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【ジムニー徹底解剖-3】660cc vs 1500cc比較試乗 今度のジムニーは軽よりもシエラがオススメな理由は……

デビュー前から話題が沸騰し、今や手に入れるまで半年から1年も待たなければならない「ジムニー」シリーズ。果たして、その中身は爆発的ヒットにふさわしいものなのだろうか? 軽自動車版のジムニーと、普通車版のジムニーシエラを並べ、改めてその魅力を探った。

これまでダメ兄貴だったシエラが新エンジンで面目躍如

先代(JB23型)のデビューから、なんと20年というスパンでフルモデルチェンジとなった新型ジムニー。このSUV全盛期に臆することなく投入された、今や古典的ともいえるクロスカントリー4WDスタイルが、世界の自動車ユーザーをアッといわせたことは間違いない。

現在の納期は、660ccのジムニー(JB64型)で半年、1500ccのジムニーシエラ(JB74型)にいたっては1年待ちとのことだから、このヒットはもはや社会現象といっていいかもしれない。

歴代ジムニーで日本国内の主役は圧倒的に660ccモデルだったが、現行モデルでは1500ccのシエラが復権している。

さて、国内では当然ながら日本限定規格の660cc版ジムニーが人気だが、先代ではまったく鳴かず飛ばずだったジムニーシエラが、販売面で予想外の大躍進を見せている。

何せ先代の1300ccのジムニーシエラ(JB43型)は、登り勾配の高速道路では660cc版(JB23型)に抜かれるというダメ兄貴ぶりで、ジムニーファンをもってして「シエラを買う理由が見当たらない」といわしめたほどの“迷車”だった。だが、新生シエラにK15B型1500cc直4エンジンが搭載されたことで、その評価は一変したようだ。

 

山崎友貴(やまざき ともたか)
フリーエディター。四輪駆動車雑誌編集長を経て、SUVやキャンピングカーなどを中心に記事を執筆している。Jeepラングラーで日本全国の山に出向き、登山や岩登りをするのがもっぱらの趣味。

もちろん一新された660ccターボエンジンも扱いやすく実用性十分な仕上がり

そもそもこのエンジンは、スズキが東南アジアで販売している7人乗りミニバン「エルティガ」に搭載されているユニットの縦置きリメイク版。最大トルク数値は130N・mと決して大きなものではないが、低回転からグイッとボディを押し出してくれるような感覚がある。パワーもトルクも貧弱だった先代までのM13A型エンジンとは、扱いやすさという点では比べものにならない。

一方の660ccユニットだが、スズキ車の中でも最後までジムニーで使い倒されたK6A型から、現在のスズキ製軽自動車の主幹エンジンとなっているR06A型に変更された。3代目と4代目の乗り味の違いについては後述するが、このR06A型660ccインタークーラーターボ直3エンジンもまた、低回転からよくトルクが出て乗りやすいフィーリングになるようジムニー用にリファインされている。余談だが、開発陣の話では、横置きで設計されていたR06A型を縦置き化したことは、ほぼ新造エンジンに等しいとのことだ。

シフトレバーまわりの取り付け方法を強化して、レバーの振動を低減させている。AT比率が高まっている中で、全車にMTの用意があるのもうれしいところ。5速MTのギア比は660ccターボエンジンと1500ccNAエンジンで変えられているが、4速ATのギア比は両エンジンで共通となっている。

ジムニーに搭載されるにあたっては、あえてアルトワークスとはかなり異なるマイルドな味付けなっている。下から上まで急激なトルクや立ち上がり方の変動もなく、自然な感じで回っていくのは、やはりオフロードでの扱いやすさを追求しているからに違いない。もちろん1500ccと比較してしまうと少々見劣りする出力だが、クロカン4WD用として考えれば、十分に合格点が取れる優等生エンジンに仕上がっている。

運転に不慣れなドライバーにもシエラの安心感はオススメ

さて、ジムニーとジムニーシエラを並べたときに、ほとんどの人がジムニーシエラを褒めるのは合点がいく。トルクフルなエンジンもさることながら、運動性能や乗り心地というトータルでみれば、間違いなく今回のシエラは上々の仕上がりだからだ。やや路面追従性が良すぎてフワッとした乗り味のジムニー(軽自動車版)に対して、シエラは適度な堅さを持ったしっかりとした乗り味にしてきた。

クロカン4WDに不慣れなドライバーは、殊に高速道路でそれを感じるはずだ。多少うねりのある路面の直進や素早いレーンチェンジにおいて、左右にユラッと揺れる感じは決して気持ちのいいものではない。しばらく走れば慣れはするが、シエラの安定した走りに比べると、“クロカン4WD”っぽさを感じずにはいられない。サスペンション、タイヤサイズ、トレッドといった違いが、明らかに走りの差となって出ている。

