
































New ピレリP ZEROを筆頭にP ZEROファミリーを乗り比べ
ピレリのハイパフォーマンスタイヤ「P ZERO(Pゼロ)」が、2025年の春に第5世代(PZ5)へとモデルチェンジを果たした。そしてこのパフォーマンスをオープンロードとクローズドコースで体験できる試乗会が、この度マレーシアで開催された。
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現在P ZEROブランドは、このP ZEROを起点にして多目的に展開しており、ピレリではこれを「P ZEROファミリー」と呼んでいる。そして今回の試乗会では、オープンロードで「P Zero」および「P Zero E」、クローズドコースでは「P Zero トロフェオ RS」、「P Zero R」、「P Zero」の性能を確かめることができた。
2日間にわたって開催されたプログラムは、初日が一般公道での試乗となった。試乗車は往路で一昨年にデビューを果たしている「P ZERO E」をメルセデス・ベンツGLC 450eに装着し(サイズは255/45R20)、復路で「P ZERO」をメルセデス・ベンツGLE 450 4MATIC(サイズは275/45R21)を試したが、ここでは主役のP ZERO(PZ5)を中心にインプレッションしていこう。
一般道では21インチとは思えない静かさと上質な乗り味を体感
最新世代のP ZEROを走らせてまず感心させられたのは、その高級感溢れる乗り心地だ。P ZEROといえばその起源は1985年と古く、伝説のラリーカーであるランチア・デルタS4のホモロゲーションモデル用タイヤとして誕生したという歴史がある。さらにはフェラーリF40の純正タイヤとして採用されて以降、数々のスーパースポーツの足下に装着されてきた経緯から、ウルトラハイグリップな高性能タイヤというイメージを、多くのクルマ好きたちが持っているはずだ。
もちろん近年はそんなP ZEROも多様化が進み、こうした分野は「トロフェオ RS」や「コルサ」、そして「R」といったタイヤたちに役割分担されている。そしてそのコアモデルとなるP ZEROが、近年プレミアムな資質を伸ばし始めていることも理解していた。
それにしても、PZ5の乗り味は素晴らしかったのだ。とても275幅の21インチタイヤとは思えないほど、GLE450を快適に走らせたのである。まず驚かされたのは、静粛性の高さだ。走り出しからタイヤがスムーズに転がり、割と荒れた路面でもロードノイズが低速・低周波域からきちんと遮断されている。そして高速・高周波域になっても、その静かさがきちんと維持されていたのである。
プレゼンテーションで比較されたマトリクスグラフで、PZ5のノイズレベルは先代モデル(PZ4)と比較して1ランクも上がっていなかった。またP ZEROは一部サイズのタイヤ内側に、吸音装置「PNCS」(ピレリ・ノイズキャンセリング・システム)を搭載してロードノイズを消音しているが、試乗した275/45R21サイズのサイドウォールにその刻印はなかった。
ピレリが考えるプレミアム・スポーツタイヤとは?
