南陽一浩の「フレンチ閑々」

F1鈴鹿戦を前に日本でワールドプレミアされた アルピーヌA110Rの仕様を詳報する【フレンチ閑々】

モータースポーツのノウハウからフィードバックを得た究極のロードゴーイングA110

日本のアルピーヌ・エンスージャストにはグッドサプライズだ。10月半ばのパリ・モーターショーではなく、10月4日夜に横浜は山下町の倉庫街の一角で、アルピーヌA110Rがワールドプレミアでお披露目されたのだ。横浜といえ、いわずと知れた日産ルノーというアライアンスグループの中枢にしてお膝元だが、会場には歴代GT‐Rや鬼キャンを含む日本車のチューニングカーがズラリと並べられていた。

【ギャラリー】華々しく開催されたアルピーヌA110R発表会の模様はコチラ

「F1の鈴鹿ウィークの日本でやる、そんなタイミングに重ね合わせることもあって、A110Rをお披露目して世界中に発信するにあたって、何を絡められたら面白いか? 最初はそういった発想だったと思うけど、予想以上にユニークでワクワクする雰囲気になったね」
と、発表会の直前、アルピーヌのチーフデザイナーのアントニー・ヴィランは頬をほころばせた。いわばこの演出は、アルピーヌA110Rがコンストラクター自身によるカリカリのチューンドカーであるが、あくまでストリート・リーガル仕様、そんなメッセージを裏打ちするもの。とはいえ日産ルノー・グループ以外の他社・他車種をも含む雰囲気は、メーカーのニューモデル発表会としては異様ともいえ、港町の夜のヤバい雰囲気を盛り上げてくれたのだ。

そもそもA110RのRの由来は、より「RADICAL」なR、だろう。軽量化とエアロ武装によって、アジリティも横G耐性もさらに増し増し方向。A110として究極のキレ味を目指したというところだろう。かくして自走で倉庫内のスペースに現れたのは、ブルー・レーシング・マットというワークスのF1マシンであるA552と同じ外装色に包まれた、A110Rだ。艶消しのブルーといってもフロントボンネット、ルーフ、エンジンフードにリアウイング、そしてリップスポイラーやサイドスカート、ディフューザーにホイールまで、妖しい光を放つフルカーボンのパーツがかなりの表面積を閉めるので、第一印象はほとんどブルーとカーボンのツートンといった風だ。

ところで大前提としてA110にはロードカー以外にも、欧州でのワンメイクレース仕様であるカップカー、GTレース用のホモロゲ対応しているGT4、さらにラリー仕様であるR-GTという、3種類の純・競技用モデルが市販されている。A110Rは、これらとSの中間にあって限りなくサーキット志向で、しかしロードゴーイングモデルというポジションといえる。

ノーマルの標準モデル、前期型ではピュア、後期型では単にA110と呼ばれる仕様ですら、たった1110kgなのだが、A110Rは約30kgの軽量化に成功しており、発表値では1082kg。エアコンや内装材もろもろが省かれたカップカー仕様が1050kgで、マルチポイントのロールケージや安全燃料タンクは無いとはいえ、それらを備えたGT4やラリー仕様R-GTといった競技車両ですら1080kgだ。

おそらくA110 Rのボディワークで乗り手が面食らうのは、エンジンルーム隔壁の上にあったウインドウが塞がれ、物理的に後方視界がないことだろう。ガラスに代わって採用されたフルカーボンのエンジンフードは、補強のために真ん中の前後方向にトラスが入っており、従来のノーマルA110ではスリット状だった部分はスノーフレーク柄の入ったアルミパネルに替えられ、電動ファンの排熱を素材ごと助ける。当然、これらのモディファイは軽量化に加え、重心から遠い上モノ部分のマスを低減させる。

だがロードゴーイング仕様でありながらサーキット志向へと欲張っている分、なかなか手のかかった軽量化がA110Rには施されている。ホイールベース内、インテリアで5kgの軽量化のカギとなったのが、バケットシートだ。サベルトがサプライヤとなる点は従来モデルと同じながら、カーボンのシェルに張り付けられたウレタンパッドによって身体をホールドする。

さらにバネ下重量の軽量化の決め手は、4輪で12.5kgもの軽量化を果たしているフルカーボンのホイールだ。「A110R」「ALPINE」のロゴがそれぞれリムとスポークに入った専用開発パーツで、デュケーヌ社によって供給される。デュケーヌ社はフランスで金属を含む高品位の複合素材の製造・精密加工を手がける大手グループで、サーキット走行に欠かせないハンスや、ロードバイク用のカーボンホイールなど、それぞれスタンド21やマヴィックから製造を請け負っている。

