コラム

【会田 肇が往く】東京電力の環境活動をBMWのEVで取材に出掛けるというコラボ

「クリーン」がピッタリ符合

モーターによって駆動する電動車(EV/PHV等)に注目が集まるなか、「BMWi3」は2013年のデビュー以来、独自の存在感を放ってきた。EVとしての基本スタイルを採りながらも、ラインナップには0.65リッターエンジンを発電用として使うレンジエクステンダー搭載車も用意。これにより、バッテリー残量が足りなくなっても充電しながら走行できるという、ほかのEVにはないメリットを獲得しているのだ。

尾瀬までの道のりを共にしたBMW i3 LODGE(レンジエクステンダー装備車)。すべての工程をバッテリーだけで走り切った

今回は、栃木県と群馬県、福島県の県境に広がる尾瀬を舞台に環境活動を続ける東京電力ホールディングスの活動を取材するのに合わせ、EVであるこのi3で尾瀬へと出掛けることにした。ここで皆さんが疑問に思うのは「なぜ東京電力の活動を取材するのにBMWのクルマを使うのか」ということだろう。

ドライブの起点は東京・お台場にある「BMW GROUP Tkyo Bay」。ここから尾瀬への玄関口でもある鳩待峠まで向かった

東京電力といえば2011年3月の、忘れもしない福島原発での事故が否応なく思い浮かぶ。従来より再生可能エネルギーに取り組んでいた同社だったが、元々、電力は水力発電からスタートしており、新エネルギーである太陽光や風力などによる発電を合わせると総発電量15%程度を再生可能エネルギーが占めていた。実は原発事故以降、同社はこの分野により力を入れる姿勢をとりはじめていたという経緯がある。

湿地帯が広がる尾瀬ヶ原。尾瀬一帯の4割を東電が所有しており、いまもなおそのエリアを東電が維持管理を続けているとは驚きだ

一方のBMWは、2013年に「iシリーズ」を発表し、カーボンファイバーモノコックをボディフレームに採用した電気自動車(EV)の「i3」や、プラグインハイブリッド方式のスポーツカー「i8」を相次いで発売。この分野での普及を積極的に進めている最中だ。つまり、東京電力の水力発電を主としたクリーンな再生可能エネルギーと、排出ガスを出さないクリーンなEVとの組み合わせが方向性としてピッタリ符合する。これをより広く印象づけるために今回のコラボが実現したというわけだ。

鳩待峠へ向かう途中、関越道・沼田ICを降りて間もないところにある道の駅「白沢」で、翌日のことを考慮して再び充電

 

さて、今回の試乗車は今年1月に3回目のマイナーチェンジを受けた最新モデル「i3 Lodge」のレンジエクステンダー装備車である。レンジエクステンダーとは、0.65リッターの発電用ガソリンエンジンのことで、バッテリー残量が少なくなったときに走行しながらでも充電できるというものだ。バッテリー残量が5%以下になるとこのエンジンは自動的に起動されるが、バッテリー残量75%以下になれば任意に起動させることが可能。早め早めで充電していくこともできるのだ。ガソリンは9リッターしか入らないため、あくまでエマージェンシー的な要素が強いが、少なくともこの搭載によってバッテリー残量に振り回されることはなくなる。

カーゴルーム下に収納された0.65リッター2気筒エンジン。発電用レンジエクステンダーとして使用する

i3に搭載されているバッテリーは、2回目のマイナーチェンジの際に走行用リチウムイオンバッテリーの電池容量を、電池サイズを変えずに22kWhから33kWhへとアップされた。満充電での航続距離はJC08モードで7割増しの390kmとなり、レンジエクステンダー搭載車なら511kmにまで伸びることになった(いずれも最良の条件での値)。3回目のマイナーチェンジを受けた最新のi3もバッテリー周りはこのスペックのまま更新されており、今回のドライブでもレンジエクステンダーを使わずにどこまでEVで走れるか興味津々であった。

自宅などで普通充電を行う際は、フロントボンネット内にあるソケットに付属のケーブルを接続する。電源は200Vに対応する

試乗する前にそのi3を眺めると、1月のマイナーチェンジでフロントウインカーが横長基調となっており、マイチェン前のi3とは違ってどことなくキリッとした顔つきが印象的だ。ボディラインはフロントからリアまで流れるようなウインドウを持ち、中央のピラーをブラックアウト化することでルーフが宙に浮いているかのように見せる。マイナーチェンジではさらにAピラーからルーフエンドにかけてシルバーのラインが加わり、その印象をいっそう強くした。

EVが発揮する強力なトルクは、街中だけでなく高速域でも力強い加速力を生み出す。これが運転していてとても愉しいのだ

 

運転席に乗り込むとi3ならではの個性がより実感できる。デビュー以来、天然素材を意識した部材が各所に用いられ、車内を見回すだけで“エコ”な雰囲気を実感できる。前方はとにかく広い。これは前方にパワートレインがないことが大きい。2つの四角いディスプレイは運転席前が速度計やバッテリー残量を示すもので、ダッシュボード中央にあるのはカーナビゲーションやバッテリーのエネルギーフローを表す。後はステアリング周囲に走行するためのシフトセレクターやウインカーレバーなどが集中される。操作系はいたってシンプルだ。

