
KW(ケーダブリュー)といえば、ドイツを拠点とした世界最高峰のサスペンションブランドだ。その世界的ブランドが、アルファード、ヴェルファイア(以下アルヴェル)用とハイエース用のサスペンションキットを完成させた。どちらも日本でこそ超有名なクルマだが、欧州では日本のミニバンは走っていないし、ハイエースはゴリゴリの日本を代表する商用車。そんなクルマ用にモータースポーツで磨き上げられたブランドから発売されるサスペンションとは一体どんなものなのだろうか。
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ちなみにKWには、減衰力固定式の「KW V1」、1WAY減衰力調整式の「KW V2」、伸び側と縮み側に減衰力調整機能が付いたスポーツモデルの「KW V3」、100%モータースポーツ仕様の「KW V3レーシング」、純ストリート用では初の3WAY・減衰力調整式「KW V4」、3WAY減衰力調整式のコンペティショナルな「KW V4レーシング」、4WAY減衰力調整式のレーシングモデル「KW V5レーシング」、5WAY減衰力調整式の究極のレーシングサスペンション「KW V6レーシング」など、実に幅広いラインナップが揃っている。
そんなモータースポーツの現場で鍛え上げられたKWには日本のファンも多く、アルヴェル用のKWサスペンションキットの登場を待ち望んでいたお客さんがたくさんいる。そしてようやく入荷された待望の品が今作、KW「V3」と「V3レベリング」だ。先行発売している30系用に引き続き、アルヴェル40系用としての正式入荷はKWジャパンにとっては初。それをここで紹介したい。

アルファード用V3。
アルヴェルの前型となる30系は、ドイツ本国のKWスタッフが来日しデータを詳細に計測、ドイツ本国に持ち帰り商品化に至った経緯がある。それに対し、今回の40はKWジャパンのスタッフが純正のノーマルサスペンションに対し、荷重が掛かった時のストローク量やコーナーウエイトなど、開発に必要なデータを多方面から調べ尽くし、その詳細な情報をドイツのKWスタッフと共有。そのデータをもとにドイツ本国のKWスタッフが試作品を製作、その日本とドイツのやり取りを何度も重ねて今回ようやく商品化に至っている。重ねていうが、日本のミニバンが欧州で販売されていないこともあり、このアルヴェル用がKWの商品としてラインナップされていることが特例なのだ。
さて、今回40アルヴェル用として設定されたKW V3とV3レベリングについて紹介すると、V3の目指すカテゴリーは「ストリートパフォーマンス」。ストリートの使用条件の中でいかに快適で、しかもスポーツにも対応できるかがそのコンセプトだ。そしてもう一方のV3レベリングが目指しているコンセプトは「ストリートコンフォート」だ。
ローダウン派にオススメ! 「ストリートパフォーマンス」がコンセプトのV3
では、まずV3から紹介しよう。V3自体は以前にも紹介したことがある商品だが、40用の正式な商品としては今回が初披露(以前はプロトタイプでの紹介)。後部座席に乗せる乗員を快適に移動させるパッセンジャーカーとしての位置付けが主となる高級ミニバンの40系アルヴェルだが、ドライバーであるオーナーが“ミニバンでも乗り味が楽しい!”と思えるハンドリングの楽しさも味わえるのが最大のポイントだ。ロール量を抑えたおかげで、腰高なのにスッとコーナーを曲がっていける乗用車のような乗り味が楽しめる。長距離ドライブを快適にこなすセッティングでもある。
V3は車高を下げてカスタムを楽しみたいローダウン派をターゲットにしていることもあり、大人の車高として30~45mm程度、指1本から2本くらいの車高ダウンが楽しめる。しかも車高を下げても乗り心地が損なわれないのが特徴だ。
純正の足回りをさらに上質かつ快適に。純正車高派向け「ストリートコンフォート」がコンセプトのV3レベリング
そしてもう一方がV3レベリング。こちらも車高は10mm程度下げられるものの基本的にはノーマル車高推奨モデル。アルヴェルの乗り心地を少し変えたい……、という人向けのサスペンションだ。スプリング下にラバーシムを設け車高を下げない分、ダンパー全長もV3とは微妙に異なる。外観こそ似ているものの、ストローク量、減衰力といった中身は差別化が図られている。スプリングも自由長やバネレートもV3とは異なるものだ。

