他に類を見ないルックスとランドローバーとしての走破能力により磨きをかけ、この上ない快適性と走行性能を実現したレンジローバーファミリー。その誕生から現在に至るレンジローバーの足跡を振り返るとともに各モデルのキャラクターをあらためて考察してみる。
4つのモデルで構成されるレンジローバーファミリー
第二次大戦後から間もない1948年に登場したランドローバーシリーズ1。以降、目的用途や仕向地環境などに応じて様々な様々な架装が施されて世界へと商圏を広げていたが、時代の移ろいと並行して多様化したアウトドアレジャーに対応する、民生用としての存在感が希薄という課題も顕在化してきた。それが1960年代の話だ。
1970年に登場したランドローバーの初代レンジローバーは、この課題を克服するまったく新しいコンセプトの4WDとして企画された。多くの荷物を積んで悪路を走破する性能と、パッセンジャーカーの代替として日常利用でもストレスのない使い勝手や操縦性を両立するという点では、ジープのワゴニアと趣旨を同じくしている。が、アメリカとイギリスのレジャーニーズや自動車文化の違いはディテールによく現れていて、レンジローバーはミニマルなデザインと上質なマテリアル、そして道を問わない快適性という新しい価値が高く評価された。
無二の価値をもつレンジローバーは、相応の価格をものともしないカスタマーたちに支えられ、その嗜好や要望を汲みながら、より豪華に快適にという進化の途を歩んだ。
が、一方で守り続けたのが核心である悪路対応力だ。時代ごとの最新のデバイスも吟味しながら、常にオフロードでの走破性をアップデートするだけでなく、運転席からの視界の良さや取り回しやすさなどにも拘り続けてきた。
2000年代以降は世のSUVブームにも押されるかたちで、モデルをじわじわと増やしてきたレンジローバー、現在、その冠を戴くのは4つになる。
実質的な大黒柱といえるレンジローバースポーツ
2005年に登場したレンジローバースポーツは、X5やカイエンといったオンロードに軸足を置いたスポーティさを売りとしたプレミアムSUVに対するレンジローバーの回答として投入されたモデルだ。二代目となる現行型は、レンジローバーと同様のアルミモノコックを採用し、居住性や快適性の面でも大きな進化を遂げた。現在のランドローバーのラインナップにおいては、性能面やステイタス面においての実質的な大黒柱とみても間違いではないだろう。

RANGE ROVER SPORT AUTOBIOGRAPHY DYNAMIC/レンジローバーがロータリー式のATセレクターを使用しているのに対して、レンジローバースポーツは従来のレバー式を用いているのが最大の違い。インフォテイメントシステムやオフロードモードにおける操作もほぼ同一。慣れてしまえば直感的に各種設定ができる。シート地などデザイン面でもスポーティさを演出しているのも印象的で、ホールド性や乗降性も良好。試乗車にはオプションで装着できるリアモニターが装備されていた。
今回試乗したレンジローバースポーツには、ジャガー・ランドローバーが新たに開発した直6エンジンが搭載されている。先に投入されているインジニウムファミリーの最新型となるそれは、従来のV6と置換することでコストや重量などの面で有利になるというが、そのぶん、このP400は電動スーパーチャージャーやツインスクロールターボ、48Vマイルドハイブリッドなどのデバイスがてんこ盛りでそのメリットは相殺されているだろう。
この複雑なメカニズムを綺麗にまとめた新しいエンジンは、V6に対して本能的な魅力が見事に勝っている。中高回転域では充分なパワフルさと共に直らしい滑らかなフィーリングと澄んだサウンドを聴かせてくれる一方で、極低回転域からじわじわとトルクを立ち上げて歩むように進むのも苦にならず、悪路で求められる速度調整能力もしっかり確保されている。
足回りのダイナミックレンジはご本尊のレンジローバーにも勝るほどで、ぬかるみや砂利道もものともせず、ワインディングでは下手なスポーツカーも脅かすコーナリング性能をみせる。その姿勢の良さや駆動の掛け方の巧さをみていると、彼らは車体をいかに動かすかを考える上であらゆる唐突感を極力排そうとしているのだと思う。ひいてはそれが、ランドローバー銘柄に共通する、肌馴染みの良さに繋がっているのだろう。
都会映えのルックスだが本格派のイヴォーク
2010年に登場したレンジローバーイヴォークは、最も小さいレンジローバーでありながらブランドのデザインランゲージを一新させたのみならず、全てのSUVのスタイリングにも大きな影響を与えたイノベーターだ。どうみても都会映えを狙ったルックスでありながら、いざ悪路に向かえばレンジローバーの名に恥じない走りを披露するというギャップもその存在感を大きく高めるに至った。

