さまざまな歴史の出来事を桃太郎伝説が連想させる
瀬戸内と日本海を結ぶ吉備路がゆったりと越えていく中国山地は、日本では珍しく地下資源の豊富な地域である。新見市の北西にそびえる道後山周辺は砂鉄の一大産地。また、蒜山高原南の人形峠では日本で唯一ウラン鉱床も発見されている。
古代、鉄器文明とともに大陸から渡ってきた渡来人たちが、この中国山地の豊富な地下資源に目を付けたのは当然の結果といえよう。やがて彼らは山中に集落を作り、送風装置『鞴』を備えた製鉄所『たたら』を築いていくことになる。
古代の製鉄現場では、鉄分を含んだ地層を崩して川に流し、砂鉄を選別する『鉄かんな穴流し』が行なわれた。そのため川は土砂の堆積でたびたび氾濫を起こし、平野の農民を水害で苦しめた。また、燃料として大量の木を伐採したことから、山で暮らす人々との間にも多大な軋轢を生んだに違いない。
さらに言えば、昼も夜もなく山中で燃えさかる『たたら』の火を見て、里に暮らす人々はそこに魔物=鬼が棲むと考えたかもしれない。
桃太郎伝説に最後の仕上げを施したのは、ヤマト王朝の末裔、明治政府である。明治20年、桃太郎の話を国定教科書に採用する際、ストーリーにちょっとだけ手を加えている。
岡山特産の桃は、古くから霊力をもつ不思議な果物とされ、なかでも回春作用には抜群の効果をもつと信じられていた。オリジナルの桃太郎伝説でも、川から拾ってきた大きな桃をたらふく食べたおじいさんとおばあさんは若さを取り戻して大ハッスル。その結果、桃太郎が生まれたとされている。
しかし、こんな話を小学校の教科書に載せるわけにはいかない。苦心の末できあがったのが、『すると桃が二つに割れて、中から大きな男の子が……』という、いたって健全なお伽噺だったのだ。めでたし、めでたし。