CARSMEET モデルカー俱楽部

まともに作れない人続出!?グンゼ製「スプライトMk-1ハードトップ」!名作キット列伝・第3回【CARSMEETモデルカー倶楽部】

ライトウェイトスポーツの代表選手

1980年代の国産車キットをふたつ続けて紹介してきたので、ここでガラリと変わって、1950年代のイギリス車の模型をご紹介することとしよう。オースチン・ヒーレー・スプライトMk.Ⅰの、グンゼ製キットである。

【画像30枚】難儀なキット内容を細部まで見る!

キットそのものについて述べる前に、実車について軽く触れておこう。オースチン・ヒーレーは、1950年代当時、英国最大の自動車メーカーだったBMCが擁するスポーツカー・ブランドであった(オースチンとヒーレーとのジョイントによる)。BMC内で手薄になってしまった「若者向けの廉価なスポーツカー」として、1958年にこのオースチン・ヒーレーから登場したのが、スプライトである。

ボディは当時まだ珍しかったモノコック式を採用、剛性を確保するためにトランクリッドは設けられていない。フロントフード上面にひょっこりと飛び出したヘッドライトが特徴で、これにより英国では「フロッグアイ」、日本では「カニ目」の愛称で親しまれることとなった。レイアウトはFR、サスペンションは前ダブルウィッシュボーン/後ろ1/4楕円リーフ。エンジンは1L OHVのA型にSUツインキャブを装着したもので、最高出力42.5hp。

1961年には大規模な変更で若干平凡なスタイルのMk.Ⅱ(マーク・ツー)へと移行、このとき従来のタイプはMk.Ⅰ(マーク・ワン)と呼ばれるようになった。また同年には兄弟車のMGミジェットも新設されている。その後は何度か改良を受けながら生き永らえたが、スプライトは1971年、MGミジェットは1980年に生産を終えた。

プラモデルであってプラモデルにあらず
さて、このフロッグアイ/カニ目のスプライトMk.Ⅰだが、ファニーなルックスからいかにもプラモデル映えしそうなものの、キット化は少ない。ベテランのカーモデラーなら、エアフィックスの1/32と、グンゼ産業(現GSIクレオス)の1/24が思い浮かぶであろう。ここで採り上げるのは後者のキットである。

グンゼ産業のカニ目は1985年冬、当時同社が精力的に展開していた「ハイテックモデル」シリーズの10作目として発売された。同シリーズは、プラモデルの枠を打ち破って様々な素材を取り入れたマルチマテリアル・キットであり、質感や重量感、細部のシャープさが売りの、高価なキット群である。ボディやシャシーはプラで、エンジンやサスペンションはホワイトメタルで、シートやドアトリムは軟質樹脂で、そしてエンブレムやワイパーなどはエッチングでというのが、このシリーズの基本的な内容であった。

ここで問題となるのが謳い文句の「ハイテック」で、キット内容にハイテックが注入されているのではなく、モデラーの側に高度な技術が要求される、というのがネーミングの意味だ、と言われるほど、その内容にはクセが強かった。エッチングの折り曲げだけでなく、メタルパーツへの開孔やロッドの曲げ加工、場合によってはハンダ付けなどまで要求してくる(キット説明書にそう明示はされていないが……)高度な内容は、メーカー自ら「上級者向」と注記を入れるほどだったのである。

そのため、キットを購入しても箱すら開けずに保管する人も多く、現在売買されている中古キットでも、シュリンクがかかったままの品は少なくない。ただし、シリーズの中でもフルディテールを目指した、あるいはエンジンはなくともシャシーの再現性を重視したキットと、1/43ミニカーの拡大版的な内容にとどめたキットと、大まかに言ってふたつあり、後者は組み立ても比較的容易である。このカニ目はどちらかと言うと後者に類するキットで、他にはビートルやフィアット500あたりがその例に挙げられるだろう。

話をカニ目に絞ると、当初発売されたのは幌なども付属しないただのオープン状態のキットであったが、翌1986年春にそのバリエーションとして、今回採り上げるハードトップ仕様がリリースされている。これはもちろん、車両本体は先行のスプライトMk-1(キット箱での表記)と大した違いはないが、そこにハードトップのパーツを追加したものである。

ハードトップはプラのインジェクションパーツではなく、リアウィンドウまで一体のバキューム成型品で、そこにエッチングと軟質樹脂、透明プラ板で作るサイドスクリーンを組み合わせる仕組み。リアにはラゲッジラックとそこに積むトランクが付属する……のだが、ラックの形をしたパーツは付いてこない。付属の1mmロッドを素材に、キットを買った人が自分で作るのである!

このキットに根性を入れてもらった訳で…
ここで筆者の個人的な話をさせていただくと、このハードトップ付きカニ目は、自分をモデラーとして育ててくれた、思い出のキットだ。高校生の頃の筆者は、ホワイトメタル製パーツというのがどういうものかすら知らないまま、このキットを購入したのである。それはリリースから5、6年後のことで、当時はまだ廉価版のキット(メタルパーツやエッチングをプラパーツに置き換えたもの)は発売されていなかったように記憶している。

さて、その時の筆者は、どうやらピンバイスという道具が必要らしい、ワイヤーブラシというものも持ってないといけないようだ……と、説明書を見て初めて知るというレベルであった。メタルパーツなどをどう扱えばいいのか大して気にせず、また若干高価なお値段(当時の普通のカーモデルの3倍近くした)もものともせずにこのキットを買ったのは、当時それほどまでにカニ目が好きであったためらしい。

そんな訳で、ホームセンターで買ってきたドリル刃やヤスリ、ワイヤーブラシなどを使い、高校生の筆者はこのキットを何とか形にはできた。ただし、ハードトップとフロントバンパーは結局レス状態に終わったので、完成できたとは言えないかもしれない。ラゲッジラックは瞬着で組み、缶スプレーでシルバーに塗って白化を消す、という荒技でどうにか見れるようにした。それでも、自分でパーツを加工してモデルカーを1台かたちにする、という楽しさは、このキットの組み立てを通してひしひしと感じることができた。

大げさに言えば、「あんたがおやんなさい」と全てをブン投げしてくるこのキットに鍛えられたため、ちょっと部品が合わないとか、パーツの取り付け位置が不明瞭とか、そんなことでいちいち騒ぐような私ではなくなったのである。とはいえ、「みんなハイテックモデルで修行するといいよ!」などと言うつもりは勿論ない。そして最後に付け加えておくと、今回撮影したキットは、高校生の時の失敗を挽回したくなって、つい最近購入したものである。

写真:秦 正史

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