運転席前のディスプレイ。速度計とバッテリーとレンジエクステンダー用燃料の残量表示を行い、残量から算出した走行可能距離も表示する

後席は相当大柄な人でなければ十分な空間を確保できている。ただ、ドアはi3特有の構造を持つ。前を先に開ける方式の観音開きのドアを採用したため、後席の乗員が自由に乗り降りすることはできないのだ。ただ、両方のドアを開けたときはセンターピラーレスとなり、乗り降りはかなりしやすい。また、子どもを後席に乗せた際も勝手にドアを開けられずに済むというメリットもある。シティコミューターというコンセプトに照らせばその役割は十分果たしていると言っていいだろう。

試乗したi3と同じグレード「LODGE」でスパイスグレーの本革シートを組み合わせた仕様

コラムにあるスタートボタンを押して電源をオンにすると「ヒューン」という音とともにレディ状態になったことが示される。セレクターレバーをDレンジに走り出すと、EVならではの強力なトルクが車体をグイグイと前へ進ませる。アクセルを踏んでいるとどこまでもその加速感が続く感じで、これはガソリン車では得られない強烈なものだ。しかも、アクセルを話せば強烈な回生ブレーキがかかる。つまり、アクセルペダル1つで加減速が自在にコントロールできるのだ。

ステアリングコラムの右側に配置されたシフトスイッチ。手許で操作するEVらしい電気的なコントローラーとなる

 

最初はこのコントロールに戸惑うものの、これに慣れてくるとコーナリングでもブレーキを踏まなくても楽に通過できるようになる。信号などで停止したいときでも、あらかじめ目標を持ってアクセルを離せばきちんと止まる。ブレーキを踏むのが億劫なわけではないけれど、この一連の操作を体感すると手放せなくなる。さらに言えば、この回生ブレーキを上手に使えば、走行可能距離を伸ばすことができる。下りは可能な限りアクセルを踏まず、回生エネルギーを生かし、バッテリー消費の節減につなげることを心掛けるといい。

i3のカーゴルーム。フロアにレンジエクステンダーを搭載するため、フロアはバンパーと同じ高さまでとなる

i3の走行モードはコンソールのダイヤル横にあるボタンで切り換える。モードはデビュー当初と同じコンフォート、エコプロ、エコプロ+の3種類。エコプロにすると加速がやんわりとした感じになり、この回生ブレーキの効きも抑えられる。このモードにするメリットはバッテリー消費が抑えられることで、コンフォートで走行するよりも3割程度走行距離が伸びるイメージだ。エコプロ+ではさらに航続距離は伸びるが、エアコンも停止するため、日本の夏では実用的ではないだろう。今回の旅では一度も使わなかった。

ダッシュボード中央に配置された10.2インチのワイドコントロールディスプレイ。ナビゲーション他、充電状態などをチェックできるエネルギーフローが見られる

目的地は尾瀬の玄関口である鳩待峠。スタート地点のお台場からはおよそ200kmの距離。スタートした時点では満充電となっていたものの、この距離をEVで走り切るのはかなり厳しい。そこであらかじめ充電スポットが2か所用意された。EVではこうした計画を立てることでスムーズなドライブにつながるのだ。最初の充電スポットは80kmほど走った関越道下りの高坂SA。この時点でバッテリー残量は半分以上もあり、残量を気にせず余裕で到着できた。ここで30分ほど急速充電すると、走行可能な距離が一気に伸びた。

高速道路のサービスエリアにある急速充電施設は1回あたり30分まで。充電している間は休憩を取るスケジュールとすると効率がいい

乗り心地は、以前乗ったi3に比べるとマイルドになった印象を受けた。カーボンファイバーモノコックならでは硬質な乗り心地はそのままだが、路面からのショックもかなり抑えられるようになっており、その進化は感じ取れた。リアエンジン/リアドライブの独特なフィールはあるものの、ステアリングの操舵感はクイックな印象で峠道を走っていても気持ちがいい。EVの強烈なトルク感は病みつきになる愉しさで、ドアを開けばカーボンファイバーが見えるなど、それもクルマ好きには堪らない魅力となっている。こんなに愉しいクルマならいっそ買ってしまおうかと思ったりもした。

i3の内装には再生可能な天然素材を多用した造りで、助手席前のグローブボックスの蓋も天然木を使う

しかし、価格を見ればその熱い思いを一気に吹き飛ばす600万円超え。補助金が付くとは行ってもレンジエクステンダー付きだとプラグインハイブリッドと同じ扱いになってしまうのも惜しい。今回は十分運転を楽しませていただいたということにしておきたい。

今回宿泊に利用した国民宿舎「尾瀬ロッジ」。夜になれば周囲はまったく光がない暗闇の世界となる

尾瀬一体に可憐に咲くニッコウキスゲ。水芭蕉はこの時期、葉っぱが開き切ってしまっていた

フォト&リポート 会田 肇 H.Aida

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