人跡未踏の知床半島を抜けていく絶景ロード
知床という地名は、アイヌの言葉「シリエトク」に由来するもので、「大地の突端」を意味している。まさに最果てのイメージそのものといった地名だが、ただし、海産物の豊かな知床の海岸部には、アイヌ民族よりも遙かに昔から人が暮らしてきた。いわゆる続縄文人やオホーツク人と呼ばれる太古の人類である。
羅臼町側の展望がすばらしいのは知床峠から見返峠にかけての約4kmの区間。一面の雲海の向こうに国後島の山々が浮かび上がる。
一方、半島の稜線地帯は、密生するハイマツやクマザサに覆い尽くされているため、近代以前は人が足を踏み入れることはなかった。現在、世界自然遺産に登録されているのは、知床岬から国道334号の南にそびえる遠音別岳にかけてのエリアで、約7万1100ヘクタールという東京23区よりひと回りほど広い土地には、推定200頭ほどのヒグマが生息しているといわれる。
この豊かな自然が手つかずのまま残る半島を横切っていくのが国道334号、通称「知床横断道路」である。この道路が全線開通したのは昭和55年(1980年)9月のこと。18年もの歳月と88億円という当時としては莫大な建設費をかけ、ようやく人跡未踏の半島を横断する自動車道路が完成したのだ。
太古から人が立ち入ることを拒んできた知床の原生林。その中を気持ちのいいワインディングロードが延びていく。