国内試乗

【比較試乗】「フォルクスワーゲンTクロス vs Tロック」新世代コンパクト・クロスオーバー、Tブラザーズはどちらが買い!?

総合的なバランスではTクロスに軍配か

と、数字やスタティックの質感などを比べたところで、まずはTクロスを試乗する。ポロも然りだが、アイドリングから低回転域までのエンジンの静かさ、そして振動の少なさは、とてもバランサーレスの3気筒ユニットとは思えない。ポロに比べると100kg近く重い車重をものともしないトルクの厚さもあって、60km/h前後までのシティライド領域では、走りにおいても快適性においてもストレスを感じることはなかった。

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus/

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus/試乗車は1st Plusのデザインパッケージ装着車で、内外装を写真のオレンジのほか、グリーンとブラックでコーディネイトできる。

中~高速域に入るとさすがにキャパシティなりに速度の乗りが鈍る感はある。が、エンジンは素直に回りパワーもきちんと乗っていくから、小型車らしく使い切る乗り方を由とすれば高速道路の合流や巡航でも不満を抱くことはないだろう。その域でも3気筒的な音質や振動は低く抑えられ、パワートレイン由来の不快感は小さい。

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus/

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus

ただしフットワークについては、速度域を問わず、全般にやや粗めの印象だ。18インチの大径タイヤの質量的影響も大きそうで、実用優先ならば、装備差が思いのほか少ない16インチのベースモデルを選ぶに越したことはない。

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus/1L3気筒ターボは、7速DSGとの組み合わせにより想像以上によく回る。

Tクロスとほぼ同じサイズの18インチタイヤを履くTロックは、さすがにひと回り洗練された乗り心地をみせてくれた。それでも低速域では渋味もあるが、高速域のカチッとしたまとまりとトレードオフと考えれば致し方ないところだろう。最上位のRラインは19インチ+電子制御可変ダンパーの組み合わせとなるが、この設定が帯に短し襷に長しな感じで、日本の路面とは相性が今ひとつ合わないところがある。乗り味的にはコンベンショナルな足回りの18インチ以下のグレードをお勧めしたい。

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus/荷室容量は通常時385L、後席を前にスライドすると455Lに拡大。こちらもフロアは2段階調整式。

パワートレインではディーゼルでありながら、徹底的なクリーンネスを担保するがゆえのセットアップだからか、低回転域のトルクの立ち上がりがやや眠いところがあるところが気になった。ドカンと押し出すような図太いトルクを期待すると肩透かしを食らった気分になるかもしれない。が、反面、街中では乗員にも優しいじんわり加速が楽に引き出せる上、1500rpm向こうの回転上昇とともに得られる走りは期待通りの力強さを備えている。考えようによっては扱いやすい特性といえるかもしれない。

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus

VOLKSWAGEN T-CROSS TSI 1st Plus

ともにFF、ともに同様のサス形式ということもあって、TクロスとTロックのハンドリングはよく似たところがあった。操舵と同時に急にゲインが立ち上がるような性急さはなく、ロールにも重心に負けて急に倒れ込むような癖はない。素直に曲がり、まずまずよく粘る、多くの人にとって理想的で親和性の高いスポーティさだ。
果たしてクーペコンセプトのTロックならば、もう少しピリッとアクセントを効かせた方がいいのではとも思ったが、VWのブランドにそれを望む人は少ないと言われればその通りでもある。むしろ差別化という点でいえば、20km/Lの燃費が狙える足の長いTロックにこそ4モーションはあって然るべきだろう。形状に相反する実用的なパッケージもそれならより活きるはずだ。その点、Tクロスは価格と内容、個性とのバランスがよく練られていて、ポロの別選択肢だけに収まらない魅力がある。

フォト=郡 大二郎/D.Kori ルボラン2020年10月号より転載

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