平戸島・川内峠(No.086)
海と草原の織りなす日本離れした風景を駆け抜ける。
幅500mほどの狭い海峡をはさんで、九州本土と向き合う平戸島。周囲約200km、日本で20番目に大きなこの島の北部には、標高500m前後のなだらかな山が連なっている。この小高い起伏を東西にゆったりと越えていくのが川内峠である。
平戸の町外れから西に向かって伸びる峠道の全長はおよそ6.5km。最高地点も267mと低いので、ただ走り抜けるだけなら15分もかからない。実に可愛らしい峠道なのだ。
ただし峠からの眺望は息を呑むほどすばらしい。常緑樹がトンネルのように生い茂る山麓を抜けると、目の前に草原が広がり、眼下には美しい入り江と島々が見えてくる。峠の手前で右手に広がるのは玄界灘(日本海)、ピークを越えると正面に姿を現すのが五島灘(東シナ海)。峠のサイズのわりに、眺めのスケールはかなりでかい!
海辺の草原という日本離れした風景を眺めながら、どこかで見たことあると考えていたのだが、ふと思い当たったのは信州のビーナスラインだった。草原のうねり具合といい、道の絶妙な曲がり具合といい、車山肩から霧ヶ峰あたりの風景とよく似ている。
川内峠に足りないものといえば、草原の向こうにそびえ立つアルプスや乗鞍の姿。しかし、その代わりここでは、空気の澄みわたった日には、大海原の彼方に対馬や五島列島の島影がくっきり浮かび上がるという。
◎正式名称/平戸市道・県道19号
◎区間距離/14km(平戸-生月大橋)
◎冬季閉鎖/なし
◎撮影時期/10月下旬
サンセットウェイ(No.087)
断崖と大海原の間を抜けていくシーサイドの快走路。
平戸島の西北端から、つい最近まで有料だった美しいトラス橋で渡る生月島。ここは遣隋使や遣唐使の時代、大陸から帰還する人々がその島影を認めてホッと一息ついたことから「いきつき」と呼ばれるようになったという。その生月島の西海岸に延びるのがサンセットウェイ。そそり立つ断崖と美しい海に挟まれた道は、ガードレールがほとんどなく、すばらしい展望が広がる。東シナ海に日が沈む夕暮れ時だけでなく、いつ走っても爽快な気分を満喫できる。
◎正式名称/地方道
◎区間距離/約10km(塩俵-生月大橋)
◎冬季閉鎖/なし
◎撮影時期/10月下旬
県道18号・ 九十九島(No.088)
点在する島の密集度は日本一ともいわれる。
九州本土の西北端近くに位置する佐世保。その西海岸には九十九島と呼ばれる無数の島々が浮かんでいる。そのうち、北九十九島と呼ばれる美しい眺めを堪能できるのが、国道204号・平戸街道から枝分かれして、海沿いを抜けていく県道18号である。ルート沿いには冷水岳(ひやみずだけ)展望台、長串山公園展望所をはじめとする絶景スポットが点在。島の密集度は日本一ともいわれ、宮城の松島や熊本の天草松島とも並び称される多島美をたっぷり味わうことができる。
◎正式名称/県道18号佐々鹿町江迎線
◎区間距離/24km(鹿町-小浦)
◎冬季閉鎖/なし
◎撮影時期/5月上旬
ご当地情報
A:ザビエル記念聖堂
日本にキリスト教を伝えた宣教師の像が立つ
フランシスコ・ザビエルの乗るポルトガル船が初めて平戸に寄港したのは天文19年(1550年)のこと。以来、ザビエルは3度にわたって平戸を訪ね、活発にキリスト教の布教活動を行なった。教会の正式名称は平戸カトリック教会。この建物の脇にザビエル像があることから、聖フランシスコ・ザビエル記念聖堂と呼ばれている。
●見学無料(無料駐車場あり)/6:00-17:00(日曜は10:00頃-)/平戸市鏡川町269/Tel:0950-22-2442
B:湖月堂老舗
かつては藩主だけしか味わえなかった幻の名菓
カスドースというのは、カステラとともにポルトガル船員によって伝えられた西洋菓子の一種。耳の部分を落としたカステラを一口大にカットし、卵黄と蜂蜜でくるんで油揚げにしたもので、上品な甘みと濃厚な風味をもつ。湖月堂は創業400年あまりの老舗。かつては藩主に献上され、一般大衆は口にできなかったという。
●8:00-18:30 /無休/平戸市岩の上町1247-2(平戸物産館内)/Tel:0950-22-2063
C:川内峠展望台
かつては徒歩で行き来した大パノラマの川内峠
川内峠の駐車場にクルマを置き、草原の遊歩道を300mほど登ると、かつて旅人たちが徒歩で行き来していた旧道の峠に出る。この展望台からの眺めがまた格別で、ゆったりと大きな弧を描く川内峠の道、入り江に浮かぶ島のひとつひとつが手に取るように見てとれる。歌人の吉井勇の「山きよく海うるわし」の歌碑が建っている。
●平戸市大野町/Tel:0950-22-4111(平戸市観光課)
ご当地情報
D:たびら平戸口駅
一般の鉄道駅では日本で最も西に位置する
私鉄・松浦鉄道の駅で、2003年に沖縄都市モノレール線が開業するまでは、名実ともに日本最西端の駅だった。現在でも、線路で日本中につながる一般鉄道の駅としては最も西にあり、『日本最西端の駅・訪問証明書』も発行中。駅舎の一部は鉄道資料館となっていて、鉄道の営業時間内なら見学することもできる(入場無料)。
●平戸市田平町山内免418-2/Tel:0950-57-0024
E:山頭草原
まるで日本とは思えない草原風景が広がる
生月島にある標高257mの山頭は、全体を芝草におおわれた小高い丘陵地。青く澄んだ海をバックに広がる草原はとても日本とは思えない風景で、のんびりと草をはむ牛の姿を眺められる。草原には狭いながらも舗装の周回路があり、ぐるっと一回りすることが可能。ただし、放牧地なので出入りの際はゲートの閉め忘れに注意すること。
●平戸市生月町山田免/Tel:0950-53-2927(生月町観光案内所)
F:大碆鼻灯台
断崖絶壁の上に建つ展望台のある灯台
生月島最北端の岬、大碆鼻は100m近い高さで切り立つ断崖絶壁。ここには全国でも珍しい展望台付きの灯台があり、天気のよい日には遙か対馬まで遠望することができる。緑に覆われた岬の台地上は、夏に可憐な花を咲かせるハマユウの群生地。少し南に下った塩俵の断崖では、六角形の石柱がそそりたつ柱状節理も目にできる。
●平戸市生月町御崎/Tel:0950-53-2927(生月町観光案内所)
アクセスガイド
平戸島に最も近い西九州道・佐世保みなとICまでは、九州道・福岡ICから119km、大分道・大分ICからは218㎞。インターから平戸大橋までは国道204号などを使って35km、小1時間の道のり。川内峠を訪ねたら、ぜひ足を伸ばしてほしい生月島。なかでも西岸のサンセットラインは必見(必走!?)だ。平戸大橋から川内峠を経由し、生月島の最北端の大碆鼻までは35kmほど。
観光情報
平戸観光協会 Tel:0950-23-8600
生月町観光案内所 Tel:0950-53-2927
佐世保観光情報センター Tel:0956-22-6630
文:佐々木 節/写真:平島 格