
ラリー復帰と市販車への還元。ランチアが示す「本気」の復活戦略
2025年7月23日、ランチアはブランドの新たなルネッサンスを告げる重要な発表を行った。それは、伝説的なラリー活動の本格的な再燃と、その熱き魂を宿した市販ホットモデルの投入計画である。かつて世界のラリーシーンを席巻したこのイタリアンブランドが、長年の沈黙を破り、その情熱を再び解き放つ。モータースポーツの頂点への挑戦と、そこから育まれる市販車開発という、二つの強力な柱に支えられた、まさに「本気」の戦略なのだ。
【画像17枚】これが復活した「HF」の姿。新型「イプシロンHF」と、ラリーを疾走する競技車両のディテール
復活の舞台はラリー。「トロフェオ・ランチア」で未来の才能を育成
この復活劇の最前線に立つのが、新型「イプシロン・ラリー4 HF」を主役とするワンメイクレースシリーズ「トロフェオ・ランチア」である。その戦いの火蓋は、伝説の公道レース、タルガ・フローリオで2025年5月に切られた。
このトロフェオ・ランチア・シリーズは、単なる速さを競う場ではない。ランチアが強調するように、それは「簡素化されたレギュレーション、低コスト、そして極めて教育的な環境」を提供することで、次世代の才能を発掘し、野心的なドライバーを育成するための戦略的なプラットフォームなのである。事実、初戦となったタルガ・フローリオでは、参戦した19台のイプシロン・ラリー4 HFが2輪駆動部門の表彰台を独占、上位14台中10台を占めるという圧倒的なパフォーマンスを見せつけ、そのポテンシャルの高さを世界に知らしめた。
このプロジェクトは、ランチアの公式チームを率いるエウジェニオ・フランゼッティ氏の指揮のもと、U35(35歳以下)のチャンピオンには2026年のFIAヨーロッパ・ラリー選手権(ERC)への参戦機会が与えられるという、若手にとって夢のような道筋が示されている。さらに、マシンの開発には、ランチアの黄金期を支えた伝説的ドライバー、ミキ・ビアシオン氏が参画しており、そのことからもこのプロジェクトに懸けるブランドの本気度がうかがえる。
伝説の「HF」ロゴが電動ホットハッチで復活
そして、ランチアの情熱はサーキットの中だけに留まるものではない。「トラックからロードへ」という明確な哲学のもと、ラリー活動で培われた技術と情熱は、一般のドライバーが手にできる市販モデルへと昇華される。その象徴こそが、歴史に燦然と輝く「HF」ロゴの復活だ。革新性、プレミアム性、そしてイタリアン・スピリットを現代的に再解釈した新しいHFエンブレムは、2つの刺激的な市販モデルのフロントグリルを飾る。
その筆頭が、100%電動のハイパフォーマンスモデル「イプシロンHF」である。最高出力280psを発生するこの電動ホットハッチは、0-100km/h加速をわずか5.6秒で駆け抜け、路面状況を問わず最適なトラクションを確保するリミテッド・スリップ・デファレンシャルが備わる。さらに、標準モデルに比べてワイド化されたトレッドとローダウンされたサスペンション、そしてセグメントで最も低い重心が、卓越した俊敏性とコーナリング時の安定性を実現している。これは、ランチアが電動化という新たな時代においても、ドライビングプレジャーというブランドの核を決して手放さないという強い意志の表明である。
もう一方の「イプシロンHFライン」は、ハイブリッドパワートレインを搭載し、HFバージョンが持つスポーティな世界観を、より幅広い層のドライバーに提供するモデルだ。HF譲りのアグレッシブなデザイン要素を取り入れつつ、日常的な使いやすさとの両立が図られている。すでにイタリア本国ではショールームでの展開が始まっているこの「HFライン」と、夏以降に路上デビューを飾る「イプシロンHF」。この2台の市販モデルの存在こそが、ランチアのルネッサンス(復興)が単なるスローガンではなく、具体的な形となって着実に前進していることを何よりも雄弁に物語っている。
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最新の発表では、この一連の動きがランチアのブランド再生における決定的な一歩であることが改めて強調された。モータースポーツへの復帰、若手育成プログラムの設立、そして高性能な市販モデルの投入。これら全てが連動し、ブランドの過去の栄光を未来へと繋いでいく。伝説の復活はすでに、世界中の道の上で、力強く始まっているのである。
【画像17枚】これが復活した「HF」の姿。新型「イプシロンHF」と、ラリーを疾走する競技車両のディテール