いうまでもなく、 Sクラスと7シリーズといえば、両ブランドを代表するフラッグシップである。近々、フルモデルチェンジが噂されるSクラスは、熟成の進んだモデル末期の完熟モデル。かたや7シリーズは、昨年フェイスリフトが施され、存在感のあるデザインと最新の安全支援システムを獲得。さて、メルセデス派? ビーエム派? アナタはどちらに賛同するだろうか?
クルマとの極上の一体感を味わえる/7シリーズ派・島下泰久
今やラージサイズプレミアムセダンのセグメントは、凄まじい数のライバルが立ち並ぶ群雄割拠の様相だ。そんな中、あえてかつての一騎打ちの時代のようにSクラスと7シリーズを真正面からぶつけてみると、今も両車は様々な意味で対極に位置する存在だと再確認することになった。

BMW M760Li xDrive/2019年のフェイスリフトで登場した新型7シリーズは、約40%大型化したキドニーグリルを採用するなどより存在感のあるデザインへと刷新。高性能3眼カメラを搭載しハンズ・オフ機能を含む最新の運転支援システムを標準装備する。
まず乗り込んだのはSクラス。さすがと唸ったのは、すでにモデル末期であるにも関わらず、一瞬でこのセグメントの絶対王者たる威厳を実感させたことだ。
ドライバーズシートに腰を下ろすと、左右ドアまで連続したデザインのラウンディッシュな空間が、室内をとても優雅に、広々と感じさせる。ワイドスクリーンコクピットの先進感とウッドやレザーのコーディネイトも巧みで、ムードはとても贅沢。エクステリアを含めてきわめてモダンな設えなのは今や多数派を占める新興市場のユーザーの要望も大きいという。
リアシートも単純にスペースに余裕があるというだけでなく、リラックスできる空間設計に感心させられる。ここにいたらつい、うとうとしてしまいそうだ。
走りっぷりも、まさに微睡みへと誘うかのよう。わずかに聞こえるロードノイズ以外、室内は至極静寂に保たれる。試乗車がプラグインハイブリッドのS560eだったから、てっきりエンジンがかかっていないのかと思ったら、始動しても静けさは変わらなかった。乗り心地もフラットかつしなやかで、文句のつけようがない。
まさに、快適で安全な移動空間の究極の姿。改めて乗ったSクラスには、やはり圧倒された。そこから乗り換えた7シリーズは、意外にもクラシカルなラグジャリー観で作られているんだなと興味をそそった。何しろ、今になってキドニーグリルを大型化してきたぐらいだから、それは意図的にそうしているのだろう。
外観は、まさに正統派スリーボックスセダンのフォルムで、言ってしまえば保守的。室内も、水平基調のダッシュボードに敢えて連続性が演出されていないフラットなドアトリム、空間は十分に確保されているけれど事務的なリアシートなど、要所のデジタルなディテールはともかく骨格はオーセンティックそのものと言っていい。
しかも試乗車はM760LixDrive。スタートボタンを押すと同時にV12の咆哮が耳に届いた。正直、アナクロ感を抱かないではないが、その走りも手触りはSクラスとはまるで対極の味わいだ。操舵感にはコツコツ、ザラザラとした部分もあるが、代わりにグリップ感や路面の感触が生々しく伝わってくる。しかも切り込んでいけば間髪入れずに、ノーズだけでなくクルマ全体が向きを変えていくから、まるでひと回り小さなクルマのようという常套句が浮かんでくる。前後輪を操舵するインテグレーテッド ・ アクティブ ・ステアリングはようやく違和感がなくなり、クルマとの極上の一体感を味わわせてくれる。
V12ツインターボユニットは、滑らかさよりもビート感が強調されていて、吹け上がりには小気味よさすら感じさせる。しかも8速ATがDレンジでもダイレクト感たっぷりで、まさに意のままに操る歓びを享受できるのだ。
最近のMのつかないBMWの走りは全般に演出過多だから、素の7シリーズだと印象は異なるのかもしれない。しかし少なくともM760Liは、かつてのBMWのように自らステアリングを握るには最高の1台に仕上がっていた。
Sクラスに乗っていると、あまりに快適で楽チンで、ここまで来たら早く全部自動運転になってくれないかな……なんて思いがふと頭をもたげてくる。一方の7シリーズは、やはりドライバーズシートに座り、自らステアリングを握って走らせたいクルマだ。
そう、まさにそれは今までと変わらない7シリーズの立ち位置そのものなのだが、このパンデミックの中で改めて移動への渇望、それも単にA地点からB地点へというのではなく、自分の意思で好きな時に好きな所に走って行けることの歓びを皆が再認識した今、その価値は改めてクローズアップされてもいいのではないだろうか?
