VUL(軽商用車)ベースの2 ボックスMPVとして日本でも不動の人気を誇るベルランゴがマイナーチェンジ。5人乗りモデルも3 列7人乗りモデルも同時に切り替わった。シトロエンの最新フェイスと新ロゴをまとった外観以外にも様々にブラッシュアップが施された。
愛嬌あるワークスタイルと柔らかな動的質感が正常進化
今回、ベルランゴに試乗する直前、たまたまラスベガスでピックアップトラックを走らせ、その感覚が身体に沁みていたせいか、「働くクルマ」ベースの乗用車モデル特有の(いい意味での)ユルさや大らかさの素は何か? を考えさせられた。プロの道具というは易しだが、乗用車である以上、それでは結論にはならない。
米国慣用単位の世界でライトorミディアム・デューティをこなすのがピックアップトラックなら、欧州大陸のメートル法の中ではベルランゴ・バンが長年ベストセラーを張るVCL(Véhicule CommercialLéger)」。商用車として最小単位のものが乗用車に転じられるものの、日本で相当するのは軽トラでなくハイエース辺りで、あれこそ3で割りやすい尺貫法に合った一台なのだろう。
つまり日々、手元で扱う積み荷や走る道に対して最適化されたクルマだからこそ、メートル法にかなりの部分準じた今の日本で、「ワーク系MPV」のベルランゴは余裕、そして持て余さない手頃さを両立している。そのパネルバンならEU標準の積載パレット(幅1200mm)をフォークリフトで収めるため、室内幅は狭い部分でも1229mmある。乗用車版では内張りで少し失われるが、使いやすいスペースは必然からデザインされ、生まれているのだ。
だがベルランゴの魅力はプロユース仕込みの積載性だけではない。マイチェンで乗用車としての魅力をキチンと磨き上げてきた。
前期型と比べ劇的な変化はフロントマスク、つまり新しいシトロエン顔だ。ダブルシェブロンを浮き立たせた新ロゴも凝った意匠で、実物は全体的に写真で見るよりずっとファニーといえる。
室内で中央のタッチスクリーンが8インチから10インチへ拡大された。メータークラスターもアナログ式から横長スクリーンのデジタルに変更され、表示もグラフィックも鮮明で見やすくなった。
センターコンソールも最初期型のように張り出しタイプではなく、前列シートを左右に分けシャッター×2枚で収納スペースを覆うカタチに。シフトもダイヤル式から指先レバースイッチとなる。ドライブモードは「ノーマル」「エコ」の2種類のみで「コンフォート」をあえて設けずデフォルトとするところがシトロエン流。ステアリングは従来の3スポークから水平2本スポーク、かつ上下がややフラットで楕円化されている。
運転支援機能もこのステアリングスポーク上に移され、進化。ミリ波レーダーが加えられ停止後3秒以内なら再発進、いわば渋滞の中でより賢いACC制御になった。巡航時もレーンポジショニングアシストが追加されている。
それでもクルマに任せ気味より積極的に走らせる方に、ベルランゴの本分はある。一貫して優しい乗り心地が低速から持続する一方、首都高の速度域ぐらいでもロール感のスリリングさ、正確な舵の効きは十分に味わえる。停止直前に1速に入るとやや前のめりショックは伝わって来るが、それこそフル積載で登り坂発進の時に頼もしい商用車由来のローギアードぶりなので、あばたもエクボと解釈すべきところだろう。
いわばプロユース由来のクルマを日常に供する「アウトフィット」が前提ならば、ベルランゴは大らかに構えられる乗り手にはこれぞ、という一台になる。だから逆説的かもしれないが、今どき珍しいほどベルランゴをはじめとするフレンチMPVには上品な客筋が付いている。ソフトパワーに秀でたクルマって、そういうことなのだ。
【Specification】シトロエン・ベルランゴ MAX BlueHDi
■車両本体価格(税込)=4,390,000円
■全長×全幅×全高=4405×1850×1830mm
■ホイールベース=2785mm
■トレッド=前:1555、後:1570mm
■車両重量=1600kg
■エンジン型式/種類=直4DOHC16V+ターボ
■内径×行程=75.0×84.8mm
■圧縮比=16.4
■総排気量=1498cc
■最高出力=130ps(96kW)/3750rpm
■最大トルク=300Nm(30.6kg-m)/1750rpm
■燃料タンク容量=50L(軽油)
■燃費(WLTC)=18.1km/L
■トランスミッション形式=8速AT
■サスペンション形式=前:ストラット/コイル、後:トーションビーム/コイル
■ブレーキ=前:Vディスク、後:ディスク
■タイヤ(ホイール)=援護:205/60R16
問い合わせ先=ステランティスジャパン TEL0120-55-4106
この記事を書いた人
1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。