コラム

BMW Team Studie代表兼監督「鈴木BOB康昭」のレーシングダイアリーvol.2【スーパーGT第2戦FUJI編】

皆様こんにちは。BMW Team Studieの鈴木でございます。
毎日酷暑な日が続いておりますが、如何お過ごしでしょうか?
今月の8日(予選)9日(決勝)に開幕戦と同じ富士スピードウェイにてSUPER-GT2020の第2戦が開催されました。レースウイークの前日までは強烈な日差しで気温も路面温度もグングンと上昇していたのですが、意外にも本番の日は気温30度、路面温度36度と比較的過ごしやすい環境の中でレースです。

それでも、この時期のレーシングカーの車内温度は低くても60度、高ければ70度を超える凄まじい暑さの中でドライバーは冷静な判断と的確な操作を要求されます。そんな彼らを守るために、古くはクールスーツという、服の中に特殊な冷却パイプが張りめぐされたインナースーツを着て、クーラーボックスに入ったドライアイスから冷気を送るというシステムを使用していました。

しかし、最新のGTカーのほとんどは市販車と同じ様なエアコンが装備されており、冷気を極太のパイプを介しドライバーの身体やヘルメットにダイレクトに送るようになっていて、非常に快適に運転に集中出来る様になっております。ちなみに車内にある非常に重要なECU等のコンピュータ本体もこのエアコンによって冷やされておりますので、基本エアコンは常時ONとなります。
それで今回の予選日、実はこのエアコンに不具合が出ました。調べていくとコンプレッサー等の本体ではなく、ホース途中にあるプレッシャーセンサーの不具合でした。普段であれば、即効ピット裏に止まっているトランポの中にあるスペアパーツで修理するのですが、今シーズンはこのパーツ一式こそ3月にドイツ本国から全て(ほぼ1台分のパーツ全て)到着していたものの、これら全て本国BMW Motorsport社の所有物でして、彼らの任命(指定)した人物でしかこのコンテナを開けられないのです。
要するに荷物こそ届いているものの、その担当者が今現在コロナの影響で入国出来ないため、せっかくのスペアパーツが使えないのです。よって今シーズンは3年前までSUPER-GTを闘っていた時のスペアパーツで残ったものと、加えて市販車と共有しているパーツだけしかないわけです。

このプレッシャーセンサーのパーツナンバーを調べましたが、これは完全にレース専用部品であったのでどうする事も出来ません。予選こそ何とかこの状態で走行致しましたが、長丁場になるレースではそうもいかず、しかもこの時点では決勝日は灼熱の1日になるであろうと誰もが予想していた状況でした。
そこでいろいろな方法を考え、情報を収集して精査した結果、秘密兵器を投入することに!
現在のエアコンシステムを全て取り外し、クールスーツスタイルに変更を決断。しかも、昭和時代から愛用されているドライアイススタイルではなく、最新のデジタル冷媒システムを用いた物が最寄りの御殿場にある事が判明し、それをお借りして決勝レースを走ることにしました。

マネージャー陣はドライバー二人に合うサイズのクールスーツ本体の準備に駆け回り、メカニック達は今のBMW純正エアコンシステムの取り外しと、その冷媒システムを借りに行き、それを装着するチームの二手に分かれました。その作業は深夜まで掛かりましたが、彼らの奮闘で何とか決勝日の朝には無事新たな冷却システムが完成し、安堵したその日は皮肉にも非常に涼しい朝ではありました。
そして曇り空の下、午後1時ピッタリに決勝レースはSTARTしました。
45台のマシンはこれ以上ないほどクラッシュもなく綺麗に走り始めましたが、そんな中でも、1stスティントを担当した荒聖治は順調に順位を上げていきました。クラッシュや走行不能なマシンはほぼなく、拍子抜けするほどスムーズな流れのレースが進んでいきますが、逆にTOPから20番手ぐらいまでの間隔はとても密集していて、一つのミスで順位が10個以上下がってしまう事が想定されるため、非常に気の抜けない時間が進んでいきます。

レースの半分が終了した30LapsでPIT’inを伝えセカンドドライバーの山口智英に交代する時に、そのトラブルは発生しました。なかなかドライバーチェンジが終わらない。いつもなら最後になるリアタイヤの交換はとっくに終わっているのに。こういう時の1秒は1分ほどに感じます。コース上で1秒を挽回するのは大変な努力が必要ですが、ピットで1秒を失う事は無情なほど簡単に出来てしまいます。

結局予定していたいつもの交代時間よりも26秒も長い時間が掛かってしまいました。勿論この瞬間に我々の上位進出の夢は途絶えました。原因は普段なら必要ないクールスーツのパイプの移管。昨日の今日ですから練習も出来ていませんでした。ドライバーは責められません。交代時にこのホースがシートとフレームの間に挟まってしまいなかなか抜く事が出来ませんでした。残念無念……。
しかし、その後も今年初めてSUPER-GTに参戦している山口は冷静に的確な操作と共に周回を重ね、数台をオーバーテイクした後にGT300クラス22位でゴールしました。
エアコンに泣き、笑い、そして泣いた今回のSUPER-GT2020 Round.2フジ戦でしたが2週間後にはRound.3鈴鹿戦が待っています。開幕戦が4ケ月遅れて開幕した関係でスケジュールがとても詰まったモノになっております。スペアパーツの問題そして心配はまだまだつきまといますが、これはもう言っても仕方ない事なので、今ある環境の中で頑張って一つでも上の順位目指して闘って参ります。どうぞ引き続き熱い応援のほど宜しくお願い申し上げます。

最後まで読んで下さって有難うございました。ブーーーーーーン✈

フォト=田村 弥/W.Tamura

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