プロトタイプ試乗

【プロトタイプ試乗】現時点で “マン・マシン・ インターフェイス” の集大成「ホンダNSXタイプS」国内限定30台のファイナルバージョン

ミッドに搭載する3.5ℓV6ツインターボに3モーターを組み合わせ、ホンダが理想とする人間中心のハイパフォーマンスを具現化してみせたハイブリッドスーパースポーツが、ついに終焉の時を迎えた。タイプSはそのメモリアル。2794万円の30台はすでに完売というが――。

培われた技術を未来への懸け橋に!

この8月、第二世代NSXの生産終了とともに発表されたのが、ファイナルモデルとなるタイプSの限定販売だ。その数、米国が300、カナダが20、そして日本が30の計250台。すで全車完売となっているその貴重な個体の試乗機会をいただいた。

前後バンパーはさらにワイド化され、大型のエアインテークによりエアロダイナミクスを強化。リアのディフューザーはカーボン製だ。

場所は旭川郊外にあるホンダの鷹栖プルービンググラウンド。コロナ禍でニュルブルクリンクなど実走開発のプロセスが大幅に制限される中、開発の中心となったコースだ。ちなみに用意された2台のタイプSは社内評価用として設えたものでシリアルナンバーはなく、社外に出ることはない。

タイプSの進化点はエンジン、シャシー、エアロダイナミクスに大別される。うち、エンジンは3.5L V6ツインターボユニットのタービンをGPF装着を前提とする欧州向けの高耐熱小径型に変更。その余力を高出力・ハイレスポンス側に振り向けるべく過給圧のピーク値を5.6%、インジェクター吐出量も25%ほどピーク値において高めている。

3.5ℓV6ツインターボと3モーターによるシステム最高出力は+29psの610ps、最大トルクは+21Nmの667Nm(社内規定値)を発生する。

加えて前軸のツインモーターユニットを20%ローギアード化、駆動用バッテリーの出力や使用容量を大きく採ることで蹴り出し力を高めるとともにEV走行領域を広げている。これらの施しにより総合出力は610㎰を発揮。国内量産車としては歴代最高のパワーを手に入れた。

タイヤはさらにワイドトレッド化されたNSX専用開発となるピレリPゼロ。サイズはフロントが245/35ZR19、リアが305/30ZR20が装着される。

シャシーはBWI製マグネライドダンパーの仕様を見直し、固めるというよりも上屋の不要な動きをしっかり封じ込めることでドライバーに安心感をもたらす設定を狙ったという。また、専用の鍛造アルミホイールはインセットを見直しトレッドを前10mm、後20mm拡大。装着タイヤはホンダ認証のH0マークが入った専用チューニングのピレリPゼロが採用された。
空力面では前後のバンパーを変更し、各クーリングチャンネルへの適切な導風と共に、フロア下への風の通りと大型リアディフューザーへの抜けを重視した。この効果は乗れば40km/hくらいから歴然と伝わるほどで、オプションのリアスポイラーを装着するとリアの据わりが良くなりすぎて動きが鈍るほどだという。

レザートリムとアルミ製フィニッシャーを基本に、メーターナセルやステアリングなど一部にカーボンを採用。独自の世界観を演出している。

試乗では足回りを中心に変更が加わった2019〜2020年型モデルと乗り比べることもできたが、その差は想像を大きく上回るほどだった。電池残量にもよるが、触れ込み通りモーターの走行領域は広がり、40km/hくらいまでであればアクセルワークを気にせずするすると加速・巡航することが可能だ。また、ドライブモードはスポーツやスポーツプラスの制御が大きく見直されており、スポーツではアクセルワークでキビキビと向きを変える活発さが、スポーツプラスではアクセルオンでイン側にしっかり絡みつくような粘りがみてとれる。いずれにせよ、無駄な動きはしっかりと封じ込まれており、飛ばさずともスッキリしたライドフィールが印象的だった。

シートはセミバケットタイプで、トリムはセミアリニンレザーとアルカンターラのコンビ。あらゆる状況下できわめて高いホールド性を発揮するという。

ともあれ車体挙動の安心感は絶大で、時にニュルをも凌駕する過大負荷が掛かるというワインディング路でさえリバウンドを一発で収めながら舐めるようにクリアする。この安定姿勢にもモーターの瞬発的かつ緻密な駆動力が奏功していると聞くと、改めて現れるタイミングが早すぎたクルマだったのだなぁという想いが強まった。ここで培った技術を、ホンダの電動化戦略に確実に繋げて欲しい。

公式ページ https://www.honda.co.jp/NSX/

ル・ボラン2021年12月号より転載

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