現在、Dセグメントのプレミアムワゴンで高性能版を設定するのはアウディA4アバントとメルセデス・ベンツCクラス・ステーションワゴンの2台。ワゴンとしての用途を網羅した上で、なぜ性能を究極まで高める必要があるのか? その存在意義を問うべく、ワインディングを走らせた。
この世界は、アウディRSとメルセデスAMGの一騎打ち!
時流に乗ってSUVに惹かれ、いや、やっぱり定番のセダンかと夢想しながら、それでもステーションワゴンを選ぶ。そうした選択には強いコダワリがあるはずだ。その上で、これだけ高性能に仕立てられていれば、とてつもない満足感に浸れるのではないか。
なにしろメルセデスAMG C63Sステーションワゴンの乗り味は、まんま激辛のスポーツカーである。Cクラスの車体に最高出力510ps/最大トルク700Nmもの暴力的なV8ツインターボを押し込んだポテンシャルは並大抵じゃない。どうにか社会性を保っているような外観はどこか不気味で、ラフな操作をすれば後輪がすぐに破綻しそうなそぶりを見せて510psを伝えてくる。研ぎ澄まされた車体制御技術の恩恵があるから、ESPをオフにでもしなければ本気で危うい状況にはならない。といっても、常にこの暴れ馬を操っている雰囲気は拭えない。「ヤバイの買っちゃったな」と思いながら、それを己の自尊心として捉えれば、これだけ魅力的なモデルはない。踏めば踏むほどに暴れ馬っぽい印象が露呈するものの、丁寧に操作すれば上質なステーションワゴンになる。その狂気をひた隠す美学を持って、ラゲッジルームに平和的なアウトドアグッズを詰め込みたい。ワインディングを通るのなら、結局、運転の楽しさに魅了されて荷物がぐちゃぐちになるので、しっかりと固定しておくことを推奨する。
対してアウディRS4アバントは、ずっと平和的だ。搭載される2.9L V6ツインターボの動力性能は、450ps/600Nmと文句なし。AMG C63 Sには一歩劣るものの、スーパースポーツ級の動力性能なのは明白だ。
RS4にはアバントしか設定がないあたり、アウディの主張を感じさせる。だからなのか、いかに〝RS〟が付いても普通に走っていれば過度な刺激はなく、コンフォート性も高い。先代のV8からダウンサイジングされ、またトルコン式8速ATが組み合わされたことで、刺激はなかなか訪れない。「ヤバイの買っちゃったな」という印象はまるでなく、きっとラゲッジルームの荷物もぐちゃぐちゃにはならない。とはいえ、秘めたる性能を解放すれば、まるでワープするような加速力と、路面にへばり付くコーナリングを披露してくれる。長年、クワトロ(4WD)を研ぎ澄ませてきた、その究極完成系のようである。
アウディは徹底してステーションワゴンのあるべき姿を突き詰め、その名に恥じない万能最速ワゴンを具現している。対してメルセデスは、ステーションワゴンを欲する層の遊び心を理解し、だからこそ過度な刺激を与えて、移動する行為そのものを楽しませようとしている。持ちうる性能をひた隠して走った時、AMG C63 Sはそれでも辛口のスポーツカーといった様相を呈し、RS4アバントは上質なサルーンに徹していた。
どちらが好みかは、人それぞれの感性だと思う。僕ならどちらか、をずっと考えていたけれど、結局、無意味な思慮だった。ラゲッジルームいっぱいに詰め込む趣味のツールを持っていないのだ。ステーションワゴンの本流に則って、ラゲッジルームを使い倒す必要がある人にこそ、その上に成り立つモアパワーの魅力をどう解釈するか、本当の結論が出せると思う。