コラム

高性能内燃エンジン車を捨てきれない昭和世代にこそ試してもらいたい1台!「アウディRS e-tron GT」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】

エアサスの完成度は抜群!

最近、ようやくチラホラと街で見かけるようになった電気自動車。筆者も試乗する機会が増えてきて、徐々にではあるが身近に感じてきている。しかし、シティコミューターとしては良いものの、遠方まで向かうには正直インフラに不安を覚えるし、いざ充電するにしてもせっかちな自分にとっては30分のハードルもかなり高い。昼飯を食っている最中に、というBEV乗りの常識は理解できる一方、本気で手に入れたくなるほど魅力的なモデルもないというのが本音だ。ただ1台を除いては……。

それが「アウディRS e-tron GT」。昨年末に富士スピードウェイでe-tron GTのほうを試した時のこと。わずか2周という限られた時間内でもその運動性能に度肝を抜かれた。速い! 曲がる! しかもハンドリングも違和感なし! クワトロシステムは前後トルク配分を変幻自在に変えるうえ、その反応速度も機械式と比べて5倍もの速さで対応するため、ライントレース性に優れ攻めやすいという、おおよそBEVに抱いていたネガティブな要素を、その加速とともに消し去ってしまったのだ。

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本来ならこの時、RS e-tron GTを試したかったのだが、それでも見方が変わったのは事実。だからこの連載で取り上げたいと思い、念願かなって今回はRS版を試すこととなった。

0→100km/h加速が3.3秒、最高速度は250km/hをマーク。アダプティブエアサスペンションを標準装備するため、標準のGTと比べて車高は20mm低められている。

何故、RS e-tron GTかと言うと、まず見た目(単純!)。確かに事実上の姉妹車でもあるポルシェのタイカンも似たようなフォルムをもつが、アウディのほうが明確なフロントグリルを設けたおかげで“自動車然”としていて受け入れやすい。しかもアスリートのように筋肉質でグラマラス、全身からパワーを感じるアウディ スポーツらしいオーラをまとうだけに、BEVらしさを強調していないのがかえって好ましく思えた。

RSでは最高出力645ps、最大トルク830Nmを発生。車両前後に配置された2基のモーターがそれぞれ前輪と後輪を駆動する、新世代の電動4WDシステムのクワトロを搭載する。

というのも、BEVのデザインに関しては、本来ならもっと前衛的になれるはずなのに、どのメーカーも過渡期であることから意図的に今までの自動車のデザインを引きずりながら、要所要所でEV感を出そうとしている。それが妙に引っかかり、中途半端。その点、アウディは自動車であり続けようとしているのがわかるし、ブレを感じない。

フラットボトムの形状のステアリングをはじめ、コクピットはスポーティな装い。アウディバーチャルコックピットとセンターコンソールの大型タッチディスプレイを標準装備する。レザーシートもサポート性は良好だ。

とまぁ、ぼやいてしまったが、今後はBEVのメリットを活かしたデザインになるのは確実だから、もはやこのRS e-tron GTは時代をつなぐにも良い役割を果たしていると思う。それは走りに関しても同様。内燃エンジン車から乗り換えても、思ったよりも違和感がないことに驚く。むしろ、RS e-tron GTのおかげで、BEVへの移行がすんなりと進む富裕層も居ると思われる。

家庭用の普通充電と急速充電の両方を用意。90kWの急速充電では、わずか30分で最大250km以上の走行が可能という。

その理由は、出力値にある。BEVこそパワー命!ということをRS e-tron GTを通じて痛感したのは本当だ。前後2モーターを介して出力されるそれは実に475kW(646ps)、最大トルクは830Nmを誇る。車両重量は2320kgとけっして軽くはないが、それでも満充電あたりWLTCモードで534kmも走行できると思えば十分と言えるだろう。

