一般のクルマ好きにとっては、ミニチュアカーといえば買ってくるモノ、飾るモノ。ところが、ちょっと変わった好き者がいる。それが今回ご紹介する「モデラー」という人種。彼らにとってミニチュアは、作るモノなのだ。
実車の発売を前にこの完成度!
ところで、モデラーにも色々なジャンルが存在するのをご存知だろうか? プラモデルを組み立てて楽しむのもモデラーだが、何もないところからすべてを自作してしまう、フルスクラッチのモデラーという人々もいる。今回はそんなモデラーの中から、とあるマツダ党のスクラッチモデラー”Katsu”さんが製作した「ロードスター」と、その製作工程の一部をご紹介しよう。その仕上がりばかりでなく、手のかけ具体は驚きの連続だ。
タイトル画像のロードスター(ND型)をご覧いただきたい。クルマ好きでなければ、写真を見てもモデルとはほとんど気付かないに違いない。しかもこのモデル、実車が発売される前(!)に、写真や資料をベースにKatsuさんがフルスクラッチで製作した作品なのだ。
製作者のKatsuさん、本業は製造業の設計者(車・模型関連ではない)であり、モデル作りは完全なる趣味。そして実車はマツダばかりを乗り継ぐ自他ともに認めるマツダ党である。そのため、Katsuさんが製作するモデルはマツダ車ばかりだ。
製作工程は資料収集から始まる。まずはネットで大量に画像を入手。その中でも、上面図・側面図を有効活用したそうだ。ボディの製作は、なんと完全なる削り出し。ケミカルウッドという、おもにポリウレタンに人工的に木材の性質を持たせた素材を、彫刻刀などで削り出して行く。最初は形が見えないので、「本当にできるのか?」と不安になるという。削り出す作業は、写真を見ながらひたすら削り込み、削りすぎた所はパテで補修しながら加工を進める。エクステリアの目処が立ったところで、内部をくり抜く。製作開始からボディの削り出し完了までちょうど10日かかったというが、目論見通りケミカルウッドの削り出しは作業が早く進んだそうだ。
ボディだけでなく、構成パーツも一点一点、手作りである。例えば、シートの製作工程をご紹介しよう。まずはプラ板でざっくりとシート形状の囲いを作る。そこへ離型剤を塗布してからポリパテを充填。ポリパテが固まったら囲いをバラして、素材となるポリパテの塊を取り出す。その後、フィッティングを確認しながら削って行き、最後はスポンジヤスリで滑らかに仕上げる。それらしく見せるコツは、縫製を意識して中にクッションが詰まっている感じをやや強調気味にすることであるという。筋彫りも、単に筋を彫るだけでなく、引っ張られてそこから曲面が始まるような感じで削るという。もはや、熟練職人の域だ。そしてホイールや内装の各部を同じような手作業で製作。塗装をして、ようやく完成する。
製作の実作業開始から完成までは、半年から長いもので3年あまりになるという。これほど手をかけた作業が成せるフルスクラッチビルドの魅力とは、どのようなものなのだろうか?
「人間は10本の太い指を駆使することで、0.1mm以下の精密な加工さえ可能です。手はどんな工作機械にも勝る万能ツールなんですよ。ただのブロック、チューブに入ったパテ、プラスチックの板が徐々に形を変えて魂を帯び始めます。そんな作業に魅せられてしまったのです。作品が完成した時は、文字通り、感無量ですね。自身が生み出したボディの面やライン、小さなディテールのすべてが愛おしい。物を作るということは、本当に素晴らしい。フルスクラッチは、その醍醐味を存分に楽しめる究極の趣味です。完成後にまた手を見ては、無限の可能性にワクワクしながら、新たな感動を欲して次の作品を作り始めてしまうのです」
いやはや、奧深きモデラーの世界…今後もKatsuさんには、この趣味の道を究めていただきたい!
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Text:Reggy KAWASHIMA Photo:Katsu
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