ラグジュアリーの意味すらも変わってきそうな、これからの時代。内外装のコンセプトの古臭さは気になりつつも、能動的に移動を、あるいは様々な変化すらも自らの手でハンドリングして楽しもうという気分にさせる7シリーズをこそ推したいと考えたのは、そんな理由からのことである。
Sクラスでしか味わえない境地/Sクラス派・渡辺敏史
メルセデス&BMWといえば、同じドイツにありながら、台数・規模・ラインナップ云々に至るまで、長年にわたって近接的関係にある真のライバルだ。一方で、世界の高級車づくりにおいてはともにベンチマークであり続けていることに異論はない。

MERCEDES-BENZ S560e long/メルセデス史上最高峰の安全性と快適性を獲得したSクラス。撮影車は最先端の電動化テクノロジーによって走りの愉しさと環境性能をかつてない高度な次元で両立させるEQ Power (プラグインハイブリッド)モデルとなる。
が、現在の立ち位置を築くに至るところまでのプロセスは、まるで異なっている。かたや1886年のパテント・モトールヴァーゲンを皮切りに、戦前から一貫して大型高級車を供給し続けてきたその自負が土台にあるメルセデス。かたや航空機エンジン製造を端緒に二輪・四輪へと軸足を広げ、小さなクルマづくりをコツコツと積み上げながら大型高級車の販売へと結びつけたBMW。改めて歴史を振り返れば、それは最高に日本人が喜びそうな対決構図でもある。
そんな両社のフラッグシップたる存在といえば、Sクラスと7シリーズ。BMWが初代E23系7シリーズを初めて上市した1977年から、ライバル関係は40年以上にも及ぶ。ちなみに現行のG11系は2015年にデビュー、2019年にマイナーチェンジを受けて現在は後期型となる。一方のSクラスは現行がW222系となり、そのデビューは2013年。2017年にマイナーチェンジを受けてこちらも現在は後期型が販売されている。ちなみにSクラスは順当にいけば今年中にもフルモデルチェンジが予想されており、今回のモデルが末期も末期であることは想像に難くない。
両車の内装の意匠やインターフェイスといったところは、共にその後の下位モデルに大きな影響を与えたものになっている。特にメルセデスはこのSクラスの登場後、ADASの設定操作においてサムスイッチのプライオリティがあがったため、 W222系もゴードン ・ワグナーが拘っただろう2スポークのステアリングがこの後期型ではあっさり普通の3スポークに改められた。しかし大画面液晶を並列したメーター&インフォテインメントシステムや、丸いエアベントが並ぶインテリアの構成などはその後のCクラスやEクラスにも引き継がれている。7シリーズも然りで、新たに提案したステアリングやセンターコンソール周りのインターフェースはその後の5シリーズや3シリーズにも横展開され、ファミリーとして操作共有性を高める施策がとられてきた。
その7シリーズは、アーキテクチャーにおいても他のファミリーに先駆けてCLARプラットフォームを用いたが、その軽量・高剛性ぶりは現状のLセグメントにあっても最大の武器となっている。今やこれが売れ筋だというディーゼル四駆の740dxDriveでさえ車重がほぼ2トンに収められるのは、ピラーの芯材にカーボンを用いるなど材料置換著しいこのアーキテクチャーがゆえだろう。
対するSクラスも売れ筋となるのがディーゼル四駆のS400d 4マチックだ。最新設計のストレート6のスイートさはBMWにも優ろうかというところだが、一方で車重は100kg以上重く、そのぶん燃費も確実に劣る。設計年次の新旧ゆえの至らなさもあるが、スペックのクレバーさでは7シリーズには敵わない面も多い。
それでも、ADASはギリギリのセンまで拮抗している辺りはメルセデスの意地も感じられる。が、ここでもハードウェアの新旧が微妙な優劣に絡んでしまうのはやむを得ない。7シリーズは位置判定においてナビゲーションとの連携を前提とする、60km/h以下のハンズオフドライブを既に実現している。もっともこの点はメルセデスの側も次期Sクラスでは最重要事項として徹底的に先進性を追求してくるだろう。
何より、7シリーズ側の今回の取材グレードは、白眉の出来を誇るM760Liだ。どの域からでも滑らかにトルクを滲ませつつ、高回転域まで清涼に吹け上がる12気筒ならではの官能性と、およそ12気筒らしからぬ軽快なハンドリングを併せ持つ稀代のリムジンを前にすれば、その魅力もさすがに陰るかと思いきや、Sクラスはやはり特濃のメルセデスライドをもって乗る者を納得させてくれる。
軽快さはないが鈍重ではないコーナリング。どんな入力も一撃で沈めるアシと無駄なお釣りを一切漏らさない上屋の動き。そして柔らかいがコシはある乗り心地……と、それらが醸し出す得もいえぬ信頼感や包容感というのは唯一無二、Sクラスでしか味わえない境地だろう。この乗り心地を守る、そして超えるのはやはり次期Sクラスしか考えられなさそうだ。
【Specification】BMW M760Li xDrive
■全長×全幅×全高=5265×1900×1485mm
■ホイールベース=3210mm
■車両重量=2320kg
■エンジン種類/排気量=V12DOHC48/6591cc
■最高出力=609ps(448kW)/5500rpm
■最大トルク=850Nm(86.7kg-m)/1550-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F: R)=ダブルウイッシュボーン:インテグラルアーム
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/40R20:275/35R20
■車両本体価格(税込)=25,820,000円
【Specification】MERCEDES-BENZ S560e long
■全長×全幅×全高=5255×1900×1495mm
■ホイールベース=3165mm
■車両重量=2290kg
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V/2996cc
■最高出力=367ps (270kW)/5500-6100rpm
■最大トルク=500Nm(51.0kg-m)/1600-4000rpm
■モーター最高出力=90ps(60kW)
■モーター最大トルク=440Nm(44.9kg-m)
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション(F:R)=マルチリンク:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=245/45R19:275/40R19
■車両本体価格(税込)=17,280,000円