清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic SafEty Test)
Number76(SEASON.7):スポーツカー対決では最強のポルシェにメルセデス流儀で果敢に挑むガチバトル!
ポルシェ718ボクスターS vs メルセデスAMG SLC43
世間を見渡してみると、2シータースポーツカーは意外なほど多い。人も荷物もたくさん乗らないクルマでも魅力を感じる人は多いのだ。そんな贅沢なスポーツカーの中でも比較的買いやすい価格帯のメルセデスとポルシェのエントリーモデルをテスト。これら2台に与えられたミッションとは? 共通点と相違点に注目したい。
ダイナミクスの面ではボクスターなのだが……
街を見渡しても、セールスデータに目を通しても、“思うほど少なくない”2シータースポーツカー。人々はこのクルマにどんな価値を置いているのか。そんなことを考えながら、2台のオープン2シータースポーツカーをテストした。
まずはポルシェ718ボクスターS。Sモデルはエンジンの排気量も大きいし(素は2LでSは2.5L)、ターボシステムも異なる。
ニュルでの速さはケイマンGT4に匹敵する、まるで自然吸気のフラット6を退治するようなフラット4ターボの登場だ。ポルシェはライトサイジングというその選択が正しいことを証明したいがあまり、エッジの効いた350のSも用意した。以前、ウェットの筑波サーキットでライバル車に4秒以上もの差をつけた経験を思い返すと、ボクスターSは3Lターボのカレラでさえ追いかけ回してしまう存在かもしれない。そう、タイヤ/サスペンション/エンジン/電子制御が完璧なのだ。
ここまで速いスポーツカーを作ると、自分で自分の首を絞めてしまいそうだ。弟が兄貴を上回るからだ。まるで大河ドラマの『真田丸』のようではないか。だが、失ったものもある。
よどみなく回るボクサー6(水平対向6気筒)は完全バランス(クランクシャフトに発生する二次振動がない)と言われる貴重なエンジンだったが、その気持ちよさはもう味わえない。兄貴はフラット6を持っているが、ターボ化されたので「よどみなく回る」感覚ではない。ボクスターSは4気筒+ターボ。パワー&トルクと燃費と運動性能では文句はないが、6気筒の味が懐かしい。
そこにメルセデスAMG SLC43がやって来ると、ポルシェ・フリークも浮気したくなってしまう。
メルセデスSLC43は高級系
SLKよりも遥かに進化しているので、メルセデスという高級ブランドに相応しい走り味だ。V6なのでスムーズに回るし、520NmというトルクはボクスターS以上に力強い。トルコン9速ATはクロスギアレシオを持っているので、低速からのダッシュも鋭い。エンジン音や乗り心地にも高級感がある。ボクスターSはあまりにも能力が高すぎるので、サーキットやワインディングを走りたくなってしまうが、毎日乗るならSLCの方が飽きないかもしれない。
SLCはふたり乗りだが、2+2が欲しいならCクーペカブリオレがある。メルセデスのオープンカーの掟では2シーターは電動ハードトップ(SLCとSL)、2+2はソフトトップ(Sクーペ、Eクーペ、Cクーペ)とされる。ロールスやベントレーを見れば分かるが、高級車にはソフトトップと決まっている。その意味ではSLCのハードトップは少しカジュアル過ぎるかもしれない。
自宅に帰ると、スマートフォーツーのカブリオレが停まっている。2シーターでもソフトトップなのだ。メルセデスの掟から外れるが、なるほど、スマートは芸術作品だったことを思い出した。
ボクスターは肉食系
「相手がポルシェでも平気です」とメルセデスの広報は正々堂々とボクスターの挑戦状を受け取った。このDSTでは動的なダイナミクスしか評価していないが、メルセデス特有の癒やされるスポーツカーの味は数値では表現できない。ということで運動会の勝ち負けではボクスターSに軍配が上がったが、素の2ボクスターならSLCとの差はもっと少ないだろう。
両車の重さは約200kgも差があるし、フロントエンジンとミッドシップの差も大きい。だがテスト数値を無視すると、SLCはボクスターにはない魅力を持っている。スポーツカーには速さだけでは語れない奥深い世界があるのだ。
RESULT
再認識させられたテスト数値に表れないスポーツカーの奥深さ
●メルセデスAMG SLC43:16.5/20点
●ポルシェ718ボクスターS:19.0/20点