
メルセデスとビーエムは、鎬を削り合うライバル同士。だからガチンコの対決をしても、甲乙つけがたい勝負になるのは致し方ない。ここでは、「この2台、自分ならこちらを選ぶ」と、1ペアに対してモータージャーナリストを2名立て、なぜそのクルマをオススメするのか、その理由についてを本音で語っていただいた。まずは、両ブランドのベストセラーであるCクラスと3シリーズの対決である。
歴代でもっともスポーティなモデル/BMW・3シリーズ派・石井昌道
スポーティセダンのベンチマークでありBMWにとっては金看板でもある3シリーズは、世代によってスポーティ志向を強めたり、はたまたコンフォート志向に振ったりとその特性は少しずつ変化している。こういったある種の揺らぎはライバルの動向に影響されてもいる。最大のライバルであるCクラスは、もともとは安全で快適なメルセデスらしいモデルで、3シリーズと走りのキャラクターではあまり被っていなかった。だが、競争が激しくなっていくと、相手のいいところを取り入れようとして、3シリーズはコンフォートにも力を入れ、Cクラスはアジリティというキーワードとともにスポーティさを取り入れる。両車は互いが歩み寄るような結果になったのが1-2世代前の状況だった。

BMW M340i xDrive/撮影車は、公道での実用性とサーキット走行を両立させたMパフォーマンスモデル。インテリジェント4輪駆動システムのxDriveをはじめ、Mスポーツデフ、アダプティブMサスペンションなどを装着。
そういった背景もあって先代3シリーズはバランスに優れており、万人向けといってもいいモデルに仕上がっていた。ところが、ジャガーXEとアルファロメオ・ジュリアという新たなライバル達が3シリーズを刺激することになる。たっぷりとコストをかけたプラットフォームを仕立ててシャシー性能を追求し、スポーティセダンの覇権を握りにきたのだ。そこで負けるわけにはいかないとばかりに、現行3シリーズはダイナミクス性能を追求。歴代でもっともスポーティと言えるほど振り切ったモデルとなったのである。
一方のCクラスはDセグメントセダンで唯一エアサスペンションを用意しており、コンフォート志向が強い。昨年のビッグマイナーチェンジではそれに磨きをかけた。結果的に3シリーズ vs Cクラスは近年の歩み寄りから反転して、スポーティ重視、コンフォート重視とはっきりとキャラクターが分かれた。選ぶ側からすればわかりやすく、それぞれのブランドのファンにとって喜ばしいことでもあるだろう。また、技術が進化しているのでスポーティとコンフォートという相反する要素のどちらかを重視しても、もう一方がひどく犠牲になることがなくなってきているのは、個性を強める後押しとなっている。
かくして生まれてきた現行3シリーズはBMWがハンドリングに求める正確性、素早さ、ダイレクト感という3項目を完璧なまでに実現している。先代モデルもハンドリングは秀逸でこれ以上どのように進化させるのかと思うほどだったが、現行ではホイールベースを41mm延長し、フロントトレッドは43mm、リアトレッドは21mm拡大。ホワイトボディでは55kgの軽量化、ボディ剛性は最大50%向上が図られ、さらにフロントサスペンションのトップにアルミダイキャストを採用して資質を高めた。
走りはじめてすぐに感じられるのが、ステアリング系統やフロント周りの凄まじいまでの剛性感だ。これによって微細なステアリング入力から極めて正確に反応し、ハードコーナリングでも頼もしさがある。ジャガーXEやアルファロメオ・ジュリアも素晴らしいが、王者の貫禄をふたたび見せつけることになったのである。
スポーティなハンドリングと聞くと、ステアリングを切り込めばほとんどロールを感じさせずキュンキュンと曲がっていくような特性を想像するかもしれないが、3シリーズはそういった昔のチューニングカー風味ではない。市販車としてはかなり引き締まったサスペンションではあるものの、ステアリングを切り込んだ瞬間は素直にストローク。ほんの初期のわずかな領域のロールスピードは早めで、その後徐々に粘りをみせていく。これによって外側フロントタイヤにしかるべき荷重がのって路面を掴んでくれる感触がクリアに伝わってきて、ノーズの動きがわかりやすいのだ。他のクルマから乗り換えると自分の運転が上手くなったように感じられる所以でもある。ハンドリングは正確性、素早さ、ダイレクト感だけではなく、わかりやすくて一体感が高いことも大きな特徴。超低回転から有効なトルクがあり、適切なギアシフトを行なうパワートレインも含め、ドライバビリティで右に出る者がいないほどで、それが3シリーズを真のドライバーズカーたらしてめているのだ。
ダイナミクス性能を思いっきり追求したこと、ランフラットタイヤを装着していることで、乗り心地は硬めの傾向にあるものの、スポーティセダンのトップを本気でとりにいった3シリーズのスピリットは崇高にさえ感じられる。コアなBMWファンのハートをがっちりと捉えるモデルなのだ。
少し穏やかに運転を楽しみたい/メルセデス・ベンツ Cクラス派・渡辺慎太郎
もちろんこれは人によってさまざまだと思うけれど、自分なんかは50歳を過ぎた頃からクルマに対する趣向に変化が生じ始めた。それまではドライバーの入力に対してビビットに反応するクルマに惹かれる傾向にあった。いわゆる“スポーティ”と呼ばれる類である。ところが、そういうクルマに毎日乗っていると体力的にも精神的にもちょっとツライというか、もう少し穏やかに運転を楽しみたいと思うようになってしまった。混んでいるけれど早く目的地に着く急行に我慢して乗るよりも、空いていてゆったり過ごせる鈍行を進んで選ぶようになった心境に、ちょっと似ているかもしれない。

MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition/撮影車はスムーズでパワフルな1.5L直噴ターボ+BSG+48V電気システムを搭載したC200に、AMGラインのダイナミックなフォルムとともに、スポーツサスペンションを装着したローレウスエディション。
あらためて最近のクルマの説明を見返してみると、SUVでもミニバンでもセダンでも“スポーティ”という言葉がそこかしこに躍っている。たいていの場合は見た目の印象をそっちの方向に持っていくお化粧レベルだが、中には操縦性までもしっかりチューニングしているものもある。「そんなに世の中の人は、猫も杓子も“スポーティ”なクルマを欲しがっているのだろうか?」といぶかしく思ってしまうのは果たして自分だけなのだろうか。
メルセデスのCクラスが現行モデルへ移行したとき、彼らが特に強くアピールしたのは“アジリティ(=スポーティ)”だった。メルセデスのグレード構成でスポーティな位置付けにあるアヴァンギャルドを主力商品とし、そのなんとなくBMWの3シリーズにジワジワと擦り寄っていくかのような姿勢に、個人的には「なんだかなあ」と腑に落ちない気分になった。
ところが一昨年のマイナーチェンジを機に、メルセデスはCクラスの立ち位置を若干見直す。ランフラットタイヤの標準装着をやめて乗り心地を向上させるなど、快適性をより重視した乗り味としたのである。BMWのほうへ行ってしまったCクラスが、メルセデスに戻ってきたわけだ。
いっぽうで、その直後にフルモデルチェンジを果たしたBMW3シリーズはさらに濃厚なスポーティへ舵を切った。電子制御式LSDをオプション設定するなど、よく曲がるためには手段を選ばないといったくらいの気合いの入れようである。
両社のこうした傾向は個人的には誠にウエルカムだと思っている。ドイツの“3強”はどれもなんとなく同じような方向へ進んでいる時期があった。BMWはラグジャリーへ、メルセデスはスポーティへそれぞれ向かっていったら、どちらもアウディみたいになってしまった——極端に言うとそんな感じだった。やっぱりメーカーごとに独自のキャラクターが立っていてくれたほうが何かと喜ばしい。
現在の自分の心境と合致するのは、マイナーチェンジを受けた現在販売中のCクラスである。中でもC200は1.5Lの直列4気筒ターボとBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)を組み合わせたユニットで、スターター・ジェネレーターを駆動力としても活用する。これが、発進からターボのトルクが立ち上がるまでの領域をカバーしてくれるので、動き出しからスムーズかつ力強い加速が期待できるのである。
このクラスとしては珍しくオプションでエアサスも選べるが、コンベンショナルなサスペンションでも乗り心地は上々だ。タウンスピードから高速巡航まで、減衰が比較的ゆったりとした同じような乗り心地を提供する。路面状況や速度によって乗り心地がコロコロ変わると疲労が増幅するが、Cクラスでは無縁である。
ドライバーの入力に対してあくまでも忠実な反応を示すハンドリングもCクラスの特徴のひとつ。3シリーズにように、まるでドライバーの意志を先読みするかのごとくグイグイと積極的に曲がっていく様とは対照的である。ステアリングをゆっくり回せばゆっくりと旋回を始め、素早く切り返しても操舵応答遅れなくしっかり追従してくれる。まるで従順な執事のようでもある。
メルセデスはいまやどれも1枚の“板”にメーターパネルとセンターディスプレイを組み込んだHMIが採用されているので、2眼式のメーターが妙にレトロチックに映るが、機能性に問題はない。Cクラスで唯一、個人的に不満に感じるのはグリルの意匠である。“アヴァンギャルド顔”にはいまだにどうしても馴染めない自分は、やっぱりボンネット上にそそり立つスリーポインテッドスターを拝みたいのである。
BMWのほうへ行ってしまったCクラスが、メルセデスに戻ってきた。
【Specification】BMW M340i xDrive
■全長×全幅×全高=4720×1825×1445mm
■ホイールベース=2850mm
■車両重量=1730kg
■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ターボ/2997cc
■最高出力=387ps(285kW)/5800rpm
■最大トルク=500Nm(51.0kg-m)/1800-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/40R19:255/35R19
■車両本体価格(税込)=9,850,000円
【Specification】MERCEDES-BENZ C200 Laureus Edition
■全長×全幅×全高=4705×1810×1430mm
■ホイールベース=2840mm
■車両重量=1580kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1496cc
■最高出力=184ps (135kW)/5800-6100rpm
■最大トルク=280Nm(28.6kg-m)/3000-4000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:5リンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:ディスク
■タイヤサイズ(F:R)=225/45R18:245/40R18
■車両本体価格(税込)=6,380,000円