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【海外試乗】走りの血中濃度が高められた宿命のリアルスポーツ、911のベスト・オブ・ドライビングプレジャー「ポルシェ911 S/T」

2024年にフェイスリフトを控え、役物や限定車がドロップされはじめた911。その中でも群を抜いてドライビングファンを訴えかけるのが911 S/Tだ。なにせ、開発の指針は峠道を走って楽しいかどうか。現段階で我をも忘れてドライブを楽しめる911は、このS/Tの右に出るものはいない!

こんな罪な911はいままでいただろうか……

罪作りな911だ。ただでさえ新車で手に入れづらい911のMTで、リアエンドにはシリーズ最高峰のGT3RS用自然吸気フラット6を押し込み、派手なエアロデバイスをもたないツーリングボディスタイルという恐ろしくマニアックな仕様、ということもさることながら……峠道でのドライビングの楽しいことと言ったら! 我を忘れるとはまさにこのこと。我どころか、隣に大先輩を乗せて走っていることも忘れ、無我夢中でドライブ。タイトベントの続く狭いワインディングロードを自分でも驚くようなアベレージ速度で駆けぬけた。

もちろん、自分にそこまでのウデのないことなど知っている。けれども、あくまでも自分で操っているかのような気分に浸れる。おそらく20年前の高性能車で同じように頑張って走らせたなら、これほど速くは走れなかったどころか、20回はコースオフしたに違いない。

それでも日産GT-Rのように制御されたドライブという感覚に乏しい。満足度は高く、達成感が強い。叶うならばまたぜひ乗ってみたい。そんなふうに思える最新の高性能モデルなどそうそうない。値段はもちろんチャンスという意味でも買えないシロモノであると同時に、プロのように操ったと思わせるあたりが罪作りなのだ。もし幸運にも貴方が買う権利を得たとしたら乗り出し5000万円でも迷うことはない。昔風に言えば「女房を質に入れても買え」だ。

現行型992シリーズは来春にも後期モデルへとスイッチするらしく、ダカールをはじめ今や限定車の花は盛り。生まれ年にちなんで1963台のみが生産される911の60周年モデル、911S/Tがその罪作りなモデルである。

グランツーリスモとモータースポーツのノウハウが組み込まれたエクステリアデザイン。911GT3と同様に空力性能を高めるエアアウトレットがボンネットに備わる。

“ST”と聞いて歴史的な911を即座に思い浮かべた方はかなりのツウだ。初代911、すなわちナロー時代、レース用ベース車両の911Sを社内的に911STと呼んでいた。あくまでも911Sとして出荷されていたので“幻”。かのナナサンカレラのデビューする’73年以前に、STはツーリングレースカー界で大活躍したモデルだ。
伝説の名を背負うからにはそれに恥じない仕様でなければならない。911S/Tはドライビングプレジャーを純粋に追求した。最高速度やニュルのラップタイムといったわかりやすい記録は脇に置き、運転する楽しさだけを追い求めた “峠道を走って最高に楽しい911”が開発のメインテーマであったという。
パフォーマンスの源となるエンジンはGT3RSと同じ、すなわち525psの4L水平対向自然吸気フラット6。これに軽量クラッチとシングルマスフライホイールをセットして回転質量を減らしたクロスレシオの専用6速MTを組み合わせた。

991ベースの911 Rが500psで1370kgであったが、パワーウエイトレシオでは911 S/Tが上回っている。もちろん992世代のなかでは最も軽い911である。

前から見ればGT3ツーリングのように見える。フロントフェンダーのデザインがRSのようにも見える。ド派手なリアウイングはなく、小さな小さな整流板が備わるのみ。ナローの911STもまたエアロデバイスはなかった。
軽量化の手法もまたGT3RSとよく似る。ボンネットやルーフ、フロントフェンダー、ドアなどを炭素繊維強化プラスチック(CFRP)としたほか、ロールケージやリアスタビライザー、シアパネルなどもCFRPだ。結果、現代に蘇った911S/TはGT3ツーリングに比べて40kg軽い1380kgに収まった。

タイトコーナが楽しいこと楽しいこと!

濃紺のヘリテージパッケージを受け取って元気よく走り出す! と思いきやいきなりエンスト。フライホイールが軽く回転落ちが鋭いのでクラシックモデルのようにクラッチを繋いだ方が良さそうだ。
まずは一般道での乗り心地が望外に良いので驚く。アシがよく動き不快なショックをほとんど感じない。まもなく林道のように狭い峠道に入った。サスペンションモードをスポーツにセット。GT3のように硬い板の上に乗ったような心地を覚悟したのに、少し硬くなった程度でほとんど変わらないから拍子抜けする。スパルタンさはまるで感じない。

CFRPが採用されたフルバケットシートか電動調節機構付きのスポーツシートプラスを選べる。後席は省かれ、オプションでロールケージを組み込むことも可能。

ひとたび動き出せば重めのクラッチペダルも軽いフライホイールもギアレバーの操作を楽しむために重要な役割を果たしていたのだと納得する。シフトストロークがGT3用に比べて10mmも短く、オートブリップも超絶に巧みだから、マニュアルでのダウンシフトが2ペダルのように早くそしてスパスパとキレイに決まってくれる。

ピンストライプがあしらわれたファブリックシートや高級マイクロファイバーのRace-Tex素材をインテリアに採用。シフトストロークはGT3より10mm短く素早いシフト操作が可能。

ギアチェンジすること自体が楽しい。とはいっても狭い峠道ではほとんど2速(120km/hくらいまで)固定でこと足りた。5000rpmあたりから盛大なフラット6サウンドがコクピットを満たしドライバーを盛り上げる。2速で6000〜7000rpmあたりをキープしながら走らせてもエンジンは苦しむそぶりさえ見せない。時おり8000、否、9000rpmまで回しても平気の平左。なんならずっと回していたいと思う。その一方で1000rpmちょいでも粘り強く反応してくれる。3速固定でも結構速い。

センターロック式マグネシウムホイールを装着。

夢中になって林道を攻め続ける。最も楽しいのはヘアピンのようなタイトベントを連続してクリアするような場面だ。外されているはずのリアステアシステムが残っているのかと思うほど鼻先が内を向く。出口で思い切り右足を踏み込めば後輪がなんの不安もなく強力に路面を蹴り飛ばす。前輪も後輪も自分の思いのまま。
そんな911、否、最新スポーツカーはやっぱり他にない。

【SPECIFICATION】ポルシェ911 S/T
■車両本体価格(税込)=41,180,000円
■全長/全幅/全高=4573/1852/1279mm
■ホイールベース=2457mm
■トレッド=前:1601、後:1553mm
■車両重量=1380kg
■エンジン形式/種類=ー/水平対向6気筒
■内径×工程=102.0×81.5mm
■圧縮比=13.3:1
■総排気量=3996cc
■最高出力=525ps(386kW)/—rpm
■最大トルク=465Nm(47.4kg-m)/—rpm
■燃料タンク容量=64L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=—
■トランスミッション形式=6速MT
■サスペンション形式=前:Wウイッシュボーン/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:255/35ZR20、後:315/30ZR21
問い合わせ先=ポルシェジャパン 0120-846-911

リポート=西川 淳 フォト=ポルシェAG ルボラン2023年12月号より転載

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