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木下隆之のブランパンGTアジア2018参戦記【シーズン総括】

中国寧波を終えて

2018年のプランパンGTシリーズ・アジア挑戦の全日程が終了しました。いやはや、あっという間のシーズンでしたね。
2017年の師走、年も押し迫った最中の誘いからまだ10カ月しか経ってないのに、契約からテストから参戦発表……、そして全12戦のレースまでを消化したというのだから、それはそれは慌ただしかった。

だが、あっという間に感じたということは、充実していたからだろう。1大会で2戦を消化する全12戦だから、つまり6ラウンドである。マレーシア・セパンを皮切りに、タイ・ブリーラム、鈴鹿サーキット、富士スピードウェイ、中国は上海国際サーキットから寧波(NINGBO)国際スピードパークへと、怒涛のアジア遠征が続いたのだから、中身が濃いのもうなづける。

慣れ親しんだ国内サーキットでさえ、全12戦ともなるとさすがに多忙なのに、ブランパンGTアジアの遠征は、各サーキットへの移動でほぼ1日が費やされるわけだから、肉体的にも精神的にも負荷は大きい。ただのシリーズ参戦とは意味合いが違うのだ。僕が走行経験のあるサーキットは、開催場所の半分だった。鈴鹿と富士を除けばマレーシアだけは走行経験があった。つまり、タイのブリーラムと中国の上海、寧波は、走行経験がないままサーキットインとなったのである。

ブランパンGTアジアのスケジュールはタイトだから、レース本番前の走行時間が限りなく短い。予選までに許された45分が2回の走行枠と、予選前に設けられた30分のチェック走行だけが本番前に許されたドライブ時間だ。その中で2名のドライバーがコースを習熟しなければならないばかりか、マシンのセッティングまでこなさなければならない。できれば連続走行してタイヤのライフも確認したいところなのに、ブレーキやサスペンションの焼き入れも課せられるから、ドライバーの習熟時間などほとんどゼロに等しい。つまり、チンタラやっていたら勝負にならない。最初の1周目から100%で走れるドライビングスキルが求められる。これがワクワクするほどの刺激なのだ!

正直に言いますね……。国内サーキットはこれまで数千ラップ以上は走ってきたからもう飽きた。食傷気味なのである。それに比べて未知のサーキットは興奮に溢れていた。僕が海外のレースにいつまでも挑戦を続けている理由のひとつはそれだ。僕の身上でもある「チャレンジ精神」が刺激されるのである。

言葉や文化の違いも刺激的だ。ご想像の通り中国は独自の文化だから、戸惑うことが多かった。マレーシアとタイはイスラム教の影響を少なからず受けていて、東南アジアの雄としてのマナーや規律がある。「郷にいれば郷に従え」を実践するには、その国を理解しなければならない。でも、それがそう簡単にいかないから面白いのだ。

しかも、である。サーキットで競い合うのは、地元のドライバーだけではない。今季最大のライバルとなったAMGは、ドイツ人のワークスドライバーを送り込んできたし、中国やマレーシア、台湾、あるいはオーストラリア、そしてブランパンGT本場の欧州からと、多国籍の混成カテゴリーと化していた。それがアジア4カ国を転戦するのだから大騒ぎ。おかげさまで僕も、数々の海外レースを経験させてもらっているが、ここまでの魑魅魍魎たちとの闘いは珍しいのである。

来季は開幕から全開だ!

そもそも、ブランパンGTアジア初挑戦の我々は、大きな戸惑いのままシーズンに突入していった。レースのルールすら曖昧だったのである。正確に言えば、もちろんレギュレーションのすべては理解している。だが、そのシリーズ独特の風習やマナーがある。明文化されていないだけでなく、行間を読まなければ正解がわからないのだ。そんな暗中模索の中でのレースだった。これも海外あるあるですね。

開幕戦マレーシアラウンドでは、2位と4位。タイのステージで2レースとも0ポイントに終わったのは辛かったが、鈴鹿では初優勝と4位。富士では2連勝を挙げた。中国上海で2位と優勝、最終ラウンドの中国寧波では7位と優勝。浮き沈みの激しいシリーズだったのは、初挑戦ならではの戸惑いが原因だろう。

それでも参戦初年度でチームチャンピオンを獲得し、ドライバーズランキングでも2位に。それはBMW M4 GT4のドライバーとしてはトップであり、最多ポールポジションを獲得し、年末に主催者パーティが開催されるロンドンで表彰される権利を得たのは褒められていいでしょ?

FIA GT4カテゴリーは今後、世界のモータースポーツの中枢になることは明らかだ。そのカテゴリーにいち早く目をつけた、「BMW Team Studie」の先見の明にも感心するし、それをカタチにしたバイタリティも素晴らしい。初めてアジアを代表するBMWのチームとして、フル参戦の機会を与えてくれたチームにも感謝したい。そればかりか、ロンドンへの招待状までもらえるなんて望外の喜びである。

ともあれ、もっとも苦労したのはチームだと思う。スポンサーの獲得からマシンの準備、あるいはドライバーやメカニックの契約やらなにやら、膨大かつ細かい作業をこなしてようやくスターティンググリッドにつけるのだから、これはもう驚くほどの心労が重なるに違いない。そしてシーズンが始まれば、ホテルや食事の手配、もっといえばメールは通じるのか? 冷たいドリングは? といった準備までしなければならない。一方、ドライバーの僕や砂子塾長はのんきなもので、準備されたロジスティックに合わせて行動すればいいだけ。チームスタッフには頭がさがります。

来季はブランパンGTアジアそのものがもっと華やかになるようだ。注目のGT4クラスもこれまで以上に多くのメーカーが参戦するとの噂があるし、確実に参戦台数が増えるから、今年以上に激戦区になるはずだ。そこでまた我々が強烈な個性を発揮することは間違いない。

参戦2年目は開幕戦から戸惑うことなく全開で勝ちにいくつもりだ。いまからワクワクしている。というのは、今年のブランパンGTシリーズ・アジア全12戦の闘いがとても充実していたからに他ならない。

BMW Team Studie公式サイト http://TeamStudie.jp/

 

【木下隆之】Takayuki Kinoshita

出版社編集部勤務を経てレーシングドライバーとしての活動を開始。全日本ツーリングカー選手権、全日本F3選手権、スーパーGT500/GT300等で優勝多数。スパ・フランコルシャン24時間、シャモニー24時間等々、数多くの海外経験を持ち、特にニュル24時間レースへの参戦は日本人最多出場記録および最高位記録を保持。一方で、数々の雑誌に寄稿するモータージャーナリストであり、ドライビングディレクター、イベントプロデュース/ディレクションをこなす。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

【Blancpain GT Series Asia】 ブランパンGTシリーズ・アジア

FIA規定GT3マシンとGT4マシンによりポイントを争うGT選手権シリーズ。土日開催の各ラウンドを2名のドライバーが1台のマシンを駆り闘う展開の速い1時間のレースである。6ラウンド全12戦となる今季は、マレーシア・セパン(4/14-15)で開幕。タイのチャン国際サーキット(5/12-13)から鈴鹿サーキット(6/30-7/1)、富士スピードウェイ(7/21-22)、上海国際サーキット(9/22-23)をラウンドして中国の寧波国際サーキット(10/13-14)が最終戦となる。http://www.blancpain-gt-series-asia.com/

リポート:木下隆之 T.Kinoshita フォト:BMW Team Studie
BMWコンプリート編集部

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