迫力のあるカーアクション・シーンが見どころのひとつである映画「007」シリーズ。最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」でもアストン・マーティンDB5のボンドカーが縦横無尽に活躍するが、いったいどうやって撮影したのか? その秘密を探るため、イギリスのシルバーストンで行われた特別なイベントに“潜入”してきた。
ジェームズ・ボンドの危機一髪を救うDB5
狭い広場で周囲を敵に囲まれてしまうジェームズ・ボンド。自慢のボンドカー“アストン・マーティンDB5”は防弾処理が施されているため、マシンガンの激しい銃撃を受けてもとりあえずは安全だが、このままいけば間違えなく捕らわれの身になる。そのとき、コクピットのスイッチを操作するとDB5のヘッドライトから機関銃が現れ、ボンドがスピンターンをさせると敵を一網打尽にする……。
4月10日にロードショーが始まる新作映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の予告編では、そんな迫力あるシーンを楽しめるが、これらはCGを使うことなく、“実車”を用いて撮影されたことを皆さんはご存じだろうか? 「まさか、いまや市場で1億円は下らないDB5をそんなことに使えるはずがない」と思うのも無理はないが、これは本当の話。この撮影を実際に担当したスタント・ドライバーのマーク・ヒギンズはわれわれにこう語った。
「巷の映画はいまやCGばかり。007ではそれらと異なるリアリティを演出するため、カーアクションのシーンはすべて“実車”を用いて撮影されました。あの広場のシーンもそうです」
では、本物のDB5をあの撮影で使ったのかといえば、その答えはイエスでもありノーでもある。実は、この映画のためにDB5と寸分違わぬ“スタントカー”を製作し、DB5のカーアクションはすべてこれを用いて撮影したのである。アストン・マーティン・ワークスでスタントカーの開発と製作に携わったベン・ストロングがそのトリックを教えてくれた。
「開発に際して映画制作会社から要求されたことが主にふたつありました。ひとつは、何度でも同じ動きが再現できる耐久性を備えていること。そして優れた安全性を確保していることです」
スタントカーの内部にはいかにも頑丈そうなロールケージが張り巡らされ、カーボンコンポジット製の現代的なバケットシートと5点式フルハーネスが装備されているのは、要求された安全性を確保するため。なんとFIAが定めたモータースポーツ用の安全規格に準拠して製作されたそうだ。
「ボディパネルはDB5とまったく同じ形状のものをカーボンコンポジットで作り直しました。シャシーはラリークロスなどで用いられるモータースポーツ用の素材を組み合わせて製作しています。エンジンが何であるかは、残念ながら申し上げられません」
ストロングはそんなことも話してくれた。