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【比較試乗】三者三様のキャラクターを持つミドルBEVたち。電動化時代におけるプレミアム論「アウディRS e-tron GT vs メルセデスベンツEQE vs BMW i5」

まだICE車で満足しているとしても、日進月歩のBEVは気になる存在だろう。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディがリリースしているミディアム・サイズの3台のBEVを揃え、その完成度とブランドの個性を感じてみた。

ICEの延長線上にあるBMWとアウディ

箱根の麓に3台のBEVが揃ったとき、その顔ぶれをすんなり咀嚼することは難しいと感じた。何しろメルセデスはAMGではなく2駆のEQE350+、アウディは最上級というべきRS e-tron GT、そしてBMWは上陸したて、話題のi5 M60xDriveなのである。個々のインプレッションは問題ない。だが今回の3台同時に試乗を行なうことで、どんなシナジーが生まれるというのか?
最も気になったのは初めてステアリングを握るi5である。BEVのお約束通りフロア下にバッテリーを敷き詰めているが、それ故の腰高感はない。もしBEVという要件がなかったとしても、最新の5シリーズはこうなっていたと思わせるスタイリングをしているのだ。
一見するとコンサバなi5、走らせてみるとどうなのか? ボディが軽く感じられ、コーナーでも不思議なくらいフラットな姿勢が保たれ、加速は601psという最高出力から想像される上をいく。クルマ全体に調和が感じられるのである。

BMW i5 M60 xDrive/いかにもICEモデルと共用らしくまとめられた室内。シートに関してもMパフォーマンスモデルらしさは幾分抑えられているように思えたが走りは圧巻。そのギャップの大きさがi5 M60の最大の特徴といえる。前は金属スプリング、後ろはエアスプリングだが整合性は高い。

i5の印象をもう少し噛み砕いておくと、ステアリングはドライビングモードに関わらず軽めでBMWらしからぬ雰囲気も漂っている。ところがエアサス懸架のリアより金属スプリングのフロントのアジリティが勝っていることにより安心して飛ばせるハンドリングを実現している。またコーナリングで実際に効いているのは上屋の軽さではなく、前後に備わる電制スタビライザーと思われる。パッシブであるはずの制御がアクティブレベルに素早いのだ。またM60には後輪操舵が標準装備されているはずなのだが、試乗中にその存在を感じることがなかった。むしろ同位相(安定方向)に働き続けている? という接地感の高さ。ナチュラルな旋回が印象的だったのである。
ちなみにステアリング上のボタンで操る「Mスポーツブースト」は圧巻だった。メーター内の表示が瞬時にドラマティックなものに切り替わり、車内に響く効果音も増大。そして実際にトルクの増大によるワープ効果を体感できる。ドッキリの企画に使えるレベルでゲストを驚かせることができる。そんな機能って必要? という冷めた見方もあるだろうが、Mパフォーマンスモデルにはあって然るべきだろう。
スタイリングに派手さはないが、走らせると秀逸なi5に比べると、アウディRS e-tron GTは賑々しい。ボディが低く抑え込まれているおかげで1台だけ大きく感じられ、ボディ表面に浮き出たプレスラインも筋骨隆々なアスリートのような迫力がある。RSは普通のアウディじゃダメという人向けの乗り物だが、このBEVグランドツアラーはRSでも満足できない粋人向けといえるかもしれない。
乗り込んでみると着座姿勢もはっきりと低く、絞られたキャビンやサポートが張り出したシートによる包まれ感も強く、スポーツカーらしさが薫る。けれど内装の仕立て、そして操作系があまり電気自動車然としていないところはi5と似ていると思った。長年ICEモデルを乗り継いできたユーザーがスムーズにBEVに移行できるようにという配慮されているのだろう。

AUDI RS e-tron GT/ICEモデルに通じる正常進化型の操作系、インテリアデザインを持っているアウディ。シートの雰囲気もRS7スポーツバックに準じたダイナミックだが馴染みのあるものになっている。フロント255、リア305幅のタイヤが圧倒的なパフォーマンスを予感させる。