アルファード用V3レベリング・サスペンションキット。
どちらも同じ2WAY式が採用されているが、カスタムを想定しているV3よりは「タイヤ&ホイールは純正のまま、車高も下げたくない……」という通常ユーザーをターゲットにしているのがこのV3レベリングといえる。
コンセプトでもある「コンフォート」という言葉だが、日本人が受けとると“フワフワ”としたイメージに感じるだろうが、KWの定義では、どれだけフラットな状態で走っていけるかがその解釈で、固い足回りを柔らかくするというのとは若干意味合いが違う。高速道路など上下にフラつく現象などをフラットに維持するようなイメージ。昔の高級車のようなフワフワしたイメージとは違うものなので勘違いしないようにしたい。

アルファード用V3レベリング・フロント・ラバーシム。スプリングシートの上に直接スプリングが載るV3(スプリングもフラット形状にカットしている)に対し、V3レベリングには専用のラバーシム(黄色いスプリング下の黒い部分)が付属。ストラット形状の足回りはハンドルを切るごとにダンパーが動くのが特徴だが、スプリングとダンパーのそれぞれに荷重が掛かる際に微妙なネジれを生む。その際に少し異音を発生させることがあることがあるが、スプリングの巻き方も純正に準じてカットせず、付属されるラバーシムが緩衝材となり異音をまず発生させないのが特徴だ。
そして車高に関しては、40アルヴェルには標準でモデリスタのエアロを装着しているオーナーも多いと思うが「車高は下げたいけど諸般の事情で下げられない」という人が意外と多い。でも乗り味は変えたい、そんな人にこそこのV3レベリングがオススメだろう。2&3列目によく人を乗せるパッセンジャーカーとしての役割を期待するなら、その乗り心地の良さからも非常に満足してもらえると思う。このあたりはカスタム目的なのか乗り味重視なのか、どちらを希望するかでいいだろう。

アルファード用フロント伸び側調整ネジ。
40系アルファードは40〜50km/h程度の一般道では非常によく出来た純正の足回りだが、徐々にスピードを増していくと、腰高な大型ボディのため、フラつきや段差を越えた際の戻りの悪さを感じることがある。このKWのV3やV3レベリングはその微妙な違和感を実に快適にしてくれる足回りなのだ。

アルファード用V3レベリング・フロント・縮み側調整ネジ。
ちなみにこのV3、V3レベリングに付属する伸び側、縮み側の調整機能だが、ひとつのセールスポイントではあるものの、本質的にはそれよりも中に入っているバルブ=ツインバルブ機能を有することが重要だ。伸び側16段、縮み側12段のバルブの調整機能をマメに使えばアンダー、オーバー、ノーズダイブなどの姿勢変化を使いこなしたいステージに合わせて自分好みにセッティングできるのが特徴だが40のオーナーにとっては、初めて乗った時に多少固め、柔らかめに調整することはあったとしても、その後たびたび調整することはほぼ必要ないだろう。本来はスポーツカーをターゲットとしたその調整機能だが、それよりはV3、V3レベリングに与えられた上質な乗り味として純粋に楽しんでほしい。

アルファード用リヤ伸び側調整ネジ。
この40アルヴェル用のV3とV3レベリング、同時発売で価格も同じ。機能面でも伸び側と縮み側の両方に調整機能が付く2WAY方式を採用するなど、両者の実力はほぼ同じ。その違いは、車高を下げたカスタムベースとして使いたいV3か、純正よりもさらに快適に乗り味を安定・進化させたいV3レベリングか。それぞれの目的に応じて選んで欲しいと思う。
高性能なサスペンションにこそ相応しいBremboとBBS

