燃費の常識を覆し、乗ってるだけで「いい人」に
初代プリウスが登場した1987年当時、全長4m以上の5人乗りセダンが28km/Lという低燃費で走れるなど、誰も想像すらしたことがなかった。「半ガス半電」で、しかも価格がカローラの1.5倍もするとあっては、二の足を踏むのも当然だった。しかし実際にはそこそこ受け容れられ、着実に地歩を築いていった。大幅な低燃費がクルマの価格差など逆転するという家計簿的な計算だけではなく、CO2排出削減を人々が理解するようになった結果でもあった。プリウスを選ぶことで、自分が「いい人」になれたかのような気分が迫って来るのだった。
特徴はパワートレインにある。右側のエンジンに対し、左側のモーターがポイントだ。最もエネルギーを要する静止からの発進ではまずモーターだけが働き、ある程度の勢いがついたところで初めてエンジンが目覚める。そのまま定速走行などでは、負担が小さく低燃費を期待できるからエンジンが主役。急加速や登坂など余分の力が必要になるとモーターも加勢する。惰力走行や降坂時にはエンジンが停まる。減速や停止のためにブレーキを踏むと、路面から逆駆動されたモーターが発電機に変身し、その抵抗が電磁石の力で車速を落とす。停車の直前まで、液圧はパッドを押さない。
エンジンとモーターとのやり取りは、両者の間に置かれた動力分割機構によって管理されていた。知恵の輪のような作動で理解が難しいためかイラストには描き込まれていないが、円筒のケーシングの中に遊星ギアをおさめた簡潔な構造物。外筒がエンジン側に、中心軸がモーター側に直結し、内部の遊星ギアを自由に回転させたりロックしたりすることで、エンジンのみ、モーターのみ、両方いっしょというように駆動輪(前輪)への動力を選択する。
コンパクトな5ナンバーサイズのボディは、全高1490mmと高めの着座姿勢のため視界は広く乗り降りも容易。センターメーター式のダッシュボードも当時まだ珍しかったが、未来的な雰囲気で評判を呼んだ。
この初代プリウスに重大な変更が施されたのは2000年のこと。後席バックレストの背後に置かれていたニッケル水素バッテリーを床面に寝かせ、後席を折り畳むトランクスルーにした時、ハイブリッドの充電・放電のサイクルも大きく見直され、その後のプリウスの内部基本形が確立された。ちびちび用心深く使うのではなく、ガッと消費して一気に蓄電する方式に変えたことで、走りも燃費も向上した。
この基本コンセプトを受け継いで、プリウスは2代目(2003年)、3代目(2009年)と巨大なヒットを放ち続けている。