メルセデスとビーエムは、鎬を削り合うライバル同士。だからガチンコの対決をしても、甲乙つけがたい勝負になるのは致し方ない。ここでは、「この2台、自分ならこちらを選ぶ」と、1ペアに対してモータージャーナリストを2名立て、なぜそのクルマをオススメするのか、その理由についてを本音で語っていただいた。まずは、両ブランドのベストセラーであるCクラスと3シリーズの対決である。
歴代でもっともスポーティなモデル/BMW・3シリーズ派・石井昌道
スポーティセダンのベンチマークでありBMWにとっては金看板でもある3シリーズは、世代によってスポーティ志向を強めたり、はたまたコンフォート志向に振ったりとその特性は少しずつ変化している。こういったある種の揺らぎはライバルの動向に影響されてもいる。最大のライバルであるCクラスは、もともとは安全で快適なメルセデスらしいモデルで、3シリーズと走りのキャラクターではあまり被っていなかった。だが、競争が激しくなっていくと、相手のいいところを取り入れようとして、3シリーズはコンフォートにも力を入れ、Cクラスはアジリティというキーワードとともにスポーティさを取り入れる。両車は互いが歩み寄るような結果になったのが1-2世代前の状況だった。
そういった背景もあって先代3シリーズはバランスに優れており、万人向けといってもいいモデルに仕上がっていた。ところが、ジャガーXEとアルファロメオ・ジュリアという新たなライバル達が3シリーズを刺激することになる。たっぷりとコストをかけたプラットフォームを仕立ててシャシー性能を追求し、スポーティセダンの覇権を握りにきたのだ。そこで負けるわけにはいかないとばかりに、現行3シリーズはダイナミクス性能を追求。歴代でもっともスポーティと言えるほど振り切ったモデルとなったのである。
一方のCクラスはDセグメントセダンで唯一エアサスペンションを用意しており、コンフォート志向が強い。昨年のビッグマイナーチェンジではそれに磨きをかけた。結果的に3シリーズ vs Cクラスは近年の歩み寄りから反転して、スポーティ重視、コンフォート重視とはっきりとキャラクターが分かれた。選ぶ側からすればわかりやすく、それぞれのブランドのファンにとって喜ばしいことでもあるだろう。また、技術が進化しているのでスポーティとコンフォートという相反する要素のどちらかを重視しても、もう一方がひどく犠牲になることがなくなってきているのは、個性を強める後押しとなっている。
かくして生まれてきた現行3シリーズはBMWがハンドリングに求める正確性、素早さ、ダイレクト感という3項目を完璧なまでに実現している。先代モデルもハンドリングは秀逸でこれ以上どのように進化させるのかと思うほどだったが、現行ではホイールベースを41mm延長し、フロントトレッドは43mm、リアトレッドは21mm拡大。ホワイトボディでは55kgの軽量化、ボディ剛性は最大50%向上が図られ、さらにフロントサスペンションのトップにアルミダイキャストを採用して資質を高めた。
走りはじめてすぐに感じられるのが、ステアリング系統やフロント周りの凄まじいまでの剛性感だ。これによって微細なステアリング入力から極めて正確に反応し、ハードコーナリングでも頼もしさがある。ジャガーXEやアルファロメオ・ジュリアも素晴らしいが、王者の貫禄をふたたび見せつけることになったのである。
スポーティなハンドリングと聞くと、ステアリングを切り込めばほとんどロールを感じさせずキュンキュンと曲がっていくような特性を想像するかもしれないが、3シリーズはそういった昔のチューニングカー風味ではない。市販車としてはかなり引き締まったサスペンションではあるものの、ステアリングを切り込んだ瞬間は素直にストローク。ほんの初期のわずかな領域のロールスピードは早めで、その後徐々に粘りをみせていく。これによって外側フロントタイヤにしかるべき荷重がのって路面を掴んでくれる感触がクリアに伝わってきて、ノーズの動きがわかりやすいのだ。他のクルマから乗り換えると自分の運転が上手くなったように感じられる所以でもある。ハンドリングは正確性、素早さ、ダイレクト感だけではなく、わかりやすくて一体感が高いことも大きな特徴。超低回転から有効なトルクがあり、適切なギアシフトを行なうパワートレインも含め、ドライバビリティで右に出る者がいないほどで、それが3シリーズを真のドライバーズカーたらしてめているのだ。
ダイナミクス性能を思いっきり追求したこと、ランフラットタイヤを装着していることで、乗り心地は硬めの傾向にあるものの、スポーティセダンのトップを本気でとりにいった3シリーズのスピリットは崇高にさえ感じられる。コアなBMWファンのハートをがっちりと捉えるモデルなのだ。