日本仕様ではMade in Japanの刻印が入るBBSホイールだが、これはMade in Germanyの刻印入り。フローフォーミング製法で軽く、強くを実現した鋳造ホイール。9×21。タイヤはミシュラン・パイロットスポーツS5(245/40-R21)。
ここでこの40系アルファードに装着されているブレーキキットとホイールについても少し触れておきたい。BBS伝統の代表的なデザインのひとつである5本クロススポークを採用したBBS CI-Rアンリミテッドの前後21インチホイールと、KWオートモーティブグループに属するBBSジャーマニー製のホイールだ。BBSジャパンの鍛造モデルに対し、こちらはフローフォーミング製法で軽く強く製造された鋳造モデル。リムにはMade in Germanyのロゴが刻印されている。純正比2インチアップによる扁平タイヤ装着、バタつき、路面からの衝撃、突き上げなどが解消されているのもサスペンションにKW V3/V3レベリングを装着していることによるものが大きい。ノーマルと同じくらい気にならないレベルになっている。

P.C.D.120への変換アダプターを使用しP.C.D.114.3のホイールも装着。インセットもP.C.D.も自由に変更できる車高は約30mmダウン。スペック的にはまだ下がるものの余裕を持たせたシルエットとなっている。
そしてフロントブレーキにはブレンボのGTキットを装着している。6ポッドキャリパーと、38φ口径の2Pフローティング構造のドリルドローター。通常のブレーキキャリパーと比較すると、ブレンボ独特のシルエットとすることで、類似品と被らない唯一無二な存在感が楽しめる。ブレーキは初期制動から効くようにすると逆に街中で乗りにくさも感じることがあるが、その点このブレンボのブレーキキットは、踏み込んだら踏み込んだ分だけ止まるようなマイルドなセッティング。特に車好きではない奥様がドライブしても乗りにくさを感じることはまずない。ただ装着する際にはキャリパーの高さも出てくるためマッチングするホイールとの相性には注意して選んでほしい。

アルファード用BREMBOブレーキキット。
伸び側と縮み側、2WAYでの減衰力調整式KWからハイエース用がリリース開始!
ハイエース用V3レベリングの発表は昨年の11月に先行して行われ、今年の東京オートサロンでもすでに展示されていた。ハイエースのダンパーとしては他社に比べて高価な品となるものだが、比例するように装着ユーザーの満足度は「かなり満足している!」と相当に高いのが特徴だ。当初KWジャパンからのリクエストに対し、ターゲットがハイエースと聞いたドイツ本国のKWスタッフは「この商用車に(高性能なサスペンションである)V3は必要なのか?」という反応だったという。

ハイエースに装着のホイールは純正、タイヤはダンロップSP175n(195/80-R15)。フロントにモデリスタのリップスポイラーが装着されている。ハイエースのカスタム市場では、純正車高のままでオフロード系のブロックタイヤにするアゲ系カスタムが流行りだが、乗り心地は維持されてもロードノイズが出ることを考えるとKW本来のパフォーマンスを期待するなら極力上質なロードタイヤをオススメしたい。
KWジャパンが数あるラインナップの中から「V3レベリング」をハイエース用に選んだ理由として「ノーマル車高をベースとしているので、カスタム面での選択ではなく、ハイエースをハイエースとして使っている方に向けてご提案しています。キャンプ、アウトドアなどのファミリーユースから、バイクなどを積んでのトランポ仕様、仕事で1tクラスの荷物を満載するなど、ハイエースへの積載量は仕様用途によって大きく変わりますが、“純正車高で乗りたい”という希望に対してオールマイティに使え、純正から格段に改善された乗り心地を楽しんでもらえます」。

