自動車界のアイドルこと「ミニ」の本家本元である3ドアの最新モデルが上陸した。一番のトピックは待望のBEVを同時にラインナップしたこと。ここではICEモデルとBEVを連れ出し乗り比べてみた。
実は似て非なる2台のエクステリア
約10年ぶりのフルモデルチェンジとなるミニは、BMW製となって第4世代目。最大のトピックは電気自動車(BEV)仕様が加わったことだろう。ミニには過去に、限定的だったもののBEV仕様が存在していたが、新型からはついにいつでも誰でも購入できるモデルとなり、日本にも初めて正規導入された。今回からミニの車名は“ミニ・クーパー”がすべての仕様に適用されるようになったことも新しい。現時点での日本仕様は3ドアのミニ・クーパーC(396万円)とミニ・クーパーS(465万円)、5ドアのミニ・クーパーC(408万円)とミニ・クーパーS(477万円)、そして3ドアのミニ・クーパーE(463万円)とミニ・クーパーSE(530万円)の計6タイプで、“E”と付くモデルがBEV仕様となる。
EとSEの違いはモーターのパワースペックとバッテリー容量で、Eは184ps/290Nmを発生し40.7kWhのバッテリーを、SEは218ps/330Nmを発生し54.2kWhのバッテリーを搭載。航続距離はそれぞれ305kmと402kmと公表されている。
いまはまだ、BEV仕様を選ぶと自動的に3ドアになってしまうけれど、将来的には5ドアが追加されるかもしれない。日本でも、内燃機仕様は発表当初は3ドアのみだったが後から5ドアが追加されている。今回の試乗車は内燃機仕様も3ドアだったので、BEV仕様との比較にはちょうどいい。
この2台、並べてみるとぱっと見はほとんど同じように見える。ところがディテールに目をやるとずいぶんと違っていて、「似て非なる」とはまさにこのことだ。
そもそも、新型ミニは内燃機とBEVでプラットフォームが異なる。内燃機は従来型の改良版であるのに対して、BEVは新たに開発されたまったく新しいアーキテクチャーである。それを示すひとつがホイールベースだ。内燃機のSは2495mmだが、BEVのSEは2525mmで30mmの差がある。SEにしてみれば、バッテリーを少しでも多く搭載できるスペースが欲しいので、ホイールベースは長いほうが好ましい。Sにしてみれば、ホイールベースが長くなると曲がりにくくなってミニの真骨頂である“ゴーカートフィール”が薄れてしまうから、ホイールベースは短いほうがいい。結果的にそうなっただけとも言えるけれど、両車にとってはいずれも都合のいいホイールベースである。一般的に、ホイールベースが長いほうが小回りは利きにくくなるが、最小回転半径はホイールベースの長いSEのほうが小さい。これは、専有容積の大きいエンジンをフロントに抱えない分、前輪の切れ角を多く取れたからではないかと推測できる。BEV特有のパッケージを有効活用できるのも、専用のプラットフォームのおかげだろう。
Aピラーの角度も、SEのほうがわずかに寝ている。前面投影面積を小さくして空力的優位性を確保するためと思われる。ドアハンドルがSのグリップ式に対してSEはボディとツライチになっているのも同様の理由だろう。ホイールベースとAピラーの角度が違うのに、ぱっと見ではほとんど同じエクステリアデザインを完成させたデザイナーの力量は素晴らしい。
両車の室内では、お馴染みの円形大型ディスプレイが圧倒的存在感を放っている。これには有機ELが採用されていて、明るく高精細に映る。機能の多くはディスプレイ内に組み込まれ、機械式スイッチの数は減ったものの、ドライブモードを選ぶトグル風スイッチや、キーを捻るように扱うスタータースイッチなど、細部にはこだわりが見てとれる。ユニークなトリムの素材やデザインなども含め、ミニはこうした独自の雰囲気をプロデュースするのが上手い。ちょっと遊び過ぎと感じる方もいるとは思うけれど、唯一無二の空間選出をしていることは確かである。メーターパネルは存在しないが、日本仕様はヘッドアップディスプレイが標準装備となるので、必要最低限の情報は視線を大きく動かすことなく目の前で確認できる。
エンジンとモーターで異なる走りのキャラクター
内燃機仕様のCは1.5Lの直列3気筒ターボ(156ps/230Nm)を搭載し、今回の試乗車であるSは2Lの直列4気筒ターボ(204ps/300Nm)を積んでいる。
トランスミッションは7速DCTのみ。このパワートレインの所作も含め、正直なところ内燃機仕様の乗り味は従来型と大きく変わっていないように感じられる。4気筒エンジンはストレスなく高回転域まで気持ちよく回り、パワーもトルクも1320kgの車体を動かすには十分。
DCTとのマッチングにも優れ、まったく申し分のない動力性能である。操縦性はまさしくゴーカートフィールそのもので、曲がるというよりは横に動くような挙動が特徴。車検証によれば前後重量配分は62:38で、数値では明らかなフロントヘビーなのだけれど、頭が重い感じもリヤの接地感が頼りない感じもあまりしない。乗り心地は相変わらずちょっと硬めだが、従来型よりは若干穏やかになったかもしれない。ミニ好きのファンの期待を裏切らない味付けになっている。
“エンジン・ミニ”を血気盛んな20代の若者とするならば、“エレクトリック・ミニ”は落ち着きの出てきた40代の紳士という印象である。この印象の違いの主たる原因は、320kgもの重量差に他ならない。ミニに限らず、BEVには総じて言えることだけれど、重いバッテリーを床下に敷き詰めると、重心は下がるしフロアは強固になるので、乗り心地は向上し重厚感(実際に重い)も出る。ましてやSEは、Sの1・3トンからの320kg増である。2トン超えの320kg増とはワケが違う。
クルマの挙動に与える影響は大きく、例えばステアリングを切ってからターンインまでの所要時間はSよりもかかる。もちろん、だからといってダルな印象はなく、操舵応答遅れが顕著というレベルでもない。操縦性にしても乗り心地も、SEは全体的にゆったりしている。
加速感もBEVらしく力強いが速度はジェントルに上がっていく。こうした動的質感が大人っぽい雰囲気を醸し出しているのだろう。これがBMWの狙った味付けなのかどうかはよくわからないけれど、両車のキャラクターの違いはエンジンかモーターかだけではなく、趣の差違にまで及んでいた。
【SPECIFICATION】ミニ クーパーS(3ドア)
■車両本体価格(税込)=4,650,000
■全長×全幅×全高=3875×1745×1455mm
■ホイールベース=2495mm
■車両重量=1320kg
■エンジン形式/種類=直4DOHC16Vターボ
■総排気量=1998cc
■最高出力=204ps(150kW)/5000rpm
■最大トルク=300Nm(30.6kg-m)/1450-4500rpm
■燃料タンク容量=44L(プレミアム)
■燃費(WLTC)=15.3km/L
■トランスミッション形式=7速DCT
■サスペンション形式=前:ストラット/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:215/45R17
【SPECIFICATION】ミニ クーパーSE(3ドア)
■車両本体価格(税込)=5,310,000円
■全長×全幅×全高=3860×1755×1460mm
■ホイールベース=2525mm
■車両重量=1640kg
■モーター形式/種類=交流同期電動機
■モーター最高出力=218ps(160kW)/7000
■モーター最大トルク=330Nm(33.6kg-m)/1000-4500rpm
■バッテリー容量=54.2kWh
■サスペンション形式=前:ストラット/コイル、後:マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前後:205/50R17
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-3298-14