ただし、それは単純な優劣ではなく、次のような理由も考えられる。まず軽自動車版のジムニーはドメスティックモデルであり、追い越し車線を走り続けるシーンはあまり想像できない。シエラよりも、オフロード性能とのバランスを重視して造られているのだろう。オンロードを意識して脚の動きを規制してしまうと、悪路走破性が低下するため、どうしてもオンロードでのセッティングは前述のようなフィーリングになってしまうわけだ。

一方、シエラは高速道の巡航速度域が日本よりも断然高い欧州を意識しており、カッチリした乗り味になるのは自明の理と言える。税金の金額差や納期などの問題がなければ、僕は間違いなくシエラを選ぶだろう。軽自動車版も非常によくできたクルマだが、新型のシエラは長距離ドライブでも疲れず、運転する楽しさが持続するはずだ。多少運転に不慣れなドライバーでも、安心できるフィーリングを持っており、特に女性ドライバーにはオススメといえる。

 

オフロードを走るなら足まわりとタイヤで660ccジムニーが有利

さて、日本ではオフロードを走る人は少ないと思われるが、ジムニーという特別なクルマなので、少しはふれておきたい。オフロード走行では路面追従性が重要になってくるが、その点では660ccのジムニーが若干秀でている。やはりオンロード性能に振ってあるシエラは、それなりの脚の動きを見せた。また16インチタイヤのジムニーに対して、15インチタイヤを履くシエラは、その点も多少不利だ。ただし、両車ともブレーキLSDトラクションコントロールという飛び道具があるので、短足であってもクロスカントリー走行はそこそここなしてしまう。

画像のABSユニットで制御させるブレーキLSDトラクションコントロールとは、スタックしたときなどにギアを4L(4WD低速)に入れると、空転した車輪にブレーキが利いて設置輪に駆動力を確保する機能だ。

違いを挙げれば、シエラはオフロードにおいてはダンパーの減衰力が高すぎで、石がゴロゴロしているようなダートでは酷い乗り心地だ。660cc版の方がハーシュネスをしなやかに吸収してくれるので、シエラより全然快適に乗れる。

Specification

スズキ ジムニー XC (5MT)
車両本体価格(税込):1,744,200円
全長/全幅/全高[mm]:3,395/1,475/1,725
ホイールベース[mm]:2,250
トレッド(前/後)[mm]:1,265/1,275
車両重量[kg]:1,030
最小回転半径[m]:4.8
乗車定員[名]:4
エンジン型式/種類:R06A型/直3DOHC12V インタークーラーターボ
内径×行程[mm]:64.0×68.2
総排気量[cc]:658
圧縮比:9.1
最高出力ps(kW)/rpm:47(64)/6,000
最大トルクNm(kg-m)/rpm:96(9.8)/3,500
燃料タンク容量[L]:40(レギュラー)
燃費(JC08/WLTC)[km/L]:-/16.2
ミッション形式:5速MT
変速比:1)5.809、2)3.433、3)2.171、4)1.354、5)1.000、R)5.861、F)3.818
サスペンション形式:前 リジッドアクスル、後 リジッドアクスル
ブレーキ 前/後:ディスク/ドラム
タイヤ(ホイール):前175/80R16、後175/80R16

スズキ ジムニーシエラ JC (4AT)
車両本体価格(税込):2,019,600円
全長/全幅/全高[mm]:3,550/1,645/1,730
ホイールベース[mm]:2,250
トレッド(前/後)[mm]:1,395/1,405
車両重量[kg]:1,090
最小回転半径[m]:4.9
乗車定員[名]:4
エンジン型式/種類:K15B型/直4DOHC16V
内径×行程[mm]:74.0×84.9
総排気量[cc]:1.460
圧縮比:10.0
最高出力ps(kW)/rpm:75(102)/6,000
最大トルクNm(kg-m)/rpm:130(13.3)/4,000
燃料タンク容量[L]:40(レギュラー)
燃費(JC08/WLTC)[km/L]:-/13.6
ミッション形式:4速AT
変速比:1)2.875、2)1.568、3)1.000、4)0.696、R)2.300、F)4.300
サスペンション形式:前 リジッドアクスル、後 リジッドアクスル
ブレーキ 前/後:ディスク/ドラム
タイヤ(ホイール):前195/80R15、後195/80R15

 

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テキスト:山崎友貴/フォト:宮越孝政

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