ハイエース用のサスペンションキット。
ご存知のとおり、ハイエースは荷物が大量に積めるようフロントがトーションビーム、リヤがリーフスプリングという商用車としてのサスペンション形状を採用している。200系は熟成を重ね、せっかく内装も快適となっているのに「乗り心地が悪い…」と諦めている購入希望者も多く存在するほど。乗用車から比べるとチープなその足回りが「ダンパーひとつで乗り心地が変わるのか?」というワケだ。

縮み側_調整ダイヤル。
実は以前から、プロショップからハイエース用へのリクエストがあり、KWレーシングをベースに特注サスペンションキットをワンオフ製作して対応していたという。その評判の良さと市場からの多くのリクエストにより量産化への道が開けたモデルなのだ。ハイエース用の一般的な市場価格からは離れるが、本当にそれに見合うだけの性能を発揮する。
昨年秋にKWディーラー向けの試乗会を富士スピードウェイで開催したところ、86やBMW・M2などのスポーツモデルを差し置いて、一番評判がよかったモデルがこのハイエース用V3レベリングだった逸話もあるぐらいだ。

伸び側_調整ダイヤル。
余談だが、今回量産化が決定したこのハイエース用V3レベリング。上下がラバーブッシュとなったが、それまでのワンオフモデルは上下ピロボール仕様で対応していたのだとか。だから、V3レベリングでは車高が下げられないが、やはりKWのサスペンションが欲しい! という車高を下げたいカスタム派には、そのワンオフ仕様はまだ製作が可能なので、ローダウン派のハイエースカスタムユーザーはそちらを利用してもいいだろう。
さて、話がそれたが、現在発売されているハイエース用V3レベリング。フロントのトーションバーやリヤのリーフスプリングは純正をそのまま使用し、ダンパーのみを交換する仕様となる。「スプリングは純正そのままで乗り心地に問題はないの?」という疑問も出てくると思うが「スプリングがあるからこの乗り心地というわけではない。スプリングレスでもこの乗り心地は実現できる」とドイツ本国のKW開発スタッフからはダンパーに対して絶対の自信があるとのことだ。「我々は“この乗り心地に疲れた…”というハイエースユーザーがターゲットです。付けてもらえれば違いが良くわかると思います。劇的に乗り味を変えたい、それなら試す価値アリです」。とはKWジャパンの開発担当者の弁。ここで、実際に装着してみたハイエースユーザーからの声も紹介しておこう。

商用車のハイエース用だが、すべてをV3クオリティで製作。何度もアスファルトを張り替えたような荒れた市街地の路面を試乗しただけでもその効果はすぐに体感できた。突き上げ時にもかかわらず角の取れた滑らかな乗り心地。高速道路ならロール量が顕著に減り安定感はさらに増す。
「今まで使ってきたどのショックより乗り心地がいい」「上り下りのカーブで減速しないでも曲がれてしまう」「街乗りでコーヒーがこぼれてしまうことなく乗れる」「柔らかくすると上下の動きの収まりが悪くなり左右のロールで振り返しのようなお釣りが来る感じがする。逆に硬くすると路面からの突き上げや路面のつなぎ目などの振動が伝わってしまう。どちらかを満足することはできても両方とも満足できるものはこれまで無かった。でもこのKWのダンパーはどちらも満足できるものだと思う!」とのこと。

ハイエースのリヤサスペンション。
日本では、このハイエースは単なる商用車ではない独自の文化を生み出している。フルカスタムされたハイエースから、キャンピングカー、もちろん職人が乗る現場車まで多種多様な使われ方をしている。だからこそ「ハイエースにKW?」というこれまでカスタムに興味のなかった人にこそ、このサスペンションキットをぜひ使ってみて欲しい。特に重量が重くなっているキャンピングカーもフォローできるほど、このKW V3レベリングの実力は本物なのだ。

ハイエースのフロントサスペンション。
KWサスペンションの詳細はコチラから