9年ぶりに復活した911のスペシャルオープンモデル
昨年のニューヨーク・モーターショーで、ポルシェ70周年記念モデルとして発表された911スピードスターコンセプト。その市販バージョンの国際試乗会が、地中海に浮かぶイタリア・サルデーニャ島で開催された。
これまで911には、何度か低いウインドスクリーンをもつ「スピードスター」が設定されてきたが、先代997型の最後に登場した911スピードスターでは、カレラ4S譲りのワイドボディに911GTSの408psユニットと7速PDKを搭載していたものの、スタイリング以外は基本的にスタンダードのまま。その前の964に設定されていたスピードスターも、カップデザインの17インチホイールやRSシートを装着していたもののパワートレインは基本的にノーマルのまま。930スピードスターに至っては低いウインドスクリーンと2シーター化以外はカブリオレと同様と、スタイル優先のプロムナードカー的な性格の強いモデルばかりだった。
しかし、991型911のファイナルモデルとして、今年半ばから1948台限定(残念ながら既に完売!)で生産が始まる新型スピードスターは、911GT3スパイダー、もしくは911Rスパイダーと表記した方がしっくりくるほどの中身と実力を兼ね備えていたのである。
911スパイダーのボディはカレラ4カブリオレのボディをベースとしているが、特に補強などは加えられていないという。しかし6kgのフロントフード、2.8kgのフロントフェンダー、10kgのリヤフードは全てCFPR製となるなど、各部に徹底的な軽量化を施した結果、PDK仕様の911GT3からわずか35kg増の1465kgを達成。またフロントスポイラーはGT3のものを流用(リップ部は専用設計)しているほか、 “ロー・プロファイル・フライングライン”と呼ばれるダブルバブル形状のリヤフード、カブリオレより50mm低いウインドスクリーンを装備し、ロー&ワイドの迫力あるスタイルを実現している。
ロックのみを自動化し、あとは簡単に手動で開閉できるファブリック製のルーフは、閉じた姿もカッコいい。またスポーツシートの着座位置が低いこともあり、クローズド時のヘッドクリアランスにはかなり余裕があるほか、オープンにしても不快な風の巻き込みは感じられない。
それどころか、抜けのいいNAサウンドがダイレクトに耳に入ってくるオープンでのドライブは、痛快そのものだ。2速アイドリングからでもしっかりと加速し、一度アクセルペダルを踏み込めばレッドゾーンの9000rpmまで吹け上がる4Lフラット6 NAエンジンは、911GT3由来のものだが、噴射パターンを効率化し250barに高めた高圧フューエルインジェクター、個別スロットルバルブ付きインテークシステムの採用で、従来比 10psアップの最高出力510ps/8400rpmを実現。また2基のガソリンパティキュレートフィルターを装着して欧州排出ガス基準EU6DGをクリアしているほか、ステンレス製の新型エキゾーストシステムにより10kgの軽量化にも成功するなどの改良が加えられている。
操る楽しさや風や音を感じて刺激的かつファンなドライブを楽しめる
そこに組み合わされるギヤボックスは911GT3の後期型にも搭載されていた6速MTのみの設定。PDKを選ばなかったのは「サーキットでタイムを削るようなモデルではないこと。6MTの方が25kgほど軽いこと」が理由だという。また7速MTではなく6速MTを選んだのは、シフトフィールが優れていることと、ギヤが1枚少ない分軽量だからという答えが返ってきた。
ミートポイントのわかりやすいクラッチと、コキコキと小気味よく決まる6速MTを駆使しながら走らせる911スピードスターは、本当に楽しい。またヒルアシストと任意でオン・オフ可能なシフトダウン時のブリッピング機能(この出来がまた最高)がついているので、MTに乗り慣れていなくても心配する必要はない。
足回りはGT3そのもので、PTV、RASM、PTV、PSM、PCCBといったお馴染みのデバイスが標準装備されている。またドライ路面では絶対的なグリップを誇るミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ2とリヤアクスルステアもついているので、不慣れな(しかも道幅も狭く、ミューも低い)サルデーニャのワインディングでも、安定した姿勢で速く、かつスムーズに走ることができた。試乗する前はオープン化したボディと510psのエンジンのバランスが取れているか心配だったが、シャシーがよれたり、足回りがバタつくこともなく、剛性に関する不足はまったく感じられなかった。これには、走行状況によって硬さを変化させるダイナミックエンジンマウントの効果も大きいと思われる。
もちろん911GT3の0-100km加速3.4秒(PDK)、最高速度320km/hに対し、0-100km 加速4.0秒、最高速度310km/hというスペックが示すとおり、サーキットに持ち込んで本格的なタイムアタックを行えば、GT3の方がスピードスターより圧倒的に速いのは間違いない。しかし、サルデーニャのワインディングを散々楽しんだうえでの率直な感想を言うと、操る楽しさや、風や音を感じて刺激的かつファンなドライブを楽しめるのは、俄然スピードスターの方だと思う。
【SPECIFICATION】ポルシェ911スピードスター
■車両本体価格(税込)=未定
■全長×全幅×全高=4562×1852×1250mm
■ホイールベース=2457mm
■トレッド=前1551、後1555mm
■車両重量=1465kg
■エンジン種類=水平対向6DOHC24V
■内径×外径=102.0×81.5mm
■総排気量=3996cc
■圧縮比=13.3
■最高出力=510ps(375kW)/8400rpm
■最大トルク=470Nm(47.9kg-m)/6250rpm
■燃料タンク容量=64L(プレミアム)
■燃費=7.2km/L(EURO Combined)
■トランスミッション形式=6速MT
■サスペンション形式=前ストラット/コイル 後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前245/35ZR20、後305/30ZR20
【問い合わせ】
ポルシェジャパン℡0120-846-911 https://www.porsche.com/japan/jp/