RANGE ROVER EVOQUE SE D180/ランドローバーブランドとしてはリーズナブルな価格帯であるものの、決して安価に見えない仕上がりは見事というほかないイヴォーク。装備面でも充実しており、インフォテイメントシステムやオプションの運転支援システムなど、上級モデルのレンジローバーと比較しても大きく劣るところはなかった。サードシートこそ用意されないものの、それでもラゲッジスペースは十分。最大で1156L、2列目を使用した状態でも472Lの容量を確保している。
そのキャラクターは二代目となつたイヴォークにも健在だ。最低地上高210mm、渡河深度600mmといった泥臭い数値はSUVというよりクロカンの側に近い。で、ありながら、オンロードでは無駄なピッチやロールを極力排したフラットな乗り心地を実現している。高重心をバネやスタビで締めて抑えすぎることなく、動くアシを上手にダンピングコントロールする。これもまた、悪路のエキスパートならではの脚の作り方だ。
今やレンジローバーは全てのモデルでディーゼルが選べるが、イヴォークには180psの4気筒ユニットが載る。振動や静粛性の面でも不満はなく、何より低速走行や長距離巡航といった、4WD向きの場面で最適な特性を供してくれるのが嬉しい。個人的には全てのレンジローバー銘柄で、まず検討すべきはディーゼルだと思う。
ヴェラールはイメージリーダー
と思いつつ、先の直6や、このV8スーパーチャージャーを回すと心揺すられてしまうのは致し方ない。レンジローバーヴェラールは2017年に登場し、このSVシリーズは2019年に発売開始された。車格や重量、エンジニアリングの鮮度からみてもいま、最も濃いスポーティネスを備えたレンジローバー銘柄と推せるものだ。

RANGE ROVER VELAR SV AUTOBIOGRAPHY DYNAMIC EDITION/日本では53台限定で用意されるヴェラールの最強モデル、SVオートバイオグラフィダイナミックエディション。550ps&680Nmを誇るだけに、エンジン以外も特別に仕立てられている。専用設計のスポーツステアリングやアルミニウム製パドルシフト、ノール加工を施したロータリーシフターなど、細部にまでこだわっているのが特徴。専用で採用するダイヤモンドキルトパッド仕様のウィンザーレザーシートも豪華で、座り心地も一味違う。
550psを発揮する5LのAJV8は、アクセル操作に気遣うことなく如何様にでも駆動力を引き出せる。ハンドリングは生来のシャープさ加えて増速作動するアクティブデフによってさらに引き上げられており、アクセルオンでアペックスに詰め寄る感覚はSUVにして異質さを感じるほどだ。が、これほどまでにオンロードに寄せた性能でありながら、悪路性能を切り捨てていないところにレンジローバーの矜持がみてとれる。
ヴェラールの立ち位置は、現在のレンジローバー銘柄の先進性や洗練性のイメージリーダーということになるだろうか。タッチパネル式のインフォテインメントや操作系はほどなく他のモデルにも展開されたし、フラッシュサーフェスのフィニッシュはイヴォーグが踏襲している。そして、これら3モデルが崇めるご本尊として別格の存在感を示しているのが、レンジローバーだ。
レンジローバーはまさにブランドの真髄
ラインナップの増加はブランドの希薄化と表裏であることは間違いない。が、一方でSUVが時代の標準となる中でレンジローバー1車種でニーズのすべてを賄うこともまた不可能だ。先述の3モデルが先進性や収益性、スポーティネスといった項目を担ってくれたおかげで、レンジローバーはど真ん中でブランドの真髄を気兼ねなく体現できる環境が整ったわけだ。

