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現代大衆車のご先祖様!? FF+ハッチバックのパッケージングをいち早く取り入れた「ルノー16」国内試乗

成り立ちから見れば大きな4(キャトル)。とはいえベーシックカーの4に対して、当時のルノーの最上級車種だったルノー16(セーズ)。現在の1.5Lクラス乗用車の定型である前輪駆動ハッチバックというパッケージングを、このクラスで初めて取り入れたクルマに、現代の路上で改めて乗った。

フレンチイズムの集大成

ルノー16は1965年、5年前まで生産していたFRの2Lセダン「フレガート」の市場に復帰すべく生まれた。基本構造はキャトルと共通で、キャビン寄りにエンジンを縦置きした前輪駆動、左右でホイールベースが異なるトーションバースプリングのサスペンションを持つ。ボディもキャトルに続いてリアゲートを持つ5ドアとなった。3年後に高性能版TS、次の年にはオートマチックのTAが登場。1971年にはリアを中心にマイナーチェンジし、さらにその2年後には4灯ヘッドランプを持つ最上級車TXが加わった。

このクルマが登場した1965年、同じ1.5Lクラスの乗用車に何があったか振り返ってみると、フランスではプジョー404、ドイツではノイエクラッセと呼ばれたBMW 1500、日本ではスカG伝説のベースとなったプリンス・スカイライン1500などがあった。いずれもFRのノッチバックセダンだ。

現在のアウディの礎となったアウディ75など、前輪駆動の車種もなくはなかったけれど、やはりセダンだった。逆にハッチバックは日本でも同じ時期にトヨペット・コロナに設定されたりしたが、もちろん後輪駆動だった。

つまりルノー16(セーズ)は、現在の1.5Lクラスの乗用車の定型である前輪駆動ハッチバックというパッケージングを、このクラスで初めて取り入れたクルマになる。それだけ取り出しても先進的であり、欧州カー・オブ・ザ・イヤー受賞は当然に思える。

たしかに2019年の今見ても、パッケージングは現在のクルマとさほど変わらない。同じ前輪駆動でひとクラス上に君臨していたシトロエンDSとは違う意味で、旧いクルマなのに古さを感じない。

当時のフラッグシップモデルということで、助手席前のパッドやウッドメーターパネルなど、インテリアは当時としては豪華な部類だ。

一方でルノー16は、成り立ちから見れば大きな4(キャトル)である。頑丈なプラットフォームの上にハッチバックボディを構築し、直列4気筒エンジンをキャビン寄りに縦置きして前輪を駆動する。フロントは縦置き、リアは横置きのトーションバースプリングを用いた4輪独立懸架のサスペンションを含めて共通だ。

とはいえベーシックカーの4に対して、16は当時のルノーの最上級車種。それがディテールにも表れている。エクステリアではサイドとルーフのパネルの接合部を隠すモールがそのままリアゲート開口部に沿っていたり、ドアハンドルがキャラクターラインに合わせていたり、凝ったデザインが施されている。これも古さを感じさせない理由になっているようだ。

シートは御覧の通りクッションは肉厚でたっぷりとしたサイズ。表皮の素材はビニールレザーとなっており、造りもしっかりとしていて座り心地は抜群。ホイールはアイアンホイールにアイアンホイールキャップという組み合わせ。

インテリアはブラウン系のビニールレザーという素材こそ時代を感じるものの、助手席側をトレイにしたり、メーターやスイッチを整理したり、モダンな処理が見て取れる。それでいて1960年代生まれらしく、インパネの奥行きが短くてウインドスクリーンが立ち気味なので運転しやすい。

シートはサイズはたっぷり、着座感はふっかりしていて、まさに極上。これだけでもルノー16を買う価値がある。それでいて背もたれは張りがあるので長距離も疲れなさそうだ。ヘッドレストがない背もたれは低めで、窓が大きいので実寸以上の開放感がある。

ハッチゲートはガバっと大きく開き、トランクは広くてフラットでとても使いやすい。

リアゲートを生かした収容能力の高さは4同様だが、16ではそこに多彩なシートアレンジを持ち込んだ。当時のカタログによれば、背もたれは現在のハッチバックのように前に倒すのではなく、前端を持ち上げて水平に固定する方式で、座面を前方に跳ね上げることで低くフラットな空間が手に入る。さらに背もたれを斜めにして前席背もたれとつなげることで仮眠ができたり、後席を前にスライドすることで子供や荷物が足元に落ちないようにしたりというモードも可能だった。

