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史上最高の自動車エンジンを搭載したブガッティのレールカー【GALLERIA AUTO MOBILIA】#002

クルマに関連したトイや書籍などを紹介するこのコーナー。今回は、著者がパリの蚤の市に30年間通い続けて、20年前に1台目、そして今年やっと2台目が入手できた、ブリキ製のブガッティ・レールカーを眺めながら綴りたい。

レールカーはブガッティらしく豪華で高性能な列車だった。

10代の頃から、自動車の製作に明け暮れてきたエットーレ・ブガッティは、その生涯のうちに様々なエンジンを製作した。ド・ディオン・ブートンの小さなエンジンを搭載したトリシクル(3輪車)から彼のキャリアは始まり、最初にブガッティの名声を高めたT13は初期には排気量1327ccで、最終型でも1453ccの小さなエンジンだった。そのかたわら、5リッターや10リッターの大排気量のエンジンも開発していたし、航空機用エンジンとしては8気筒14.4リッターのエンジンも作った。さらには、8気筒エンジンを並列にして、下部のクランクケースを一体にして2基を繋げたU字型とも言うべき16気筒29リッターの巨大エンジンも開発している。さらに8気筒を4基繋げた超弩級の32気筒エンジンまでもが試作されているのだから、大排気量エンジンについての研究もかなり積んだわけだ。

エットーレは、4気筒16バルブ・エンジンを搭載したT13で成功を収め、次いでT35とその派生車種でヨーロッパ中のグランプリで勝利を掌中に収めた。さらにロードカーの評判も高まると、他の追従を許さないクルマのヒエラルキーの最上級、イスパノスイザやロールス・ロイス以上の存在、クルマの王侯たちの中でも最高位の王として崇められるべきクルマを生み出すことを目論んだ。それがT41ロワイヤルだ。1926年には試作車が完成し、開発が続けられた。確かに静粛性に優れ、パワフルで低回転からの加速も良く、トルクも厚く、その広いパワーバンドから、3速のトランスミッションで事足りた。また4メートル50センチという長大なホイルベースを持ったシャシーと、その上にボディを載せた重い巨体にもかかわらず、身のこなしは軽かった、という。

世界中の選ばれた人たちのためにだけ作られた史上最高のクルマは、結局のところ、なかなかそれにふさわしい顧客も存在しなかったようで、完成したのは6台のみ。しかも顧客がついて購入されたのはそのうちの3台で、残りの3台はブガッティ家のガレージに永らく眠ったままだった。通常、ブガッティは様々な部品の互換性があり、それゆえに数多のバリエーションが作られたわけだが、ロワイヤルは固有の特別な部品ばかりだったため転用の効かない無用の長物となっており、その販売不振はおりからの不況も相まってブガッティを財政的に苦しめる原因となりかねなかった。

史上最高の自動車エンジンを搭載したレールカー

しかし、エットーレの発想の転換は素晴らしく、ロワイヤルのエンジンを搭載したAutorail(レールカー=軌道車)の開発にとりかかる。そして、ETAT(フランスにおける国鉄で、1938年からは他の民間鉄道会社を吸収してSNCFとなった)の賛同を得ると、1932年の1年間は開発に没頭し、翌1933年の夏にはエットーレ作のレールカーが、パリと避暑地ドーヴィルを結ぶ路線で実用化された。鉄輪とホイールの間にはゴムが挿入されて緩衝材となり、そのためか乗り心地は良かった、という。車室もブガッティT57を偲ばせるような気品のある作りだった。その頃にはエットーレの長男ジャンがブガッティのデザインに関与していたから、レールカーの魅惑的なエクステリアとインテリアはジャンが多くを担ったデザインなのだろう。

レールカーは79両がフランス国鉄に納入された。1両だけで走るタイプ(2基のエンジンを搭載して400馬力)、それに客車を連結した2両タイプ(4基のエンジンで800馬力)、真ん中が動力車で、その前後に客車を連結した3両タイプの3種類があった。操縦席はユニークなことに先頭ではなく、車体の上に突き出たキャノピーのなかにあった。高くて見晴らしのいい位置である。ジャンの操縦による試走では、パリからストラスブールまでを平均144km/hで走り、ある区間では200km/hに届きそうな速度を記録した。このレールカーたちは、戦後も1958年まで現役として活躍している。

レールカーの製造は、ブガッティに利益をもたらしたが、喜ばしいことばかりではなかった。レールカー生産のために工場を拡張することと合わせて、新たに工員たちを雇い入れたが、それまでのエットーレをル・パトロン(親方)として信頼を寄せる工員たちとは志が違った。自らが製造する機械への矜持よりも、待遇の改善と金銭を要求する労働者たちの増加は、やがてブガッティがモールスハイムに築き上げた秩序あるブガッティ王国崩壊への最初の亀裂ともなったのだった……。
今日でも、ミュールーズの鉄道博物館で、レールカーの実物を見る事ができる。パリのリヨン駅からTGV(そのフロント・デザインにレールカーへのリスペクトが指摘される)の直行便(ストラスブール経由なら東駅から)に乗って、ミュールーズへ。ミュールーズ市街では新たに導入されたトラム(市電)に乗って自動車博物館へも鉄道博物館へも行くことができる。
他のブガッティなら運転することは可能だが、レールカーの場合は操縦することは望むべくもない。けれど、いつかは走る姿を見てみたいし、出来たら客席にも乗ってみたい。私は、蚤の市で偶然に見つけたブリキのレールカーを眺めながら、そんな夢想をしている。

 

Text:岡田邦雄/Photo:青柳 明/カーマガジン454号(2016年4月号)より転載
CAR MAGAZINE編集部

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