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【海外試乗】控えめにアルピナ流を貫くブッフローエの最終モデル「BMW アルピナ B4GT & B3GT」

残り1年半となったブッフローエ・メイドのアルピナ車。そのファイナルモデルがデビューを果たした。GTを名乗るB3とB4の後期型を、ドイツ・ザッセンリンクのトラックで走らせた第一印象をお伝えしよう。

気になるのは物理的変更、重要なのは調律が生む味

新型のアルピナB3GTとB4GTが登場した。BMW3/4シリーズのマイナーチェンジに続いて、B3とB4が後期型に刷新されたのだ。試乗会の舞台はドイツのザクセンリンクだった。
B3/B4GTの外観的な特徴は、ホイールやデコ・セット、エンブレムがオロ・テクニコと呼ばれるゴールドで塗られていること。また昨年250台限定でリリースされたB5GTと同様にフロントスポイラーの左右端に小さな黒いカナードが追加されている。

BMW ALPINA B4GT GRAN COUPE/ボディの強度が1クラス上のパフォーマンス実現に寄与しているB4 GTグランクーペ。フロントに対して3サイズも太いリアタイヤがスポーティに特化した独自のドライブフィールの源泉になっている。今回標準装着されているタイヤはこれまでのB3、B4と同じスペックとなる。

ボンネット下に収まる心臓は3L直6ビターボのS58で変わりないが、最高出力が495psから529psまで引き上げられている。

中身の部分ではB3GTの場合エンジンルーム内にドームバルクヘッドレインフォースメントが追加されている。このアルミ鋳物の補強部材はこれまではB4専用だったもの。またベースモデルのリアダンパー取り付け部剛性が高められたことに合わせ、リアのスタビライザーが一段階細くなっている。一方B4GTではフロントのスタビが細くなっているという。

Q/今回もツーリングボディは用意されますか? A/はい。こちらもしっかりアルピナしています! BMW ALPINA B3GT TOURING/今回ももちろんB3 GTにはツーリングボディが用意されている。車重が70kgほど異なるためダンパーやスプリングの設定はツーリング専用となっているが、そのドライブフィールはリムジンと遜色ない“ 驚速ツアラー”に仕上がっていた。

変更箇所をしつこく聞いていると、ステアリングや足回り、ソフトウェアのチューニングを担当するトビアス・ウィーガーは、物理的な変更は今回の改変の一部にすぎないと主張してきた。彼を含む10人のチームが1年がかりで仕上げたキャリブレーションの方が重要な役割を果たしているらしい。

スポーツシートやステアリング、サイドシル等にGTの文字が入ったインテリア。もちろんオーダー次第で徹底的に質感を上げていける点もこれまでのアルピナ車と同様だ。

ザクセンリンクはタイトコーナーが続く前半と、アルピナなら軽く200km/hを越える伸びやかな後半が合体したサーキット。最初にドライブしたB3GTの場合、前半は我慢を強いられたが、スロットルの全開率が上がり高低差も出てくる後半はスカイダイビングをするような爽快感が味わえた。

これまでのB4シリーズに加え、今回からB3 GTにも標準装着となった補強が目立つエンジンルーム。

正直なところ今回のサーキット試乗では34ps分のパワーアップは感じられなかった。完全にスタビリティの方が勝っていたのだ。ハンドリングに関して言えば、積極的な荷重移動でコーナーのエイペックスを狙うのではなく、AWD任せでスロットルを開け気味にして飛び込んでいけばクルマが帳尻を合わせてくれる感じ。ハイスピードツアラーを標榜するアルピナらしいドライバビリティといえる。

エンジンルーム内にはボーフェンジーペン親子3人のサイン入りプレートが備わる。

トラックDSCモードを選びタイトコーナーでリアを振り出そうとしたのだが執拗に粘る感じはスタビ変更の恩恵もあるはず。一方フロント側のボディ補強により前輪からのフィードバックが増えた結果、パワーアップの印象が抑えられているようにも感じられた。

グレーのボディにオロ・テクニコのアクセントが瀟洒なB4GT。試乗を前にアンドレアス・ボーフェンジーペン社長に印象を聞いた。すると彼曰くBEVのi4との関係性もありグランクーペの方がリムジンよりフロア剛性が高いことがキーなのだという。このためB4GTではよりハードなスプリングとダンパー、B5譲りのタイヤをインストールできたのである。

そう言われてみるとB4GTのリアタイヤの幅は印象的だった。B3GTの265に対し2サイズアップの285に設定されている。ちなみにフロントタイヤは255幅で同サイズとなっている。

最初の2〜3のコーナーで走りの違いは感知できた。AWDらしい盤石のスタビリティが前面に押し出されていたB3GTと比べ、B4GTは同じくAWDながら曲がるためのフロントと路面を蹴るリアタイヤの存在が、FR車のようにパラレルに感じられるのだ。

オロ・テクニコと呼ばれるゴールドがアルピナ・クラシック・ホイールに新たなイメージを与えている。

結果的にB4GTの方がメリハリのあるドライビングを許容する。コーナーに向けた初期の転舵が終わったら、B3GTよりも少なめのスロットル開度でエイペックスに付くのを待ち、リア2輪に目いっぱいのパワーをかけて脱出するイメージ。リアの電制LSDの締結もB4GTの方がわかりやすくなっていた。フロントのスタビを細くしたことでパワーアップに対するプッシュアンダーを抑えたセッティングということか。

