南陽一浩の「フレンチ閑々」

仏流の最新ユーティリティ・バンは9人乗りBEV!「プジョーe-エキスパート」が自由だ!【フレンチ閑々】

日本市場への導入を期待したいフレンチミニバン

日本にはまだPSAグループの同門であるDS 3クロスバックE-テンスが導入されたばかりだが、欧州においてプジョーは208から2008、3008に508、508SWまで、ラインナップの上から下まで、すっかりECV化が完了したコンストラクターとなっている。

ECVとは「Electrically Chargeable Vehicule」、つまりプラグインで充電できるBEVやPHEVの総称。ようはコンセントで充電できるタイプで、コンセントの先に繋がっている供給元が水力か太陽光か風力か原子力か火力か? いずれ化石燃料を燃やさない方向が望ましくて、燃やして走ってその回生エネルギーで電気モーターを回す48Vハイブリッドやストロング・ハイブリッドと峻別する呼び方だ。PHEVも燃やして走ることは多々あるとはいえ使いようによっては抑えられるので、いわば電動化の質を問う概念といえる。

そのプジョーから、ちょっと見逃せない1台が登場した。プジョーe-エキスパートおよびその乗用車版たるe-トラベラーだ。これは日本市場でも大ヒット御礼となったリフター&シトロエン・ベルランゴ兄弟よりひと回り大きく、フルゴネットではなくフルゴン・コンパクト(その上はフルゴン・ルールと呼ばれる)のカテゴリーだ。とくに商用車側のこのカテゴリーで、不動の王者であるルノー・トラフィックから昨年はベストセラーの座を奪い、2016年からじつに20万台を販売している大ヒット作、それがプジョー・エキスパートであり、そこにEV版が加わったという訳だ。

現行世代のエキスパート/トラベラーは同門のシトロエン・ジャンピー/スペースツアラーの他に、トヨタ・プロエース/プロエース・ヴェルソともEMP2プラットフォームを共有している。先代ユーティリティ・バンでPSAグループはフィアットと提携していたが、フィアットが抜けた提携枠に2016年からトヨタが代わりに入った格好で、3メーカーともヴァランシエンヌ近くの工場で生産ラインを共有する。

トヨタ顔のEMP2バンであるプロエースは欧州市場専用で、日本に入ってくることはおそらくなさそうだが、軽量・低重心を旨とするフランス車のプラットフォーム開発と共有化のノウハウが、じつは先進的だという証左でもあり、TNGA辺りが受けている影響も少なくなさそうだ。実際のところ、プジョーは2014年に308で、次いで2017年に3008とEMP2で2度、さらには2020年に208でCMPというひと回り小さい最新プラットフォームでも受賞するなど、ここ6年間で3度も欧州COTYを制している。だから自国贔屓の土壌も手伝って、フランスの自動車業界ではVWゴルフやポロが欧州Cセグ、Bセグの指標という時代はとっくに終わっている、という感覚が根強い。

話が少し逸れたが、e-エキスパート/e-トラベラーにグッと来てしまう理由はふたつある。まずシトロエンC4ピカソ(現スペースツアラー)以降、308や3008、5008に508など、何に派生してもヴィークルダイナミクス的に一切ハズレのない、EMP2プラットフォームがICE版パワートレインではなく初めて100%EV化されたという技術的トピック。そして日本市場でルノー・カングーが先駆け、リフター/ベルランゴで拡大し続けるフレンチ・ユーティリティ由来の週末バンという旬のジャンルでもある点。見た目にはモロにユーティリティ・バンながら、じつはe-エキスパート/e-トラベラーは乗用車起源の車台であるところからして、巧い企画だ。

プジョー・トラベラーには以前、試乗会の時に駅から会場までピストン輸送されて、後席に収まったことがある。3m近いロングホイールベースながらも、ボディ剛性と密閉感の高さ、そしてVWのT6やメルセデスのVクラスよりずっとしなやかで当たりの柔らかい乗り心地に舌を巻いたものだ。それがEV化されてフロア下にバッテリーを積むことで、さらに低重心化され、静粛性も高まることが予想できる。とくにe-トラベラーの方だが、大容量のバッテリーを収めたEVといえば巨大SUVばかりなので、最大で3列9名分のシートを備え付けられるピープル・ムーバー的なEVとしても、鮮度は高い。2・3列目を独立シートの対面4座とした仕様もある。レザーシートの立体的な造りやタッチも含め、内装の質感という点でも、VWのT6を軽く凌いでいる。

