その理由は3つ挙げられる
起こるべくして起こった。スズキが2月3日に「ジムニーノマドご注文停止のお詫び」を発表したことに対する、感想だ。
その4日前の1月30日、スズキが都内で実施した同モデルの記者発表会で、筆者を含めて多くのメディア関係者が注文殺到を確信していたからだ。
ただし、その数がまさか一気に約5万台に達するとまでは予想できなかった。記者会見の中でスズキが紹介した、全国各地のショッピングモールで実施するはずだった先行展示会も中止するという緊急事態だ。では、なぜこうした事態に陥ったのか? 私見では、大きく3点あると思う。
ひとつめは、SUV市場の現状把握の甘さだ。スズキは、ジムニーユーザーの中核を「プロユース」と捉えており、5ドア化によるファミリーユースの掘り起こしを狙ったと説明した。だが、現実的にはジムニーユーザー層の中核は、プロユースを遥かに凌ぐ「ライフスタイル系」ユーザーで占められていると感じる。
ユーザー層が二重構造になっていないように思える。そこへ、ライフスタイル系ユーザーがよりハマりやすい5ドアが日本にやっと来たものだから、需要が一気に爆発した。
ふたつめは、販売戦略の甘さ。発表会見で、国内販売担当幹部が、ジムニーとジムニーシエラのバックオーダーがあり、そうした納車待ちの顧客に対して「お一人おひとりの希望をよく聞いた上でジムニーノマドへの切り替えを提案することもあり得る」と説明した。
この話を聞いて、「はて、大丈夫?」と思ったメディア関係者は少なくなかったはずだ。つまり、ジムニーノマドの日本における能力を甘く見過ぎた、営業戦略の失策だ。
そして3つ目は、「製販分離」という業界構造の課題。スズキに限らず、自動車メーカー業界の体系は、自動車メーカーが製造者として部品メーカーを介して購買する部品を最終組立して、自動車販売会社に卸売りするもの。
その先で、自動車販売会社は自動車メーカーから仕入れたクルマをユーザーに小売りするという商流だ。
電化製品など、多くの商品がこうした製販分離の業界構造であるが、自動車の場合、ユーザーの感覚として近隣の販売店をタッチポイントとして、ユーザー自身が自動車メーカーと近い関係にあるような錯覚をしているように思える。
そうした中で、今回のようにスズキはメーカーとして新車をお披露目し、それに合わせて、全国の販売店でユーザーがオーダーをかけると、メーカーが予期しない受注と供給のアンバランスが生まれ、そうした事態にユーザーが驚くことになる。
ジムニーノマドは全数がインド生産での輸入車であり、日本以外100カ国にインドから輸出しているグローバルカーである。そのため、日本向けだけに大幅な生産計画変更は難しいはず。スズキはこの難局をどう乗り切るのだろうか、今後の動向に注目したい。