RANGE ROVER AUTOBIOGRAPHY PHEV/トップ・オブ・SUVの名に恥じないラグジュアリー感あふれるインテリア。シートにはセミアニリンレザーを採用するなど、その質感や肌触りは非常に魅力的だ。試乗車のようにオートバイオグラフィであれば、後部座席はスイッチひとつでリクライニングを開始、同時にフットレストが迫り出しリラックスモードに変更される。また、今回のテスト車両はPHEV仕様。フル充電に要する時間は約2時間45分。家庭用電源の場合は7.5時間で完了する。
レンジローバーの乗り味は、同系のアーキテクチャーを用いるレンジローバースポーツとも大きく異なる。操舵や加減速のフィーリングの柔らかさ、大きな上屋をふわりと支えながら路面との接触感はしっとり伝えてくるシャシーセッティング、掌の腹で微妙な保持や入力を促す角張った断面のステアリング、前両端がガチッと見切れるボンネットのクラムシェルデザインと、その官能性のあらかたが初代からの泥の伝統の延長線にきっちりと軸足を乗せている。
今やPHEVまで用意されるパワートレインの多彩さも意に介さないほど、器たる車体が揺るぎない。次期型にはカリナンやベンテイガも向こうに回しながら、レンジローバーとはどうあるべきかを再定義する試練も課されるだろう。が、この確たる世界観が守られればブランドに揺るぎはないはずだ。
Column/50周年を記念した特別限定車がデビュー!
初代レンジローバーのデビューから50周年を記念した限定車「レンジローバー フィフティ」がまもなく発売される。生産台数はオリジナルが誕生した年にちなんで1970台。初代で採用されたボディカラーを再現した、トスカーナブルー、バハマゴールド、ダボスホワイトをラインナップし、ボディタイプも標準型のほかにロングホイールベース仕様も選択が可能。パワートレインもガソリン、ディーゼル、PHEVからチョイスできる。
【Specification】RANGE ROVER AUTOBIOGRAPHY PHEV
■全長×全幅×全高=5005×1985×1865mm
■ホイールベース=2920mm
■車両重量=2640kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1995cc
■最高出力=300ps(221kW)/5500~5900rpm
■最大トルク=400Nm(40.8kg-m)/2000-4500rpm
■バッテリー容量:13.1kWh
■モーター出力:96kW
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:ウイッシュボーン
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=275/45R21:275/45R21
■車両本体価格(税込)=18,310,000円
【Specification】RANGE ROVER SPORT AUTOBIOGRAPHY DYNAMIC
■全長×全幅×全高=4855×1985×1800mm
■ホイールベース=2920mm
■車両重量=2340kg■エンジン種類/排気量=直6DOHC24V+ターボ/2993cc
■最高出力=400ps(294kW)/5500-6500rpm
■最大トルク=550Nm(56.1kg-m)/2000-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=ツインロワーリンク:インテグラルリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=275/45R21:275/45R21
■車両本体価格(税込)=12,720,000円
【Specification】RANGE ROVER VELAR SV AUTOBIOGRAPHY DYNAMIC EDITION
■全長×全幅×全高=4820×1930×1675mm
■ホイールベース=2874mm
■車両重量=2160kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+スーパーチャージャー/4999cc
■最高出力=550ps(405kW)/6000-6500rpm
■最大トルク=680Nm(69.4kg-m)/2500-5500rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:インテグラルリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=265/40R22:265/40R22
■車両本体価格(税込)=18,627,000円
【Specification】RANGE ROVER EVOQUE SE D180
■全長×全幅×全高=4380×1905×1650mm
■ホイールベース=2680mm
■車両重量=1890kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1999cc
■最高出力=180ps(132kW)/4000rpm
■最大トルク=430Nm(43.9kg-m)/1750-2500rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション(F:R)=ストラット:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=235/50R20:235/50R20
■車両本体価格(税込)=6,790,000円
RANGE ROVER History

1970 初代レンジローバー/卓越したオフロード性能を有しながらもラグジュアリーカー並みの高い快適性を実現することを目的に開発された初代レンジローバー。1台ですべてのシーンをこなすと評され、現在のクロスオーバーSUVの原点とも言わる。

1981 初代レンジローバー 4ドア/それまでは2ドアのみの生産だったレンジローバーに4ドアが加わったのはデビューから11年が経過した1981年のこと。これによって選択肢が増えただけでなく、市場のメインはこの4ドアが占めるようになっていった。

1994/第2世代レンジローバー角型ヘッドライトなど、より現代的なデザインに改められた2代目。同時に高級感が増して一部のファンからは四駆界の帝王とまで言わしめた。ちなみ2代目は初代と平行して発売、1996年まで初代の生産は続けられた。

2001 第3世代レンジローバー/ラダーフレームに代わり新たなにモノコックシャシーを採用した3代目。エアサスペンションを装備するなど、当時の最先端を行くシャシー性能に加えて高いオフロード性能を併せ持った。高級感が増したデザインも話題に。

2005 初代レンジローバー スポーツ/ポルシェ・カイエンの誕生と同時にスポーツSUVブームが到来。それを意識してレンジローバースポーツがデビューを果たす。4.2Lスーパーチャージドエンジンや自動車高調整機能を搭載するなど、高性能化が際立った。

2010 初代レンジローバー イヴォーク/時代の流れに伴い、レンジローバーもクロスオーバーSUVをラインナップに加える。それがこのイヴォーク。2ドアと4ドアを用意するだけでなく、廉価版としてFWD仕様も販売。わずか4年で50万台を記録した。

2012 第4世代レンジローバー/SUVとしては初のオールアルミニウム製モノコックボディを採用した4代目は2012年にデビュー。あらゆる状況に対して最適な状態に車両を保つテレインレスポンスを導入し、多くのライバル勢に大きく差をつけた。

2013 第2世代レンジローバー スポーツ/レンジローバーと共通のオールアルミ製モノコックボディを採用した2代目レンジローバー スポーツ。公道におけるパフォーマンスに磨きがかかっただけでなく、オフロード性能もレンジローバーと同等レベルを継承した。

2015 レンジローバー イヴォーク コンバーチブル/都会的なイメージが魅力のイヴォークにコンバーチブルが加わったのは2015年。コンパクトSUVとしては世界初のオープンモデルで話題となった。ソフトトップ仕様というだけにルーフを閉めてもファッショナブルに映る。

2017 レンジローバー ヴェラール/ラグジュアリーSUVとして新たにラインナップに加えられたヴェラール。エクステリアデザインはエアロダイナミクス性能も考慮した結果、SUVらしからぬスタイリッシュなスタイルを確立。オフロード性能も抜かりない。

2018 第2世代レンジローバー イヴォーク/新世代プラットフォームのPTA(プレミアム・トランスバース・アーキテクチャー)を採用する2代目イヴォーク。48V仕様のマイルドハイブリッドにも対応。エンジンの低重心化を実現するなど基本性能に拍車がかかった。
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ジャガー・ランドローバー・ジャパン 0120-18-5568