しかも前後でデザインの異なるこれらホイールは、空力デバイスでもある。ブレーキの負荷が大きいフロント側はスポークの開いた意匠で、フロントグリルの整流版やサスペンションアーム近くのダクトから導入されたエアがブレーキシステムの熱を冷却した後、排出を助ける役目を担う。これによって、ブレーキディスク径は320mmで鋳鉄とアルミという材質にも変更はないが、制動力や耐フェード性が20%ほど向上。逆にリアホイールは中央付近がディスク上になった意匠で、ホイール周辺の乱気流を抑え、サイドスカートやリアエンドに設けられたカナード翼の整流効果を助けるという。またリアディフューザーは従来モデルより後方へ延ばされ、同時にリアウイングの形状はSと同じながらも、新たに採用したステーによってA110Sのエアロキットよりリア寄りで高いマウント位置に固定された。かくして最高速でのダウンフォース量は+29kgほど増しているという。

「通常、ダウンフォース量と最高速度はトレードオフの関係にあるものですが、A110Rはトルクやエンジンパワーは従来のままでありながら、285km/hにまで最高速度を増しています。エンジニアやテストドライバーたちは、ただダウンフォースを増やすのではなく、あくまで前後にかかえるダウンフォースのバランスをとることに腐心し、高速域でのアジリティとスタビリティを両立させています。そこにアルピーヌのシャシーセッティングのノウハウ、マジックがあるのです」
そう述べながら、アルピーヌCEOのロラン・ロッシ氏は胸を張る。下支え式ではなく吊り下げ式となったリアウイングのステーは、SよりはむしろA110のGT4仕様に近いが、トランクリッドがカーボン化されなかったのは、増強されたダウンフォースに対するリッド裏の補強や雨水対策のシーリングが、Sと共通であるため。あくまでストリート・リーガルである点に重きがあるのだ。

そして気になる足まわりについてだが、タイヤはセミスリック、ミシュランのパイロットスポーツカップ2が選ばれている。公道走行を可能にしつつも、より高い高次元でのスタビリティとコーナーでのコントロール性を確保するためで、ストラクチャー補強によってグリップは従来タイヤより15%ほど向上し、サーキットでの走行寿命も延びているという。サスペンションについても、A110Sよりもさらに妥協なきコーナリング剛性重視で、ショックアブソーバーはZFレーシング製の2段階車高調節さらに20段階の減衰力調節を備えたタイプとなっている。スプリングレートはSより前後とも10%高められ、前後のスタビライザーはそれぞれ10%、25%ほど固められており、ボディロールを抑制する。通常時でもA110Sより10mmほど車高は下げられているが、ショックアブソーバーの車高調節機能でトラックモードを選べばさらに10mm低くなり、高速サーキットをも含む状況に対応できるという。

もうひとつは官能的性能といえるが、マフラーパイプは全体的にジオメトリーごと見直され、3Dプリンタによる二重管構造となっている。これによってエキゾースト増幅システムは省かれ、ガラスではなくカーボンのエンジンフードとアルミパネルを通じて奏でられるエキゾーストを、力強く増幅するという。マフラー内側に対して外側はつねに低い温度に保たれるため、エンジンルーム内の熱の対流も抑えるという。

エンジンのトルク&パワーは340Nm&300psと据え置きとはいえ、A110Rのパワーウエイトレシオは3.4kg/ps、0-100km/h加速はローンチコントロール使用時で3.9秒、最高速度は285km/hに達しているという。シャシーの磨き込みだけで、パフォーマンスを高めている点は、確かにル・マンの性能効率指数などで鳴らしたアルピーヌならではの強みでもある。モータースポーツのノウハウから惜しみなくフィードバックを得た、A110として究極のロードゴーイングカーとして、車両価格は確実に1000万円を超えるだろう。とはいえ内燃機関バージョンのA110に残された時間がそうそうあるわけでないことを思えば、来月11月から日本でも受注が始まる以上、おそらくパリ・モーターショーで発表される価格には注目しておくか、もうディーラーに打診しておく方がいいだろう。

この記事を書いた人

南陽一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。ネコ・パブリッシング勤務を経てフリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の男性誌や専門誌へ寄稿し、企業や美術館のリサーチやコーディネイト通訳も手がける。2014年に帰国して活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体に試乗記やコラム、紀行文等を寄稿中。2020年よりAJAJの新米会員。

南陽一浩

AUTHOR

愛車の売却、なんとなく下取りにしてませんか?

複数社を比較して、最高値で売却しよう!

車を乗り換える際、今乗っている愛車はどうしていますか? 販売店に言われるがまま下取りに出してしまったらもったいないかも。 1 社だけに査定を依頼せず、複数社に査定してもらい最高値での売却を目 指しましょう。

手間は少なく!売値は高く!楽に最高値で愛車を売却しましょう!

一括査定でよくある最も嫌なものが「何社もの買取店からの一斉営業電話」。 MOTA 車買取は、この営業不特定多数の業者からの大量電話をなくした画期的なサービスです。 最大20 社の査定額がネット上でわかるうえに、高値の3 社だけと交渉で きるので、過剰な営業電話はありません!

【無料】 MOTA車買取の査定依頼はこちら >>

注目の記事
注目の記事

RANKING