フランス

【嶋田智之の月刊イタフラ】エンジニアに訊く「アルピーヌA110」開発エピソード

いよいよ本格導入!

新しいアルピーヌA110がようやく上陸して、まだインポーター関係筋のクルマだけだとは思いますが、日本の道を走りはじめました。SNSなどでも、注目度は相も変わらず抜群! 9月8日(日)に神戸メリケンパークで開催されたモーターフェス、『LE VOLANT CARSMEET 2018 KOBE』にも姿を現して、大きな注目を浴びてましたね。雨が強くなったり弱くなったりする悪天候の中、ずっと人の輪が途切れることないくらいで、日本のクルマ好き達の“スポーツカー熱”も思い切り熱いじゃねーか! と、それはそれは感動させられたものだったのでした。

さてさて、ワタクシ嶋田も昨年12月の南仏での試乗に続き、この日本でも2日間にわたってA110を走らせる企みに成功しており、その試乗記はこちらカーズミートウェブでもそう遠くないうちにお届けできると思うんですが、実はそれに遡ること数週間前、とある方からとても興味深いお話をうかがうことができたのです。それは、アルピーヌのシャシー・ダイナミクスとライド&ハンドリングのエンジニアでありテスト・ドライバーでもある、テリー・バイヨンさんです。

バイヨンさんは仏オルレアン出身で、ルノーでスプリングとショックアブソーバーに関するデータ分析のプロとしてキャリアをスタート、「メガーヌⅡ R26R」「メガーヌⅢ RS」「ルーテシアRSトロフィ」などのスポーツ系のプロジェクトを中心にサスペンション周りのエンジニアリングを担当。そして2012年の春にアルピーヌのプロジェクトのスタートに伴ってそちらに移籍、わずか10数人ではじまったアルピーヌの立ち上げメンバーのひとりとなりました。A110の開発にあたってはサスペンションのエンジニア兼テスト・ドライバーをつとめたということですが、例えばトップガンとして高度な領域でのテストと評価を担当するロラン・ウルゴンさんのような役割ではなく、もっとユーザーの目線や感覚に近いところで様々な性能目標を定め、それを満たしていく業務を中心にしているとのことです。

ちょうどA110の試乗記を目にするようになってきたタイミングですが、開発に関わった人物の声を通じて、ちょっと違う角度からA110というクルマを知るいいチャンスなんじゃないかと思います。チャッチャと短くまとめちゃうこともできるんですけど、なかなかオモシロイので、長いんですけどまるっと掲載させていただきましょう。“紙”メディアだと、そうはいかないし……というわけで、いってみましょう!

【嶋田】現在のアルピーヌの数少ない立ち上げメンバーということですが、それ以前からクラシックA110が好きだったりしたんですか?

【バイヨン】「クルマの業界に入る前から知ってはいましたよ。実家の隣の人が持ってましたから、子供の頃、毎朝学校に行くときに見てました。これがフランスのスポーツカーなんだな、みたいなことを思ってたんでしょうね。でも、それだけ(笑)。僕はクルマに目覚めるのが遅くて、本当に興味を持ちはじめたのは18歳の頃だったんです。実家が農家なので子供の頃はトラクターの方に興味があったぐらい。でも、免許を取って最初に買ったクルマは、ルーテシアRSでしたけどね」

現代のA110はどうあるべきか

【嶋田】アルピーヌのプロジェクトはほとんどゼロからのスタートで、当初は何もなかったと聞いてましたけど、どんな感じだったんですか?

【バイヨン】「最初の1年間くらいは、10数人のメンバーでディスカッションをしたり、コンピュータを使ったシミュレーションをしたり、でした。どういうクルマにしたいのか、どういうクルマにならなきゃいけないのか。どういう乗り味に? 性能の目標はどこに置く? CADだったりデータを出したりしながら、そんなことばっかりやってました。そして2013年の春に初めてできたクルマは、ロータス・エキシージのスタイルで、中身はアルピーヌのオリジナルというプロトタイプ。これはイギリスでテストしました。以降は全てのテスト車両に乗ってますけど、その最初のプロトタイプが最も心に残ってますね。それまでデータの中にしかなかったクルマが、走らせてみたら“これだ!”と感じられたので。それもメンバー全員がそう感じたんです」

【嶋田】サスペンションのエンジニアということは、どういう特性にしていくのかを決める立場にあったということですよね?

