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「フィアット・ドブロ」が待望の日本上陸
2023年5月に日本での発売を開始したフィアットのミニバン(MPV=マルチパーパスビークル)の「ドブロ」は、ズバリ、日本市場ではこのクラスで独走していた「ルノー・カングー」のライバルにあたる。カングーが5人乗りのみの中、ドブロでは、当初から5人乗りモデルと3列シート・7人乗りモデルの「Doblo Maxi (ドブロ・マキシ)」を設定。1.5L BlueHDiディーゼルターボエンジンの強力なトルクは、人と荷物を満載しても十分なパフォーマンスを発揮する。キャンプ・アウトドアブームの中、オシャレなギアとして新たな台風の目になりそうだ。
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小型車を得意とするフィアットは、過去日本でも「ムルティプラ」のようなMPVを入れたことはあったが、このような「カングー型」モデルを日本で正規輸入したことはなく、フィアットとしても待望の車種といえるだろう。
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「シトロエン・ベルランゴ」「プジョー・リフター」の兄弟車
そんなドブロ。気がついている人もいると思うが、ズバリシトロエンのMPV「ベルランゴ」と、プジョーのMPV「リフター」の兄弟車である。フロントデザインや内装、キャラクターを各メーカーの個性に合わせて変更しているが、基本的には同一車種。日本仕様では3車ともパワートレーンまで一緒だ。
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カングーの独占的市場に斬り込んだ「シトロエン・ベルランゴ」。本国では乗用モデルを「マルチスペース」と称する。最近のシトロエンらしい個性的なフロントマスク、優れた乗り心地により、しっかりシトロエンのクルマになっている。
さらに、日本では見ることができないが他にも兄弟車がいる。プジョー・シトロエン・フィアットと同じステランティスグループ傘下のオペル(と英国ブランドのヴォクスホール)の「コンボ」、そしてさらにプジョー・シトロエンが「PSA」だった頃から提携車種を多く生み出しているトヨタの「プロエースシティ・ヴァーソ」がそれだ。
さらに、ルノー・カングーがそうであるように、ドブロをはじめとするこれら一連のクルマたちは、いずれも「商用バンを乗用化したモデル」である。そのため、本国や現地市場ではむろん商用モデルが販売されている。その中でも、プジョーだけは乗用モデルを「リフター」、商用モデルを「パートナー(本国読みだとパルトネール)」と呼び分けている。
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ベルランゴファミリーのバンモデル一覧。左上から反時計回りに「シトロエン・ベルランゴバン」「プジョー・パートナー」「トヨタ・プロエースシティ」「オペル・コンボカーゴ」。ベルランゴは乗用モデルとマスクが異なり、ドブロと近いデザインなのがわかる。
歴代のシトロエン・ベルランゴと、2020年時点での兄弟車については、こちらに詳しくまとめてあるので是非ご覧になっていただきたい。
【ニューモデル情報通】Vol.3 シトロエンのMPV「ベルランゴ」は、ライバルのカングーよりも先に登場していた!
