新型208は走る喜びや内外装のクオリティにBセグメントコンパクトカーとして一石を投じたモデル。その総合力の高さに対して、今回の比較試乗に連れ出したのはドイツのプレミアムコンパクトモデル、アウディA1スポーツバックだ。かたや1.5Lの直列4気筒モデルゆえ純然たる比較はできないものの、さてどうだ!
A1はもっと頑張れ、208はよくやった
このページのタイトルをプジョーの人が見たら肩をすくめてみせるかもしれない。うちはプレミアムブランドじゃないですよと。グループ内でプレミアム領域を担当するのはDS。したがって、アウディA1と同じ土俵で戦うのは同じCMPプラットフォームを使いつつもより上質かつ個性的に仕上げたDS3クロスバックである。
フロント周りを中心に剛性アップ対策を施したDS3クロスバックの乗り味は208を凌ぐ。208、とくにGTラインでときおり顔を覗かせる尖った突き上げは皆無だし、接地感もDS3クロスバックのほうが濃密だ。スポーティーさとソフトタッチを巧みに組み合わせた208の“猫足”も悪くないが、DS3クロスバックに乗れば「値段の高さは内外装の違いだけが理由じゃないよ」という強烈なメッセージがストレートに伝わってくる。
この関係はアウディA1とVWポロにも当てはまるのだが、A1にはポロとは異なるプレミアムな世界観が展開されている……と明言できないのが苦しいところ。先代A1はたしかにポロと別モノだったが、現行モデルになって両車の関係はかなり接近してきた。もちろん外観を見ればひと目でアウディだとわかるだけの個性は備えているのだが、車内に乗り込むとそこここにコストダウンの形跡が見えてしまうのだ。
ステアリング、シート、メーター、ペダル、スイッチ類といったパーツ類のクォリティは高い。しかしダッシュボードやドアトリムといったハードプラスティック製大型パーツの質感はアウディとしては明らかに物足りない。新型A1はVWの工場で生産される初めてのアウディだが、そうであるなら生産の高効率化で浮いたコストを質感としてユーザーに還元するのが筋というものだろう。300万円を切る3気筒モデルであればまだ許せるが、オプションを載せたら400万円を軽く超えてくる35TFSI Sラインでこの見栄えはちょっと厳しい。
とはいえ、走り出せばさすが4気筒。208の3気筒も素晴らしい出来映えだが、やはりよくできた4気筒と比べてしまうと粗さは隠せない。動力性能の余裕にも大きな違いがある。一方、フットワークは固め。とくに低中速域では路面のゴツゴツを正直に伝えてくるし、室内に侵入してくるロードノイズも大きめだ。速度を上げたときの安定感やハンドリングにはキラリと光るものがあるけれど、アウディであれば全速度域でプレミアムを感じさせる方向への進化を望みたいところだ。
冒頭でプレミアムモデルではないと書いた208だが、正直なところエンジンとブランド力を除けばA1にプレミアム度で負けていない。208が質感を高める一方、A1が上から降りてきてくれたことでほぼ横並び状態になったといったところだ。それでもA1はもっと頑張れ、208はよくやったと言いたくなるのは、ひとえにブランドの立ち位置と価格ゆえである。プレミアムブランドもラクじゃない。そんななかあえて結論めいたことを言うなら、他人から見たときのプレミアム度はブランド力で優るA1が依然としてリードしているということ。しかしオーナーとして感じる満足度は208も負けていない。プレミアムという言葉が似合うかどうかは別として、208とともに過ごす生活は間違いなく色彩豊かだ。