ボディは全長で3種類に分けられ、4606㎜の「コンパクト」、4956㎜の「スタンダード」、5308㎜の「ロング」がある。「コンパクト」のホイールベースは2925㎜で、後二者は3275㎜。中間サイズの「スタンダード」は、フロントドアまでの前端とリアのオーバーハングの後端が不変のままで、スライドドア・セクションでストレッチされている一方、ロングホイールベース化に加えてリアオーバーハングも350㎜ほど延長されているのが「ロング」という訳だ。

全幅は1920㎜で、車高はホイールサイズにもよるが1890~1940㎜。テールゲートを開け放ったら荷室の開口部はほぼ正方形だ。荷室容量については、プジョーによればロングボディなら9名乗車時でも1500L。5名なら3000L、2列目3列目それぞれ取り外し可能なシートを取り払えば最大で4900Lまで拡大できるという。コンパクトやスタンダードでは、その8掛け9掛けといったところだが、引っ越しがこなせそうなほどの大容量の荷室であることは間違いない。

気になるリチウムイオンバッテリーの容量は、18セルで50kWhと27セルで75kWhの2種類が選べ、いずれのセルも前後方向にフロア下に敷き詰められている。先頃、日本上陸を果たしたDS 3クロスバックE-テンスは小さい側の50kWhと同じ容量だが、セルは左右方向を向いていて一部は重なっている部分も、透視図では認められる。

いわばCMPプラットフォームとは似て非なるバッテリー構成ながらも、最大出力100kw(=136ps)に260Nm(パワーモード時)というモーターのスペックもまったく同様となっている。それでいて、最大積載量を積んで登り坂道を発進するような状況を鑑みて、モーター出力を伝えるリデューサーの減速比はe-208やe-2008よりも低められているそうだ。バッテリーのセル組立はモジュール化しつつ、Bセグでも全長5m前後のフルゴンでもBEVパワートレインの共通化が見てとれる。

ちなみにシフト操作は、センターコンソール下部に設けられた「e-トグル」という、指先シーケンシャルのプッシュ&プル方式となっている。どこかで見たことがあると思ったら、新しいシトロエンC4、それもë-C4と同じではないか。

いずれPSAグループは日本市場においても、先行するDS 3クロスバックなどBEVのリチウムイオンバッテリーに8年間16万kmで70%の容量保証を掲げている。同じセルを用いるe-エキスパート/e-トラベラーにも、同じ保証を付けることは難しくないはずだ。ちなみにトヨタもプロエース/プロエース・ヴェルソのBEV版を今秋にリリースする予定で、バッテリー保証は15年100万kmを謳う。バッテリー容量自体はPSAグループと同じ50kWhと75kWhなので、温度管理や制御プログラムなど、ハイブリッドで培ったアドバンテージがあるのだろう。

注目のWLTPモードにおける航続レンジは、ボディ全長ごとの違いは示されていないものの、50kWhモデルで約230km、75kWhモデルでは約330kmとなっている。もちろん航続距離を最大化するにはドライブモードをエコに入れていることが前提で、その場合は出力が60kW、トルクが190Nmに制御される。

とどめに充電に関しても、標準の車載チャージャーは単相7.4kw。だがDS 3クロスバックE-テンス日本仕様で展開される普通充電スペックの3kW・15A・200Vを鑑みれば、満充電にかかる時間は50kWhで約18時間、75kWhなら約28時間ほどとなるだろう。欧州向けは当然、AC/DC対応のコンボ仕様だ。いずれ日本導入未定のためDC一本のCHAdeMo対応については未定だが、DS 3クロスバックE-テンスやプジョーe-208の上陸が決まっている以上、技術的に不可能ではないはずだ。

航続距離が短いように思えるかもしれないが、フランス車らしいインテリアの妙を堪能してゆっくり寛ぐには、道中での急速充電はむしろ時間の使い方として絶好の機会でもある。旧カングーから始まって、リフター/ベルランゴでジャンルとして完全に定着したフレンチ・ワークスタイル・バンの新しい展開でもある。しかもEMP2という魅力あるシャシー・プラットフォームかつBEVのピープル・ムーバー。そんな唯一無二の立ち位置を思えば、e-エキスパート/e-トラベラーは、とくに乗用車版の後者は、日本市場でも存在感を発揮するのではないだろうか。

日本市場にはBEVと併売でディーゼルもあってよい気がするし、期待感を込めて注視したい一台といえる。

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

南陽一浩

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