つまり単なるハッチバックではなく、ミニバンに近い内容だ。クルマを通してさまざまなライフスタイルを提供するという姿勢は、このあと1984年に登場したマトラ開発・生産のエスパスに通じるものがある。

クルマは人生を楽しむためのパートナー

1975年には後継車としてルノー20/30 が登場するが、16はTX以外のグリルを黒塗りにするなどの手直しを受けつつ1980年まで生産が続いた。総生産台数は約185万台。

今回取材したのはデビュー3年後に追加された高性能版TSだ。1.5Lだったエンジンを1.6Lに拡大と書いただけでは控えめに思えるが、シリンダーヘッドをカウンターフローからクロスフローに一新し、キャブレターはツインチョークタイプとするなどの変更がなされており、最高出力は55psから85psにアップしていた。

このエンジンはアルピーヌA110に積まれてラリーで活躍することになるのだが、その影響で16TSは心臓移植のドナーとして提供され、多数がクルマとしての生命を終えてしまったと聞く。クラシックA110が名車であることは疑うべくもないとはいえ、悲しい境遇に置かれた1台でもあったことは覚えておいてほしい。

エンジンは水冷直列4気筒OHVの1.6L。トルクがあって乗りやすい実用的なキャラクター。縦置きのミッションを前側にすることで、エンジン位置をぎりぎりまでコックピット寄りにしている。

走り出すとたしかに、OHVの3文字から想像するよりはるかにスムーズで、同じクロスフロー方式を採用した8ゴルディーニを思い出す。3000rpm以上では音が大きくなるが伸びは衰えない。さすがアルピーヌに起用されただけはある。

それでいて発進直後に2速に入れても不満なく速度を上げていけるなど、かなりフレキシブルでもある。東京都内でのドライブはほとんど3000rpm以下で事足りたほど。コラムシフトはゲートがしっかりしていて、操るのが楽しいので、早めにギアを上げていって、静かなクルージングを楽しむのが似合っている。

ノンパワーのハンドルはパーキングスピードでは重いが、走り出すと気にならなくなる。コーナーではそれなりにロールするし、アクセルを開けすぎるとステアリングが重くなるものの、エンジンをキャビン寄りに積んでいるおかげもあってノーズヘビーではなく、予想以上に素直に曲がってくれることが分かる。

乗り心地はストロークがたっぷりあり、上下動がゆったりしていて、なおかつ揺れが少ない。同じ縦置きパワートレーンの4や初代5(サンク)に通じるけれど、ロングホイールベースのためもあり、さらに落ち着いていて大人っぽい。当時のルノーの最上級車種だったことを実感する。これにあのシートが組み合せられるのだから、現役時代は多くのユーザーが遠くを目指したことだろう。

グリル中央に取り付けられた控えめなエンブレム。その上段左右にある縦のバーは、摘まんで開けるタイプのボンネットオープナー。

現在もルノーの筆頭株主はフランス政府で、カルロス・ゴーン前会長逮捕時に話題になったけれど、16が現役当時のルノーは純国営の公団だった。それがこんなにモダンで使いやすく心地よい乗用車を提供したのは、フランス人にとって人生とは楽しむものであり、クルマはそのためのパートナーとして不可欠と考えていたからではないだろうか。このクルマといっしょに素敵なライフスタイルを描いていってほしい。そんなメッセージがルノー16を通して伝わってきたのである。

【SPECIFICATION】RENAULT 16TS
■全長×全幅×全高:4257×1648×1455mm
■ホイールベース(R/L):2717/2650mm
■トレッド(F/R):1342/1292mm
■車両重量:1030kg
■エンジン形式:直列4気筒OHV
■総排気量:1598cc
■最高出力:85ps/5750rpm
■最大トルク:12.0kg-m/3500rpm
■変速機:5速M/T
■サスペンション(F):ダブルウイッシュボーン
■サスペンション(R):トレーリングアーム
■ブレーキ (F/R):ディスク/ドラム
■タイヤ (F/R):155HR14

フォト:内藤敬仁/T.Naito Tipoより転載
森口将之

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