
清水和夫のダイナミック・セイフティ・テスト(Dynamic Safety Test)
Number 88 SEASON.9:快適性と安全性を究めた最上の“S”、ドライバーズカーとして躍動する“7”
メルセデス・ベンツ S560 4MATIC LONG vs BMW M760Li xDrive
ジャーマンプレミアムブランドの2017年のセールスはSUVモデルが牽引したものの、高級サルーンも好調だった。トレンドは電動化だろうが、多くのユーザーが求めるのは、パワフルなパワーユニットと上質な乗り味。強大なトルクが与えられ、AWDが主力となる中、ベンチマークたるSクラスと7シリーズの運動性能は、いかに仕立てられているのかチェックした。
快適性と安全性を究めた最上の“S”
新型Sクラスの設計変更は、約6500点にも及んでいる。しかし見える部分の変更は少なく、視覚的には伝わりづらいが、内なる部分は磨き抜かれている。
今回のテストを通して感じた、なんとも言えないトロッとした乗り味は、ライバル車では味わえない高級感が演出されており、さすがは“S”と思わせてくれる部分であった。特に顕著に感じたのは、高速周回路での走行。150km/h程度ではSクラスの方がロールやピッチングが目立ち、サスペンションがよく動いているのがわかるほどだったが、不思議なことに不安感はまったくない。サスを硬めず、しなやかに動かしてドライバーに不安を与えない新型Sクラスのシャシー技術を、確かな進化として体感することができた。
プレミアムサルーンにとっていまや欠かせない、高度なドライバーアシストシステムについても例外ではない。メルセデスのディスタンス・パイロット・ディストロニックは、Eクラスのシステムを進化させて搭載。完全停止状態からの自動発進機構、歩行者を検知して飛び出し時などに反応するアクティブ・ブレーキ・アシストを装備するなど、自動化に関してはまだレベル2であるが、セーフティデバイスを充実させ、あくまでドライバーをサポートする位置付けとしている。
ドライバーズカーとして躍動する“7”
メルセデスとは対照的なM760Li xDriveは、V12をターボで武装し、スーパースポーツ並みのパワーとトルクを誇っている。サスペンションやタイヤまでドライバーズカーとして開発されているため、ドライビングプレジャーは申し分ない。
高速周回路での乗り心地は、硬めのサスセッティングと感じるが、快適性についても適度に躾けられており、そこにはSクラスとは違う高級車の世界観が存在する。ダンピングが効いたライドフィールはBMWらしく、ハンドリングはダイレクトで、スロットルレスポンスもシャープ。大きなサルーンに乗っていることをつい忘れてしまいそうなほどだ。SクラスのV8よりもはるかに加速力は鋭いが、ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)でドライブするのも悪くない。
昨今、プレミアムブランドのSUVが人気だが、ボディウェイトは重く、背は高いので、どうしてもサスペンションは硬めとなる。また、その存在感をより強調するために、安易にスポーティにチューニングする傾向が強く、クルマの基本性能が高いサルーンをベースに考えると、今回テストしたSクラスや7シリーズのように総合力の高いSUVの登場に期待がかかる。プレミアムサルーンのレベルがここまで高まってくると、SUVに影響を与える日もそう遠くないと思った。
実力の高さを証明したテスト結果だったが、“S”と“7”の良さを取り込んだ日本を代表するプレミアムサルーン、新型レクサスLSについても、次の機会にはぜひその実力を試してみたいところだ。
やはりキャラの違いが結果に色濃く表れた
全方位でSクラスの進化が明らかになったテストだった。乗り心地は最上級の快適性を誇っているし、予防安全技術についても抜かりはない。さらに驚いたのは、ウェット旋回ブレーキでのステアリングの正確性と安定性、制動距離の短さで、ラグジャリー性の高さだけではないことを示した。
V12を積むM760Liは、メルセデスとは世界観の異なる個性が表現されており、高級サルーンであってもドライバーズカーである資質は失っていない。800Nmのトルクが生み出す加速、コーナーリング性も刺激的だ。電動化時代でも、そのダイナミクスはセールスポイントになるだろう。
RESULT
世界を代表する2台プレミアムサルーンの進化は止まらない。
●メルセデス・ベンツS560 4マチック・ロング:19/20点
●ビー・エム・ダブリュー M760Li xドライブ:17.5/20点