とはいえ、実際はそれほど走ることなどほぼ不可能。エアコンの使用状況にもよるし、エコ運転でもしない限りこの数字には達するわけはないから実質は350km+α程度だと思っておいたほうが無難だ。しかし、手助けというわけでもないだろうが、エフィシェンシーモード(いわゆるエコモード)を選択しておけば、最高速度は140km/hに制限されるし、加速も抑えられるという配慮も採られているため、実用的な方向へと導いてくれる。

走り始めて最初に思うのが自重だが、フロア下に巨大なバッテリーを置くにも関わらず、ここまでパワーとトルクがあると、あまり重さを感じない。以前、素のタイカンに乗った時は常に「重っ!」と感じていたが、RS e-tron GTの場合はほぼ皆無。どちらかといえばRS e-tron GTはカイエン・ターボに近いから当たり前といえばそれまでだが、自重に関するネガな理由はこれで完全に明らかになったと筆者は思っている。

そして、優秀なのは足まわり。このエアサスの完成度は相当だ! バッテリーをフロア下に置くため重心の低さが際立つが、それにしてもこの安定感と快適性の両立は見事というほかない。わずかな凹凸に対するいなし方などエアサスならではだが、それなりの速度で走っても前後トルク配分の設定と相まってウルトラスムーズ極まりない。しかもエフィシェンシーモードでは、空気抵抗の抑えるため車高まで下げて走行するにも関わらず快適、足もしっかり動いている。

それがダイナミックモードにしてもそうだから驚くばかりだ。確かに引き締まってはいるものの、硬いとは思わせない絶妙なところを実現している。しかもRS e-tron GTは標準でリアステアを備えているが、レーンチェンジなどを繰り返しても素直で違和感ないうえ、2900mmものホイールベースがあるとは思わせないのも素晴らしい。

ラゲッジスペースは、350Lの容量が確保されている。

実のところ撮影も兼ねた試乗日は、あいにくの雨、しかも大雨だった。本来ならRSの名に相応しく、ワインディングも試したいところだったが、霧も収まらなかったため、今回は一般道から高速道路と限定的にお伝えすることになってしまった。だが、冒頭でも触れたように以前、富士スピードウェイで試した390kW(530ps)&640Nmを出力するe-tron GTが好印象だったから、それよりも上回るRS e-tron GTなら、さらに楽しませてくれるのは間違いない。

このRS e-tron GTは、高性能内燃エンジン車を捨てきれない昭和世代にこそ試して頂きたい1台だ。ポルシェにはタイカンがあるが、パナメーラのオーナーあたりにこそ次の1台として考えても良い気がする……。

【Specification】アウディ RS e-tron GT
■車両本体価格(税込)=17,990,000円
■全長×全幅×全高=4990 ×1965 ×1395mm
■ホイールベース=2900mm
■トレッド=(前)1700mm(後)1665mm
■車両重量=2320kg
■バッテリー種類=リチウムイオン
■バッテリー容量=93.4kWh
■定格電圧 =800V
■モーター種類=永久磁石シンクロナスモーター
■モーター最高出力=598(440)ps(kW)※オーバーブースト時646(475)ps(kW)
■モーター最大トルク= 830(84.6)Nm(㎏ -m)
■トランスミッション形式=2速
■サスペンション形式=(前)Wウイッシュボーン/エア、(後)ウイッシュボーン/エア
■ブレーキ=(前後)V ディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)245 /45R20(9J)、(後)285 /40R20(11J)

公式ページ https://www.audi.co.jp/jp/web/ja/models/tron/audi-rs_e-tron_gt.html

フォト=篠原晃一/K.Shinohara

この記事を書いた人

野口優

1967年生まれ。東京都出身。小学生の頃に経験した70年代のスーパーカーブームをきっかけにクルマが好きになり、いつかは自動車雑誌に携わりたいと想い、1993年に輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。経験を重ねて1999年には三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務。2008年から同誌の編集長に就任し、2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。フリーランスとしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動している。

野口優

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