小さな断片から自動車史の広大な世界を管見するこのコーナー。今回は、イギリスのごく初期のプラモデルメーカーであるメリットの、各モデルを眺めながら往時のレースに思いを馳せる機会としたい。
原初であり、完璧なプラモデル
メリットとの初めての出会いは、海外ではなく、横浜で催されているおもちゃのスワップミート、ワンダーランドマーケットでのことだった。ロータス11にしても、ジャガーDタイプにしても、アストンマーティンDB3Sにしても、クーパーMk-Ⅸにしても、そのプロポーションとディテールが美しく、すぐに虜になってしまったものだ。
模型に対する表現としては、おかしな言い方だが、本物のオーラが感じられたのである。ジャガーDタイプならば、リンドバーグや初期のタミヤのキットなどがあるが、それらは、単にそれらしく作られたモデルとしてしか認識されないものなのに、メリットのモデルからは、なにかしら畏敬に近い魅力を感じた。
それは最近のミニカーが精密ではあるけれど、単に商品、むしろ記号とか情報としての役割しかないのと比べて、’50年代や’60年代のディンキーやコーギーがデフォルメされたおもちゃなのに、魅力的であることにも似ている。
そしてメリットの場合は、もっとマニアックな趣があるのだ。モデルとなったレーシングカーが、現役で走っている時代に作られたということもあるけれど、ディンキーやコーギーよりも、もっと玄人ぽい。さらに言えば、わかってるな、という雰囲気があるのだ。
それは、例えばメリットのラインナップのひとつであるロータス11を現代の優秀な模型メーカーが製作しても再現できないと思われる何かなのである。いかに精密であっても、現代の模型は、私が感じるところでは、やはり情報や記号でしかないのだ……。
とはいえ、先にも述べたように1/43のミニカーによくあるような大胆にディフォルメされたおもちゃでもない。特にボディの面の再現性はかなりなものだと思う。よっぽど情熱的で優れた原型師がいたのではないだろうか?
メリットは趣味人やコレクターの国でもあるイギリスで生まれた。質の良い玩具を作り続けたJ&Lランダール社のブランドのひとつで、もうひとつのSELというブランドでは科学教材的なスチーム・エンジンや電池モーターや顕微鏡なども作っていた。志の高い、とても良心的な玩具メーカーだったと思われる。
メリットはプラモデルとしては黎明期の先駆的メーカーだったが、原初にしてすでに完成の領域に達していた。しかも、モデルの対象となった’40年代から’50年代のGPカーやスポーツカーの車種選定がまた素晴らしい。
今なお輝きが失せないレース史上最も偉大なクルマたちである。そういうわけで、メリットこそは私にとって唯一永遠のプラモデルなのである。