初代ドブロは2000年に誕生
さてここからは、今回の話の主役・ドブロについて歴史を振り帰ってみたい。
日本で発売されたドブロは3代目にあたるが、前述のように基本的にはプジョー・シトロエン開発のクルマである。ところが、初代と2代目は、純然たるフィアットのクルマだったことが決定的に異なるポイントだ。
初代ドブロは、カングー、ベルランゴなどと同じく、FF乗用車の車体後半を箱型にした商用バン「フルゴネット」の一員として2000年に誕生した。ドブロの前身的なモデルは、「フィアット・ウーノ」に箱を背負わせた「2代目フィオリーノ」で、カングーの前身が「ルノー・サンク」ベースの「エクスプレス」、ベルランゴの前身が「シトロエン・ヴィザ」ベースの「C15」と同じ成り立ちなのは興味深い。なお初代ドブロのプラットフォームは、フィアットの新興国向けハッチバック「ストラーダ」を使用していた。
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奇抜なフロントマスクを持つ初代ドブロ。リアのスライドドア採用などにより、フィオリーノよりも大幅に積載性・利便性が増していた。写真は、その乗用モデル「パノラマ」。パノラマという名称は、前身である「フィオリーノ」から引き継いでいた。
モールで2分割されたような灯火類とグリル、大きく面積をとったフロントとフロントドアの窓、2本足のドアミラーなど、初代ドブロは商用車ながらもデザイン的な手抜きは一切見られず、イタリア車らしい個性にあふれていた。ライバルのカングー・ベルランゴと同じく、乗用モデルも「パノラマ」という名称で設定されていた。製造は1960年代末からフィアットのノックダウン生産を行っていたトルコの「トファシュ(TOFAŞ)」が担当したほか、ブラジルやロシア、ベトナムなどでも生産が行われた。
2005年にフェイスリフトを受けた初代ドブロ
そんな初代ドブロだったが、いささかその表情は奇抜すぎたためか、2005年には大きめのフェイスリフトを行って常識的なマスクに変更された。小型車作りに長けたフィアットが手がけた小型バンだけにもともとの素地が良いこともあり、2006年には「インターナショナル・バン・オブ・ザ・イヤー」を受賞している。
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常識的な顔になった、初代後期型ドブロ。それでも大きな面積の黒いバンパーモールは残されており、商用車らしい印象を残していた。フロント部の変更により、全長は10cmほど伸びて約4.25mに。エンジンラインナップの見直しも行われ、ディーゼルはマルチジェットに進化している。
連続的なウインドウグラフィックが特徴の2代目
ドブロは、2010年に2代目にバトンタッチした。デザイン上の特徴は、初代では独立していた側面各窓が、2代目では連続的かつ後方に向かって切れ上がるような処理になっていたこと、そして水滴型ヘッドライト・縦長の大きなグリルの採用である。せっかく初代後期でキリッとした表情を得たのに、2代目ではまたどこか愛嬌ある顔となったのも面白い。プラットフォームはCセグメントに近い体躯を持つ「グランデプント」用のため、車体全体も大型化しており、使い勝手の向上も果たしている。製造はトルコに集約されていた。
2代目もビッグマイナーチェンジを受け端正な顔立ちに変化
ところが歴史は繰り返すのか、2代目ドブロは2015年のマイナーチェンジでフロントを大きく再整形。これまでのどんなドブロよりも精悍なマスクを獲得した。サイドの勢いがあるウインドウグラフィックと似合う、良いフェイスリフトではないだろうか。変更は多岐にわたり、インテリアも大きく刷新。デザインはより乗用車的になり、質感も大きく向上した。
2代目からは兄弟車としてドイツ向けの「オペル・コンボ(D)」、英国向けの「ヴォクスホール・コンボ(D)が生まれたほか、北米市場にも、後期型を「ラム・プロマスターシティ」として供給していた。これは2014年にフィアットとクライスラーが合併した成果のひとつだ。
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北米市場向けの「ラム・プロマスターシティ」。ダッジの商用車ブランド「ラム・トラックス」から販売されるが、製造はトルコのトファシュである。写真は商用バンの「トレードマン」だが、乗用モデルも設定。エンジンはさすがに北米向けだけあって、クライスラー製の2.4L「タイガーシャーク」エンジンを搭載する。なお「ラム・トラックス」は、以前は「ダッジ・ラム」などの車名に見られたが、2009年以降はブランド名として独立している。
実はステランティス以前から始まっていた、プジョー・シトロエン・フィアットの商用車協業関係
そして3代目ドブロからは、フィアットベースからプジョー・シトロエンベースに切り替わった、ということになるのだが、フィアットとプジョー・シトロエンの間で商用車を共同で作る歴史は深く、なんと45年も前の1978年からスタートしている。その詳細は別記事でも取り上げているので、ぜひこちらご覧いただけたら幸いである。
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