特集

「VW TSIユニット」 直噴ツインチャージャーが導いた新しいパワーユニットの時代【VW GOLF FAN Vol.11】

ヒラリヒラリ感の面白さ

今回の試乗でなにより驚いたのは、ハンドリングと乗り心地のバランスのよさ。高次元で見事に融合しているのである。
実はリポーター、昨年3月にドイツ・ウォルフスブルグで開催された“フォルクスワーゲン・エンジン・ワークショップ”というイベントに参加し、短い時間だったが、GT TSIに試乗している。この時の印象はといえば、17インチのタイヤ&ホイールを装着するゆえのハーシュネスといったものを少なからず感じて、あまり好ましいものではなかったのだが、今回の試乗では、ほとんどそうした17インチ装着のデメリットは感じられず、それどころか予想以上にサスのセッティングがよく、17インチゆえのキビキビしたハンドリングが実現されていることを知る。

GT TSIが示すパフォーマンスのなかでも出色といえるのが、ハンドリング。アクセルオンの状態では軽いアンダーステアに終始し、コーナー途中のアクセルオフでもタックインは軽微。DSGをマニュアルモードにすれば、想像以上のスポーティな走りが楽しめる!

ワインディングで、GT TSIがみせる走りは、まさにファン・トゥ・ドライブ。コーナリングでは軽いアンダーに終始して、ステアリングを切り増していくような場合でも、あるいは突然アクセルオフしたような場合でも、ドライバーが慌ててしまうような急激な挙動変化は一切見せない。それは、GTIのサスとタイヤでやや強引に抑える感覚とはまた違って、ノーズの軽さも感じさせつつのヒラリヒラリ感の面白さ。サーキットでラップタイムを詰めるような走りをすれば、また印象が変わるかもしれないが、少なくともワインディングではGTIより楽しくコーナーを攻めていける!
VGJのスタッフによれば、この足は以前のGTと基本的に変わないとのこと。リポーターの記憶では、当初のGTはバネレートと減衰力のマッチングがもうひとつだったが、このGT TSIに装着されるのは、マイナーチェンジで劇的に改善されたという後期型(?)GTのものなのだろう。おそらく、ハンドリングと乗り心地のバランスのよさは、ゴルフ随一。乗り心地ではGLiのまろやかさに、ハンドリングではGTIの鋭さに、それぞれ負けてしまうかもしれないが、両方の融合の次元はどれよりも高いと思う。

“排気量神話”の崩壊!?

それにしても、魅力的なゴルフが登場してきたものだと思う。現実的な話をすれば、このGT TSI、排気量が1.4Lに過ぎないから、まず自動車税で少なからず経費削減ができる。その燃費のよさはランニングコストの大幅な引き下げも可能とする。クルマは間違いのないゴルフで、パドルシフト付きDSG。にもかかわらず、価格は約300万円!!

比較的シンプルな装いだが、17インチのタイヤ&ホイールを奢るなど、走りのための装備は充実しているGT TSI。燃費のよさも魅力だが、こうしたスタンス、佇まいを好まれる方も多いのでは。玄人好みの内容といえるかもしれない。

TSIの出現は、排気量でクルマをランク付けするという従来の考え方の終焉を、根強く残る、大きいほど偉いという“排気量神話”の壊を意味する。これは結構革命的なことではないだろうか。
また、ハイパフォーマンスとエコ&クリーンは両立しないという定説も、見事に打ち破る。わずか1.4Lでパワーは170ps、しかも燃費は14.0km/L(10・15モード走行 国土交通省審査値)。これは夢物語ではない、いまここにある事実なのだ。

TSI TECHNOLOGY
世界初の直噴+ターボ+スーパーチャージャー

世界初となるFSI(直噴)エンジンにターボとスーパーチャージャーを組み合わせたTSIユニット。そのテクノロジーの要となるのはやはり、ターボとスーパーチャージャーの協調制御にある。