【バイヨン】「僕ひとりで決めたわけじゃないですけどね(笑)。ご存知でしょうけど、全てのスタートはクラシックA110だったんです。初代A110がずっと継続して作り続けられていたらどうなっていたかというところから、現代のA110はどうあるべきか、というのを考えました。初代のいいところはキープしながら、改善しなければいけないところも考えた。サスペンションももちろんそうで、僕達のチームで計算したり分析したりしながら形式を決め、ダンパーやスプリングの方向性を決め、という感じで進んでいきました」

【嶋田】ということは、クラシックA110もかなり研究した?

【バイヨン】プロジェクトがスタートしてから2カ月、ルノー・ヒストリークにある1600Sを借りていました。僕もひと月借りました。その間ずっと日常的に試乗したり、ビデオの映像や写真を見たりして、どういう動きをしているかを研究しました。映像と自分がドライブしたときのフィーリングを比較してみたり、とか。新しいA110はどうあるべきか、おかげで深く考えることができましたよ」

【嶋田】最初に歴史的な名車であるクラシックA110に乗ったとき、何を感じましたか?

【バイヨン】「もちろん感激しましたよ。このクルマ、凄い! って。でも同時に、実は僕にとってのクラシックカー初体験だったんですけど、こういうクルマは今は無理だな、今は認められないな、って感じたんです。まずドライビングポジションとかが人間工学的にダメ。ブレーキも高速のスタビリティもステアリングの反応の仕方も現代の水準では良しとされない。ギアボックスもすごく難しい。安全性も……。走ってるうちに、そういうところがどんどん目についてきました。もちろん、楽しさはたっぷり感じましたよ。例えば加速だったり、ドライバーとの一体感だったり。クルマからのインフォメーションが身体にちゃんと伝わってくるというのも、とても感動的でした。そういうところをいかに新しいA110に受け継がせながら、どう現代のクルマとして成立させていくのか。皆でそんなことばっかり考えてましたね」

【嶋田】新しいA110がクラシックA110から受け継いだのはどんなところですか? まぁ、お約束の質問で(笑)。

【バイヨン】「わかりやすいでしょう(笑)。俊敏性、ファン・トゥ・ドライブであること、コンパクトさ、それから運転しているときの軽やかなフィーリング。クラシックA110は、そういうところがとても魅力的なんですよね。だから、そういうところは強く意識しましたし、最初にクラシックA110に乗ったときから新しいA110が発売になるまで、まったくブレませんでした。もちろんスタイリングも」

【嶋田】逆に新世代のA110なんだから、ここはこうなってないとダメだ、というところはありましたか?

【バイヨン】「クラシックA110には、ステアリングにすごく遊びがありました。それから、スライドはするけど、舵角を入れていかないとコントロールできない。ブレーキもストロークがとても大きくて、そのうえ場合によってはフロントの左がロックするし場合によってはリアの右がロックするし、といった具合で効き具合も安定しません。あとは高速域での安定性にも難がありました。新車当時はレベルの高いクルマだったと思いますが、現代の水準にあてはめるのには無理がありますよね。当然ながら、そういうところは改善しないといけないと考えながら開発を進めてきました」

【嶋田】クラシックA110も当時のスポーツカーとしては乗り心地がいいクルマといえるけど、新しいA110も抜群に快適で毎日使えそうです。あれだけ曲がるクルマなのに、気になる硬さがない。電子制御でもないのに、どうやって曲がることと乗り心地がいいことを両立させたんですか?

