X7は大きな体躯ながら走りは紛れもないBMW
X7もまた、その巨体に似合わずブランドの個性を体現している。つまり駆けぬける歓びがあった。これには本当に驚かされた。
見た目にはほとんどミニカリナンというべき存在感である。特に巨大なフロントマスクは新時代のBMWラグジャリーを表現するもので、冒頭にも記したように、街中では相当に注目を浴びた。
室内は8シリーズなどと共通するモダンさで、その角張ったスタイリングのままに広々とした空間と相まって、Gクラスとは異質の空気が流れていると言っていい。X5とは違って、非パーソナルな雰囲気さえ漂う。走りをがんがん楽しもうなどという、BMWらしい気分にはなってこない。
ところが、だ。いざ走り出してみれば、これがもうちゃんとBMWらしいから驚いてしまったのだ。外から見たときの大きさ感は動き始めた瞬間に消え失せて、ちょうど7シリーズが5シリーズのように走ってくれたように、X7もまたX5のように走り出す。
BMWの6気筒ディーゼルには、力強さとともにレスポンスの良さを楽しむという他のディーゼルターボにはない魅力があった。これが、ハンドリング性能の良さと実に素晴らしいコラボレーションをみせるからファンなのだ。高速コーナリング中の確かな手応えもまた、BMWのSUVらしい。
Q8もまた、アウディらしさがたっぷりとあった。面白いことに、Q8と比べると、X7とGクラスの走りは“同じ側”にある。低速域におけるQ8のドライブフィールがそれだけ異質なのだ。これは、7シリーズやSクラスに比べてA8のライド感がまるで違ったこととよく似ている。
Gクラス、X7と乗りついでからQ8に乗ると、その軽快な足のさばきにむしろ戸惑ってしまった。ボディサイズなりに予想される重厚な感覚がないからだ。ポルシェ・カイエンにはあった“動きのため”がまるでない。その意外性がまた、実にアウディらしい。
それでも首都高のクルージング領域に入ってしばらく経てば、次第にそのドライブフィールにも慣れてくる。四肢を踏ん張らせて、路面をくわえこむようにして走る感覚はアウディ・クワトロの真骨頂で、そう感じるころにはもうボディサイズのことも忘れて“ミズスマシ”のように高速コーナーをクリアするQ8の走りと、クリーンでスムースなエンジンフィールに快感を覚える自分がいた。
さすが独プレミアムブランドのフラッグシップSUVだけあって、その巨大なボディサイズに関わらず、ブランド特有のドライブフィールを実現していた。安心のメルセデス・ベンツに、快感のBMW、そして軽快なアウディ。内外装の見映え質感は甲乙付け難いレベルにあって、これはもう、好き嫌いで選んでもらう他ない。ビッグサイズの頂上SUVであっても、妥協することなくブランドの走りを注入する。その開発姿勢こそがプレミアムブランドの矜持であり、また個々の開発哲学の現れというべきだろう。