ノッキングが起きにくいという点で、ベースとなったFSI(直噴)の意味は大きい。マルチホール高圧インジェクター採用や燃料の最大噴射圧を150バールに高めるなど、TSI化に向け、FSIユニット自体もさまざまな改良を受けている。

CO2の排出量を減らし、なおかつ燃費にも優れたユニットを考えたとき、もっとも確実な方法がダウンサイジング。つまり排気量を小さくすること。

ルーツ式スーパーチャージャーはエンジンブロックの腹部に抱え込むように、ターボチャージャーはヘッドに沿うように配置。もちろん、ターボをアシストするため、SCが吸気の上流側に配置される。

だが、排気量を小さくすることは、ドライビング・プレジャー=パワー&トルクという要素と相反する。そこで小排気量化しつつ、そのパワー不足を補うためのターボをプラス。さらに小排気量ターボの弱点である低回転域をカバーするスーパーチャージャー(SC)を備えたユニットがTSI。だから、TSIはエコなスポーツ・ユニットではなく、その本質は“パワフルなエコ・ユニット”といえる。

SCは低回転域では積極的に働き、逆に高回転域ではエンジンから切り離される。その接続や切り離しの役割は、クランクシャフトとベルトで結ばれている電磁クラッチ、内部のコントロールフラップが受け持つ。

システムの原理自体はシンプル。低回転域ではSCにより過給、2400rpmからはターボが過給を受け持ちつつSCは電磁クラッチによりエンジンから切り離され、さらに3500rpmを越えるとSCは完全に停止というシステム。それだけに、システムよりもターボとSCを的確に制御するマネジメントこそが、TSIの要といえる。

図の中央やや上にあるのがコントロールフラップ。ここが閉じている間はSCはフル過給。ここを全開、もしくは部分的に開けることで流れるフレッシュエアの量を変化させ、その過給効果をコントロールできる。また、ターボチャージャーは高回転域で力を発揮するが、低回転域から常に作動状態にある。

きわめてフラットなトルクカーブを描くTSI。システムの働きを簡単に説明すれば、2400rpmまではSCを中心としたSC+ターボ、2400~3500rpmをターボを中心としたターボ+SC、3500rpm以上はターボが受け持つ。その切り換えを最適かつシームレスに制御することで、トルクに落ち込みのない特性を実現している。

SCはアイドリングにごく近い回転域ですでに1.8バールの過給圧を発生し、ターボをアシスト。そして1500rpmの段階でツインチャージャーシステムは最大過給圧となる2.5バールに達し、同時に最大トルクも発生する。また、2400~3500rpmの領域ではターボが基本的に過給するが、急加速などの際に過給をアシストするよう、SCはスタンバイ状態となっている。

【specifications】GOLF GT TSI

■全長×全幅×全高=4225×1760×1500mm
■ホイールベース=2575mm
■トレッド(前/後)=1525/1500mm
■車両重量=1410kg
■最小回転半径=5.0m
■乗車定員=5名
■エンジン型式/種類=BLG/直4DOHC+ターボ+スーパーチャージャー
■内径×行程=76.5×75.6mm
■総排気量=1389cc
■圧縮比=9.7
■最高出力=170ps(125kW)/6000rpm
■最大トルク=24.5kg-m(240Nm)/1500〜4750rpm
■燃料タンク容量=55L(プレミアム)
■10・15モード燃費=14km/L
■ミッション形式=6速DSG
■変速比=(1)3.461(2)2.150(3)1.464(4)1.078(5)1.093(6)0.921(R)3.399(F)4.117((5)(6)(R)3.043
■サスペンション形式=前ストラット&コイル、後4リンク/コイル
■ブレーキ=前Vディスク/後ディスク
■タイヤ(ホイール)=225/45R17(7J)
■東京標準現金価格=3,050,000円

リポート:小倉正樹/フォト:赤松 孝 宮門秀行
取材協力:フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン

VW GOLF FAN Vol.11から転載
LE VOLANT web編集部

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