コラム

「日産フェアレディZ」と「トヨタスープラ」、「高騰するスポーツカー人気と新時代の競争領域」【自動車業界の研究】

日産のフェアレディZとトヨタのスープラ、日本を代表する伝統的なスポーツカーは現在も互いに切磋琢磨して進化を続け魅力を高め合っていますが、近年の名車と呼ばれるクルマを中心にスポーツカー(中古車)人気の高騰も相まって大きな注目を集めています。
今回は、ユーザー視点でのクルマ解説というよりも自動車業界の作り手側からの視点でスポーツカーの魅力と存在の意義を改めて再検証するコラムをお届けします。

フェアレディZとスープラの歴史

どちらも簡単には語れないほどの長い歴史と伝統を持ちますが、生い立ちから現在に至るまでを少々、触れてみます。
先ずフェアレディZですが、日産が最初にフェアレディ(当時はフェアレデー表記)と名称を付けた1960年を起源とすれば、既に63年もの歴史を持ち日産は元より日本を代表する伝統のスポーツカーです。
同じく日産を代表するクルマとしてスカイラインも存在しますが、こちらは旧プリンスブランド(正確には前身の富士精密工業から1957年に登場)の流れを組むため、純粋に日産ブランドのスポーツカー、名称としてフェアレディは最長の歴史を誇ります(プリンス自動車工業株式会社と日産自動車株式会社は1966年に合併)。
名称の継承はひとつのステータスの継承であり、それだけ長きにわたって使用されてきたということは、クルマとしてユーザーの心をつかみ続けて歴史を築き地位を得てきたと言えます。
昨年、トヨタのクラウン(こちらは更に歴史が長く1955年の登場から68年を誇る)が車形を大きく変えても名称を継承したのも、その表れではないでしょうか。

だからこそフェアレディZ(1969年登場のS30型からZを表記)という名称を日産ブランドにおいてこれから先も大切に継承されるであろうと思われますが、そのフェアレディZでさえも2000年に一度生産を終了、5代目(Z33型)登場までの2年ほど販売モデルが存在しなかった期間が存在しています。

歴代フェアレディZ(日産自動車)

続いてスープラですが、名称が使われている期間はフェアレディZほどではないものの1978年の登場以来、既に45年もの歴史と伝統を持ちます。
スープラの登場時は長距離を高い動力性能によって快適に移動するグランツーリスモ(GT)といった位置付けでスポーツカーに位置づけられるのは1986年登場の3代目(A70型)からと言われていますが、それでも当時から今日までフェアレディZと真っ向勝負のライバルとして35年以上に渡って競い合い魅力を高めてきた類まれなる関係です。

フェアレディZ同様にスープラも時代の影響(排ガス規制や景気による経営状況、他)から、ターボによる圧倒的トルクでスポーツカー界を席巻した4代目(A80型)の生産を2002年に終えた後、5代目(DB型)として2019年に復活するまで15年以上もの販売していない期間が存在します。

歴代スープラ(GAZOO:トヨタ自動車)

フェアレディZもスープラも当時の排出ガス規制強化※や自動車メーカーの生き残りには400万台以上の事業規模が必要と提唱されていた2000年前後の競争激化時代にどちらも一度は販売(生産)を取りやめています。
現代で考えれば厳しい排出ガス規制とも思えませんが、当時は対処にかかるコストと売上収益の経営観点から販売台数の少ないスポーツカーを中心に生産が取り止められていました(参考:ホンダNSXは当時の排出ガス規制に対応して2005年まで生産)。

結果、このタイミングで生産が取り止められた名車の人気が現在は高騰していて中でもスカイラインGT-Rを中心に1000万円を超える車両価格で販売されている中古車も少なくありません。
当時から何となく今の状況が予測はできたものの、ここまでの状況に至ると想定していた方は、よほどの投資センスの持ち主でしょう。

※平成12年排出ガス規制:施行は2000年10月1日で2002年8月31日まで継続生産車と輸入車に猶予期間が設けられるも、ガソリン乗用車の10・15モードでNOxが0.48→0.08g/km、COが2.70→0.67g/km、HCが0.39→0.08g/kmへと基準値が改訂され、従前の昭和53年排出ガス規制に比較しておよそ70%もの排出量を削減する規制

現代に蘇ったフェアレディZとスープラの競い合い

ここで2022年に登場した現在のフェアレディZと 2019年に登場した現在のスープラについて作り手側の視点でみていきたいと思います。

フェアレディZは従来型を踏襲した大規模マイナーチェンジの位置付け(現在のRZ34型はZ34型から80%ほどの部品は新設)とされており、またスープラはトヨタとBMWの共同開発でオーストリアのマグナ・シュタイヤー社で生産されています。
どちらも生産(販売)台数からの収益性観点で開発や生産のコストを嵩ませずに新モデルを登場させる方策ですが、結果的に販売台数が少ないため限られたユーザーしか手に入れることができず希少価値が高まっています。
ある意味でフェラーリやランボルギーニといったスーパーカーと同様の状況ですが販売価格は圧倒的に廉価で作り手が、かかるコストを削減しつつも販売価格を抑制したいといった想いから試行錯誤した結果ではないでしょうか。