エアダムの左右端に追加された黒いカナード。その効き目はBMWの風洞で確認済とのこと。

B3GTよりスポーティなキャラ付けがされているとはいえ、アンドレアス社長やトビアス・ウィーガーのコメントは一貫して「ベースモデルの特性を活かしつつ、アルピナらしさを追求したに過ぎない」という方向に収束する。

来年末でアルピナの商標がBMWに渡ることは既報の通り。今回はっきりと言及はされなかったが、B3/B4GTがブッフローエ・アルピナの最後のモデルという認識で間違いない。にも関わらず最後の瞬間まで花火も上げず、淡々と理想のクルマ作りを追求するスタンスは、これまでのボーフェンジーペン家の控えめな姿勢と見事なまでに符合していたのである。

BMW ALPINA B3GT/B4GT開発者インタビュー

BMW ALPINA社 CEO/アンドレアス・ボーフェンジーペン氏

Q/これまでで一番印象的なアルピナ車は?

A/E34のB10ビターボです!

今回の試乗会に歴代のクラシックモデルを持ち込み、自らも積極的にステアリングを握っていたアンドレス社長。BEVは好きですか? というちょっと意地悪な質問を投げかけてみると「私はウサギと亀なら亀の方がいいですね(笑)。でも亀でも飛び切り速い亀ですけどね。BEVは度々充電スポットに立ち寄らなければいけない。そうしているうちに私の愛車(D5 Sツーリング)なら目的地に着いています」というトンチの効いた答え。またこれまでで最も印象に残っているアルピナ車は、という質問には「私自身は開発に関わっていませんが、B10ビターボの速さにはしびれました!」とのこと。写真のGr.A車輛もアンドレアスさんがレースで戦った実車だ。

BMW ALPINA社 開発エンジニア/トビアス・ウィーガー氏

Q/今回のチューニング作業で目指した目標は?

A/リラックスして、速く走れること(いつもと同じ)!

アルピナ社によるセッティング作業はどのレベルまで深くやっている?「我々はBMWのコンピューターにフルアクセスできるから、走行部分のプログラムは専用に書き換えている。今回も全てのドライビングモードを完全にやり直したんだ。飛ばして走るのもいいけれど、ぜひコンフォートプラスの乗り心地も試してほしい。仕上がりにとても自信があるんだ」。
トビアスにセッティングについて質問する中で印象的だった一言がある。乗り心地が硬いor柔らかい? などと聞くと「うーん、そんなに簡単じゃないんだよなぁ」と考え込むのだ。アルピナ作りを根底から支えるエンジニアだけに、その言葉がとても重いものに感じられたのである。

ピレリ社/ニコ・ケスラー氏

Q/アルピナ用のピレリタイヤをひと言で表すとしたら?

A/“ベリースペシャル”だね。

国際試乗会には’15年からアルピナ御用達となったピレリの開発陣も参加していた。基礎開発はイタリアだが、チューニングと生産はドイツの拠点で行っているという。では開発の場はニュル? 「あそこは最終チェックだけだね。路面が荒れているのでタイヤのベースライン作りには向かない。普段はBMWがフランスに持っているテストコースか古い空港の直線路でやっている。その方がニュルより実際の走行条件に近いからね。アルピナは1車種1社のタイヤ供給だから専用タイヤ作りは難しくない。あと前後のサイズが違うことも作り分けを容易にしている。とにかくアルピナ用はベリースペシャル。交換時に銘柄を変更するなんてとんでもないよ(笑)」

【SPECIFICATION】BMWアルピナ B4GTグランクーペ
■車両本体価格(税込)=16,600,000円
■全長×全幅×全高=4800×1850×1440mm
■ホイールベース=2856mm
■トレッド=前:1593、後:1588mm
■車両重量=1965kg
■エンジン形式/種類=ー/直列6気筒ツインターボ
■内径×行程=84.0×90.0mm
■総排気量=2993cc
■最高出力=529ps(389kW)/6250-6500rpm
■最大トルク=730Nm(74.4kg-m)/2500-4500rpm
■燃料タンク容量=59L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:255/35ZR20、後:285/30ZR20

【SPECIFICATION】BMWアルピナ B3GTリムジン
■車両本体価格(税込)=16,000,000円
■全長×全幅×全高=4725×1827×1440mm
■ホイールベース=2851mm
■トレッド=前:1577、後:1572mm
■車両重量=1875kg
■エンジン形式/種類=ー/直列6気筒ツインターボ
■内径×行程=84.0×90.0mm
■総排気量=2993cc
■最高出力=529ps(389kW)/6250-6500rpm
■最大トルク=730Nm(74.4kg-m)/2500-4500rpm
■燃料タンク容量=59L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:ストラット、後:5リンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:255/35ZR20、後:265/30ZR20

【SPECIFICATION】BMWアルピナ B3GTツーリング
■車両本体価格(税込)=16,700,000円
■全長×全幅×全高=4725×1827×1438mm
■ホイールベース=2851mmm
■トレッド=前:1577、後:1572mm
■車両重量=1945kg
■エンジン形式/種類=ー/直列6気筒ツインターボ
■内径×行程=84.0×90.0mm
■総排気量=2993cc
■最高出力=529ps(389kW)/6250-6500rpm
■最大トルク=730Nm(74.4kg-m)/2500-4500rpm
■燃料タンク容量=59L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:ストラット、後:5リンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前:255/35ZR20、後:265/30ZR20

問い合わせ先=ニコル・オートモビルズ TEL0120-866-250

フォト=BMWアルピナ ルボラン2024年9月号より転載

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