ドライブフィールはアウディRSそのものだった。あえてゴロゴロ感を残して猛々しさを強調した乗り心地。BEVの前後モーターには色々なパワーの掛け方があるが、4輪同時で一気に高まる加速感がアウディらしい。RS e-torn GTは見た目と走りの整合性が非常に高い1台といえる。
だが新しいか古いかでいえば、今回は少し古いと言わざるを得ない。デビューが3年近く前であること、そして最新のi5の試乗直後であることなど理由はあるが、せっかくのBEVなのだから、モーターの質感に準じたしっとりシームレスな感じがクルマ全体に波及していてもいいのかなと感じた。

往年のW124を彷彿とさせるEQE

「しっとりシームレス」という表現は、最後にステアリングを握ったEQE350+のためにあるのではないか? と思ってしまった。ハイパフォーマンスな2台に乗った後で走らせたEQEはホッと一息つける楽園のような存在だった。
車格を考えれば当然だが、3台で最もあたりが柔らかく、加減速も穏やか。ドライブしていて緊張を強いるようなことがなく、狭い道でも取り回しに困らないと自信が持てる。しばらくドライブしているうちに、昔アシにしていたミディアムクラス(W124)に似ていると感じた。そうEQE350+はBEVのW124なのである。実用車の必要用件を割り出し、プロットしていった1台。だから乗っていて少しも興奮しないが、ストレスもないのだ。

MERCEDES-BENZ EQE 350+/オプションのMBUXハイパースクリーンは備えていないが、操作系と丸みを帯びた造形が電動モデルを強く匂わせるメルセデス。3m越えのホイールベースのおかげでリアシート・スペースもたっぷりしている。視界も今回の3台で最も広く確保されていた。

スタイリングは特にリアの切り詰められた感じなど多少気になる部分もあるのだが、それだってホイールベースを長くとって最大サイズのバッテリーを積み、切れ角の大きな後輪操舵で帳尻を合わせた結果なのである。これが上位モデルのAMG EQE 53だったとしても使い勝手の良さを追求した立ち位置は変わらないだろう。もちろん今回の350+はシングルモーターなので、一充電走行距離も長く、実用車として考えれば優秀であることは間違いない。
最初は異種格闘技のように感じた今回の3台だが、試乗してみるとボディサイズのみならず、それぞれのブランドの長所がしっかりと強調されたモデルという共通項に行きついた。それでも個人的に1台を選ぶとしたら、僕はBMWi5を推す。パフォーマンスと日常性をブランドの個性の中にうまく落とし込んだi5は、モーターやICEの枠を超えたこれからのベンチマークとなっていくに違いない。

【PERSONAL CHOICE】
BMW i5
どのモデルも各ブランドの長所がしっかりと強調されている。実用性という点ではEQEも魅力的だったが、馴染むと良くも悪くも存在感が薄まりそう。その点i5は楽しめる要素が多く、他に似ない足回りの設定など興味が尽きない。5年後の満足度を予測してi5をチョイス!

【SPECIFICATION】MERCEDES-BENZ EQE 350+
■車両本体価格(税込)=12,510,000円
■全長×全幅×全高=4995×1905×1495mm
■ホイールベース=3120mm
■車両重量=2390kg
■総電力量=90.4kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=624km
■モーター最高出力=292ps(215kW)
■モーター最大トルク=565Nm(57.6kg-m)
■サスペンション=前:4リンク、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:255/45R19

問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL0120-190-610

【SPECIFICATION】BMW i5 M60 xDrive
■車両本体価格(税込)=15,480,000円
■全長×全幅×全高=5060×1900×1505mm
■ホイールベース=2995mm
■車両重量=2360kg
■総電力量=83.9kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=455km
■モーター最高出力=261ps(192kW)/8000rpm
■モーター最大トルク=365Nm(37.2kg-m)/0-5000rpm
■サスペンション=前:ダブルウィッシュボーン、後:5リンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:255/35R21、後:285/30R21

問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-269-437

【SPECIFICATION】AUDI RS e-tron GT
■車両本体価格(税込)=18,990,000円
■全長×全幅×全高=4990×1965×1395mm
■ホイールベース=2900mm
■車両重量=2320kg
■総電力量=93.4kWh
■一充電航続可能距離(WLTC)=534km
■モーター最高出力=646ps(475kW)
■モーター最大トルク=830Nm(84.6kg-m)
■サスペンション=前後:ダブルウィッシュボーン
■ブレーキ=前後ディスク
■タイヤサイズ=前:265/35R21、後:305/30R21

問い合わせ先=アウディジャパン TEL0120-598-106

フォト=郡 大二郎 ルボラン2024年2月号より転載

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