メルセデス・ベンツ

メルセデスとビーエム、2台持つとしたらどんな組み合わせ?

03 A.Takei’s Choice/竹井あきら・屋根を開放すると心も解放される

どちらも屋根がどうにかしている

この数カ月、夫は在宅勤務、娘と息子は遠隔授業で各自1室を占有するもんだから、狭小マンションの部屋とデスクからあぶれたお母さんは不自由している。そんな折「メルセデスとBMWから2台持ちたいものを選べ」というお題をいただいて、選んだのはBMW220iカブリオレとメルセデス・ベンツVクラスにポップアップ式のロフトを備えるマルコポーロ・ホライゾンだった。どちらも屋根がどうかしている。むくむくと屋根を突き破って膨らんでいるのは夢なのか、あるいは欲深さか。

BMW 220i カブリオレ/時速50キロまでなら、走行中でもオープン/クローズ操作が可能だ。

現行車種に絞るなら、まずはBMW220iカブリオレが欲しい。旧型フィアット124スパイダーで味を占めて以来、扱いやすいサイズの、ファミリーカーとしても使える4座以上のオープンカーが大好物。好みでいえばこれほど高級である必要はなく、もっとゆるく、あわよくば5人乗れてMTならなおうれしいが、そんな個人的事情や偏愛要素を補って余りある贅沢がこのクルマにはある。
それはなによりすばらしく運転が楽しいであろうこと。残念ながら220iカブリオレを試乗したことがなく先代120iの印象からの推測でしかないが、駆けぬける歓びについては裏切られる気がしない。BMWのキャラクターとして愛される秀逸なハンドリングとダイレクト感だが、ことさらFRであれば後輪が路面を確実に蹴りだしていることと前輪がどこに向いているかをそれぞれ濁りなく味わえる。その爽快さは白い雲を忘れたバイエルンの晴れ渡った青い空だ。個人的には乗り心地が硬すぎるのが120iの唯一の残念な点で、より重く剛性で劣るカブリオレならむしろしっとりとした乗り心地が期待できる。そんな歓びに満たされた上に、これでもかと風と陽光を浴びてやろう。45歳以降激増したシミなんか、日焼けで見えなくしてやろう。

メルセデス・ベンツV220dマルコポーロ・ホライゾン/ポップアップルーフやフルフラット機能付ベンチシートなどを専用装備する。

コンパクトで運転が楽しめるオープンカーを手に入れたら、次にほしいのは遠慮なく一番大きいVクラスである。リゾートホテルの送迎で乗ったことがあるだけで、フルセットのゴルフバッグを縦にどんどん飲み込んでいったあれを個人で所有したいと思ったことはなかったが、ポップアップルーフを備えたモデルを見たら俄然欲しくなってしまった。たっぷりと頼りがいのあるトルクで押し出してくれるであろう2.1Lディーゼルターボも、アドブルーという食べたことをなかったことにしてくれるダイエット食品みたいな薬剤を使うクリーンディーゼルシステムも興味深い。
釣り場やスキー場まで深夜走って仮眠を取るにも、キャンプ中の悪天候でテントを見限ってクルマに避難するにも、2列目を外せば3列目がフルフラットになるというのは心強い。ただし外したシートどうするの問題は、特に悪天候のキャンプを思い浮かべると打破しがたい大問題である。そこでポップアップルーフとも思ったが、豪雨だったらさすがに雨が漏るだろうし、高級車だけにテントの浸水よりよっぽど被害が大きい。考えた挙句、フルフラットにしたいなら5人乗りと割り切るべきと分かった。贅沢とは余裕である。
大きいクルマで気が重いのは取り回しだが、メルセデスは異常なほどに小回りが利くことはSクラスを初めて運転した時の衝撃以来厚く信じている。とはいえかつてトヨタ・コースターベースのキャンピングカーで対向車とすれ違うために崖っぷちを泣きながらバックしたトラウマがあるので、細い山道には220iカブリオレで行こう。どうせ大した荷物も持たないキャンプなのだ。
なんならVクラスはガレージに置きっぱなしでお母さんの仕事部屋にしてもいい。いや家に縛られる必要もないのだ。深夜リビングのホワイトボードに書いて出かけよう。「お母さんは湖にいます野鳥の声を聞きながらお仕事をして釣りをしてから帰ります」
屋根を開放すると心も解放される。夢であれ欲であれ、自由を求めるのは悪くない。ただ道をたどってもたどり着けないどこかに、屋根の開くクルマは連れて行ってくれそうな気がする。

ルボラン2020年8月号より転載
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