フェアレディZはホイールベースを始め車両の基本ディメンション他について従来型を踏襲して開発、生産されていると言われておりますが(型式も先代Z34の先頭にRが付いたRZ34型へ)、そのメリットは初めからベース技術の知見を保有するため、大規模に変更するポイントを絞り集中して開発や生産段取り(準備)に取り組めることや認証テストが削減できること等にあります。
デメリットはベース部分を改良しようと思っても重箱の隅をつつく開発で難しく効果をあげられず暗礁に乗り上げやすいこと、大規模に変更する箇所としない箇所とのバランスを取る難しさも出てきます。
更には、新型といった意味ではユーザーから疑問視される懸念も存在するものの、それでも結果的にコストは抑えられるので採用されたと考えられます。

ですが、そもそも自動車の心臓と言えるエンジンが全くの新型に変わってもフルモデルチェンジとは言いませんし、おおよそ従来型を踏襲(キャリーオーバー)してもフルモデルチェンジと言い切る場合もあって、その定義はあいまいです。

フェアレディZ(Z34型:日産自動車)

一方、スープラはBMWと共同開発されていますが、そのメリットは開発されたクルマや技術を異なるブランド間で複数使用できるため結果的に生産台数が増えて一台あたりの開発費が低減、更には双方が持つ知見やノウハウといったものを組み合わせられること等があります。
デメリットは双方の理念や思想、文化の違いや主導権争いといった複数の会社が混ざり合う難しさで、クルマをリリースするまで経営者からエンジニアまでの協調性や人間性が問われます。
一方、生産する工場や設備を同じ専門メーカーが担うのは合理的で欧州のメーカーでは頻繁にあるものの日本のメーカーではなかなか無いケースです。

そういった意味では現在のスープラの開発や生産は日本の自動車産業に新しい手法を取り入れたと言っても過言ではないと考えられます。
もう一点、本題と少し離れますがスープラのコネクティッドサービスはトヨタではなくBMWが提供していたりもします。

スープラ ラインオフ(トヨタ自動車)

いずれもスポーツカーの生産規模に合わせて、日産とトヨタがそれぞれに検討を重ねたベストの方策で現在のフェアレディZとスープラは存在していて、自動車メーカーのそれぞれの賭ける想いが伝わってきます。
どちらが優れた方策であるか一概には言えませんが、他ブランドの知見を得るといった観点では共同開発は有意義、専門メーカーへの生産委託も合理的で賢明と言えますが、ブランドを代表する伝統のスポーツカーが他ブランドの技術や工場で形成されることに抵抗のあるユーザーが存在するのもまた事実です。

フェアレディZとスープラ、最終的にユーザーとしてどちらが好きか?が購入にあたってもポイントですが、現在はクルマの魅力のみならず、その成り立ちも含めた魅力から購入を決定するケースも出てくるのではないでしょうか。
もし移動手段としてのみ自動車が存在しているのであれば、こういったクルマが世に出ることは無く、現在のスポーツカー人気からもまだまだ従来からの魅力、走りに対する情熱が世の中に存在していると思えます。

開発と品質保証(ABeam Consulting)

競い合うことによる相乗効果

今回は日本を代表するスポーツカーであるフェアレディZとスープラを作り手側視点での比較から、その魅力と意義を中心にご紹介しました。
自動車メーカーが競い合い工業製品としての技術革新や商品性の進歩といった相乗効果をもたらすという作用も、現在は新たに競い合う領域が広がり自動運転やコネクティッドサービス、電気自動車といった新領域にもリソースが割かれているため、スポーツカーを始め魅力的な既存領域の競争や進歩の減少が危惧されます。

現在のフェアレディZとスープラの取り組みは、作り手である自動車メーカーが工夫を凝らし実現した象徴であって、スポーツカーファンの期待を裏切らずに応え続けることが業界変革期には難しく、並大抵のがんばりでは実現できないことを思うと、新しいフェアレディZとスープラ、スポーツカーの魅力が見つけられるのではないでしょうか。

参考リンク)
歴代フェアレディZ(日産自動車)
https://global.nissanstories.com/ja-JP/releases/nissanz-50years-excitement
歴代スープラ(GAZOO:トヨタ自動車)
https://gazoo.com/column/daily/19/05/24/
フェアレディZ(Z34型:日産自動車)
http://history.nissan.co.jp/Z/Z34/1409/index.html
スープラ ラインオフ(トヨタ自動車)
https://global.toyota/jp/newsroom/toyota/27289530.html
フェアレディZ(日産自動車)× スープラ(トヨタ自動車)
https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/z.html
https://toyota.jp/supra/
日産フェアレディ起源
http://www.nissan.co.jp/COMPASS/GALLERY/FAIRLADY-STORY/S211/spl212.htm
初代NSX生産終了
https://www.honda.co.jp/news/2005/4050712-nsx.html
スープラのコネクティッドサービス
https://toyota.jp/supra/supraconnect/
平成12年排出ガス規制
https://www.mlit.go.jp/common/001191370.pdf

この記事を書いた人

橋爪一仁

自動車4社を経てアビームコンサルティング。企画業務を中心にCASE、DX×CX、セールス&マーケティング、広報、渉外、認証、R&D、工場管理、生産技術、製造等、自動車産業の幅広い経験をベースに現在は業界研究を中心に活動。特にCASEとエンジンが専門で日本車とドイツ車が得意領域。

橋爪一仁

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