【バイヨン】「何かひとつ、これだという理由を挙げることはできないですねぇ。例えばタイヤのスペックだったり、サスペンションのスペックだったり、全体の構造だったり……ワンポイントではなく、そういうひとつひとつが結びついて、トータルで乗り心地の良さとよく曲がるテイストが両立できてるので。このふたつを両立させることは、最初から決めていたものだったんです」

【嶋田】最初から決めていたものといえば、A110らしいスタイリングを崩さないということもあったそうですけど、シャシーに関わるエンジニアとして、リアウイングが欲しいとは思いませんでしたか?

【バイヨン】「デザインを崩さないという目標は、シャシーを担当する自分達にとってのチャレンジにもなりました。ウイングをつけないということは、その分シャシーに求められる部分が大きいわけですからね。でも、それがかえっていいモチベーションになりました。ウイング類以外で空力もしっかり確保できてるし、いいバランスを生み出すことができたと思ってます」

タイヤもA110専用に開発

【嶋田】そういえば、本国仕様にはタイヤに17インチと18インチというふたつの仕様がありますけど、どちらがよりクルマとのマッチングがいいんですか?

【バイヨン】「ピュアとレジェンド(日本仕様では“リネージ”)では車重に若干の違いがあるんですけど、実は17インチと18インチの違いも、そんなに強く体感できるものでもないんです。ベクトルは全く変わってないですから。開発は17インチでスタートして、それでクルマのパフォーマンスを作り上げ、後から18インチを加えることになったんです。その18インチのホイールとタイヤをクルマのパフォーマンスや性格にアジャストさせることに、かなり時間と手間がかかりました。特にタイヤはミシュランと共同開発した「パイロットスポーツ4(PS4)」なんですけど、A110の性格に合わせてキッチリと作り込んであるから、このような走りが可能になったんですけどね」

【嶋田】ということは、タイヤはA110の専用開発品で、ライフが来たら、同じ専用開発品に履き替えるのがベスト、ということですか?

【バイヨン】「そうですね。同じPS4であっても、リプレイスタイヤを使うと乗った感じが変わります。違うクルマになっちゃう感じですね。それくらいキッチリと作り込んであるので専用開発タイヤ以外は履かせないで欲しい、と個人的には思ってるくらいです」

【嶋田】ちなみにA110、どういう方に乗って欲しいですか?

【バイヨン】「スポーツカーに乗り慣れてる人。コーナリング性能を高めるために足がガチガチだったり、かなり高いスピードで走らないとクルマとして楽しくなかったり、そういうのに飽き飽きしてる人。そういう方々には特に試してみていただきたいです。……もちろん区別なく全ての人に楽しんでいただきたいというのが大前提ですけどね。というのも、A110は高速域はもちろん、低速域でもものすごく楽しめるクルマです。楽しさに簡単に辿り着ける。そこがひとつの素晴らしいポイントですから。
ちなみに、当初はこんなに速いクルマになる予定じゃなかったんですよ。最高速度250km/hというのは、リミッターで抑えた数値です。実は0-100km/h加速4.5秒というのはマーケティング的な理由で、同価格帯のライバルを考えるとそのくらいなければダメという目標設定でした。が、最高速は別。ボディの空力特性がよくて、望外に伸びちゃったんです。そういう領域にいかなくても充分に楽しいんですけどね」

【嶋田】最後に、日本のアルピーヌが好きな人へのメッセージをお願いします。

【バイヨン】「GTカーのようなポルシェ・ケイマンがあったり、もっとスパルタンなアルファ・ロメオ4Cやロータス・エキシージのようなスポーツカーはあるけど、毎日使えるクルマでありながらサーキットでも楽しめて、あらゆる場面でコントローラブル、つまり安全というクルマは、少なくともこの価格帯には他にはなく唯一。それがA110というクルマです。私たちは他にはないクルマを作りました。どうかそれを楽しんでいただきたいと思います」

フォト:山本佳吾 K.Yamamoto/嶋田智之/アルピーヌジャポン
嶋田智之

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