コラム

まさに「稲妻(フォルゴレ)!」モナコで走ったマセラティの新型EVは刺激的な味わいであった!

マセラティのEV設計に対する基本理念が他とは違う

筆者としては久しぶりの訪問となったモナコ。 今回はF1モナコGPではなく、EV世界選手権のフォーミュラE・モナコE-Prixである。フォーミュラEといえば、5月17日、18日の東京E-Prixに期待が高まるところ。昨年の東京初開催では、日本のレースファンや自動車業界関係者の予想を大きく裏切る、エンターテイメント性が極めて高いワクワクするレースであった。それを受けて、今年は東京の前哨戦であるモナコでの現地取材を決行してみた。
モナコ取材の中で、フォーミュラE主催者が用意してくれたのが「エレクトリック・ラップ」。F1モナコGPと同じ、あの全長3.3kmコースで最新EVを体験できるという催しである。試乗といっても助手席での同乗試乗なのだが、なにせ起伏が激しく、ヘアピンやトンネルなどレーシングスピードで走るには、それなりのスキルがいる。
そうはいっても、あくまでも量産EVを使ったアトラクションなのだから…。そんな軽い気持ちで望んだところ、迫力満点、とんでもない体験だった。筆者に割り当てられたのは、マセラティが2024年に創立110年記念に実施した「フォルゴレ・デー」にも登場した、「フォルゴレ」だ。最大出力は760ps、駆動用バッテリー容量は92.5kWh。この数値を見る限り、確かにハイパフォーマンスEVであることが分かるが、マセラティというブランドを考えると、ジェントルなグラントゥーリズモが大前提というイメージを持つ。海外メディアによるフォルゴレの公道試乗記でも、ハイパワーだが扱いやすいといった表現が少なくない。
そんなフォルゴレに乗り込むと、ドライバーはこちらをニコリ。いきなりアクセル全開でストレートをドォーンと加速。「え?まだブレーキングしないのか?」と思いきや、ドカンという一気の減速。丘を一気に駆け上がり、ガードレールギリギリにコーナーを立ち上がる。正直、この巨漢EVで、しかもマセラティをこのハイペースで、しかもモナコで走らせてしまうとは、ドライバーのテクニックもさることながら、マセラティ(ステランティス)とフォーミュラEの「懐の深さ」に驚愕した。トンネルを全開で駆け抜け、ダウンヒルからシケインへの進入も、まさにレーシングスピードである。
これだけ攻めの走りができるのは、マセラティのEV設計に対する基本理念が、日本メーカーやアメリカメーカーとは根本的に違うからだと思う。車体、モーター出力制御、そして走行中の「人とEVとの対話」のあり方など、まさにイタリアンマインドなのである。

エレクトリック・ラップを終えたあと、フォーミュラEのピットエリアや、決勝レーススターティンググリッドでマセラティのフォーミュラEマシンを見ると、なぜマセラティがこのレースに参戦しているのかが、直感的に理解できた。EVとは、実に奥の深いモビリティである。

桃田健史

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専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、自動運転、EV等の車両電動化、情報通信のテレマティクス、そして高齢ドライバー問題や公共交通再編など。

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