電規格の最新状況、ミッションE「タイカン」でポルシェが採用する「350kW/800V」超高速充電規格の出現により、独自規格で先行していたテスラのひとり勝ち時代が終わるであろうという状況も分析した。

さらに、自動運転について、「自動運転バブルの崩壊」や、パリモーターショーでフォルクスワーゲンが出展を見送るといったモーターショーのプレゼンス低下(自動車という商品のネタ枯れ)といったやや刺激的なキーワードも散りばめながら、自動車産業が転換点を迎えている現状を指摘。先述した「MaaS」についてモビリティサービスの構造変化をもたらすエピソードも披露した。

クルマの購入層が高齢化

また、クルマを購入している年齢層の高齢化(高齢化社会ではなく、高齢化率が増える)の指摘もポイントだろう。筆者も2016年に行われたトヨタ・プレミオ/アリオンのプレス向け試乗会で、購入層の平均年齢が60代後半から70代が中心というデータに驚いたことがある。トヨタがクラウンやカローラで必死に若返りを図っている背景には、このまま手をこまねいているとクルマを買う層がいなくなるという危機感があるからだ。

桃田氏もトヨタ車の購入層が高齢化している点を指摘。2025年には、団塊の世代がクルマに乗らない(高齢で運転できない)時代が来るとして、「MaaS」などの必要性を紹介しながらも課題もあぶり出していた。なお、桃田氏は福井県永平寺に家を借り、地域における新たなモビリティサービスである「永平寺モデル」の確立を目指すべく「永平寺町エボリューション大使」としてラストマイル自動運転の活動(実践)をしているという。

ビジネスモデル化の難しさ

桃田氏の講演に続き、モータージャーナリストの竹岡 圭さんの司会による「ユーザー視点で見る今後のクルマ社会」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。パネリストは、桃田健史氏とNTTドコモのIoTビジネス部長である谷 直樹氏、経済産業省 大臣官房参事官(自動車・産業競争力担当)である小林大和氏、J.D.Power Japanのオートモーティブ部門執行役員である大木 卓氏。

NTTドコモでは、すでに「AIバス」の実証実験と法人向けに「AIタクシー」の提供を開始している。ドコモが考える「MaaS」は、スマホを介して複数の移動手段を「ドアtoドア」でシームレスかつワンストップで使えるのを理想としているという。

この「AIバス」の実証実験は、横浜みなとみらいにおいて12月10日まで行っていて、ユーザーはスマホを使って31カ所の乗降ポイントで配車を要求し、便利でお得(同実証実験は無料)な移動を提供するという内容だ。協賛する企業やスポットの広告がスマホに配信されることで、協賛側にも集客などの効果が望めるという。

そして、経済産業省の小林大和氏は、政府の成長戦略として次世代モビリティの3本柱「自動運転移動サービスおよび高速道路でのレベル3相当」「トラックの隊列走行」「都市交通の最適化、MaaS推進、スマートシティ実現」を2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催までに目指す方針を紹介。

「MaaS」については、まずニーズから考える必要性を指摘し、移動(交通)弱者にハイライトを当てた制度を作る重要性を語りつつも、交通公共機関が成立しない地域ではビジネスとしても成立しないという現状を憂慮し、マネタイズの必要性に言及していた。

最後にJ.D.Power Japanの大木 卓氏が、「J.D.Power Auto Summit」来場者(プレスも含めた自動車業界関係者)と、一般の方を対象に事前調査した結果を披露。例えば、「レベル5自動運転実現・普及までの年数」という問いに対して、一般人と自動車業界関係者で最も多かったのは「10年はかかる」、自動車業界関係者は「20年以上かかる」や「実現しない」という声も多かったという分析がから紹介された。

フォト:塚田勝弘 K.Tsukada

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