にも関わらずPZ5がコンフォート系のプレミアムタイヤばりに静かだったのは、まずPZ4に至るまでに積み上げられた技術のおかげだ。さらに可能な限りトレッド面を減らさず、幅や深さが途中からサイズアップするサイプや、ショルダーブロックの溝形状を変更するといった細かな積み重ねをしたからこそ、性能の上がり幅は小さくとも、トータルで高い静粛性が得られたのだと思う。やはり技術は、積み重ねなのだ。
さらにいえばPZ5は静かなだけでなく、乗り心地がいい。単にゴムや構造が柔らかいのではない。エアボリュームがしっかり確保されているおかげでタイヤが踏ん張りながらもしなやかさを保つから、路面からの入力を吸収したあと素早く減衰して、何事もなかったかのように走り続けられるのだ。だからワインディング路においても、そのハンドリングがとても気持ち良かった。
GLE450の大きなボディをしっかり支えているのに、タイヤはまるで突っ張らない。ショルダーブロックのゴツゴツ感や、サイドウォールの反発など一切ない。ハンドルを切れば素直に曲がって、ロールを自然に受け止めてくれる。
あまりに快適過ぎてあっけにとられてしまったけれど、これこそピレリが考えるプレミアム・スポーツタイヤの乗り味なのだ。ライバルたちと比べてもそのコンタクトフィールは断然軽やかであり、スポーティさとラグジュアリーさのバランスが抜群だ。
P ZERO Eには「Run Forward」テクノロジーを採用
往路で試乗した「P ZERO E」には、これからの時代を担うタイヤだという印象を得た。乗り心地だけで言えば、P ZEROの圧勝だ。P ZERO Eもこれに負けないくらい高い静粛性を備えているが、幅やサイズが一回り小さな255/45R20サイズにも関わらず、路面からの突き上げ感が少しだけ強い。
それはこのタイヤが、電気自動車のために作られたタイヤだからだ。車輌重量が同サイズのガソリン車に比べて重たく、トルク特性がリニアで出力値も高いEVを安全に、そして電費よく走らせるために、その構造がP ZEROよりも強くなっている。
その代表的な技術が「Run Forward」テクノロジーだと言えるだろう。サイドウォールに補強を入れることでP ZERO Eは、パンクが発生しても最大時速80km/hまでの速度を維持しながら、約40kmの航続を可能としている。
P ZERO Eにランフラットタイヤとしての性能を持たせたのは、もちろんパンク時の安全性を保ち、近くの修理工場までのディスタンスを稼ぐためだろう。そして同時にこの補強は、スペアタイヤの重量増を防いで、後続距離の延長にも貢献するはず。またタイヤの変形が少なくなれば、エネルギーロスも防げる。
またP ZERO Eはそのコンパウンド性能も合わせて、欧州ラベリング規格において転がり抵抗、ウェットブレーキ、静粛性でトリプルAを獲得している。その乗り心地は、P ZEROと比べてしまうから段差や荒れた路面で突き上げ感が目立つものの、いわゆるランフラットタイヤと比べればかなりソフトだ。そしてこの技術が高められて行くほどに、乗り心地も良くなって行くのだろうと思えた。
サーキット走行では動的な質感の高さを味わえた
試乗会2日目は、いよいよP ZEROのコア・バリューであるスポーツ性能を試した。そのステージとなったのは、スーパーGTも開催されたセパン・インターナショナル・サーキットだ。試乗車はメルセデス・ベンツA35セダン 4MATIC(306ps/400Nm)で、タイヤサイズは235/35ZR19だった。
隊列に従いながら、パドックを徐行。そのときに感じたのは、オープンロードと同じ乗り心地の良さだった。そしてこのフィーリングが、コースインしてからも続いたのには、ちょっと驚かされた。
サーキットの路面はフラットで、オープンフェイスとはいえヘルメットをかぶっているから、ロードノイズは確かに聞こえづらい。しかし縁石を乗り越えたときの突き上げや、細かなバイブレーションが抑えられているのは、はっきりと体感できた。
そして動的な質感も、実に心地良かった。ブレーキングではタイヤがじわっと路面をつかみ、ターンインではきれいにノーズが切れ込んで行く。そのキャラクターは屈強なショルダーブロックでがっちりクルマとGを支えるというタイプではなく、どちらかといえば“しなやか系”。一般道での乗り味が、そのまま高G領域で再現されているのがとても新鮮だった。もちろんショルダーブロックは大きく取られており、主溝に傾斜角を持たせることで横方向での安定性を高めるなど細かい工夫もなされているが、バネ下の動きも合わせて存在が軽やかなのだ。
だから最初はちょっと拍子抜けしてしまうのだが、この感覚に慣れてくると、運転が楽しくなってくる。フロントタイヤさえきちんとトレースさせれば、リアタイヤは流れるか流れないかの寸前を使って追従してくる。サーキットの道幅が広く、回り込みながらも中速コーナーが多い特性も手伝ってはいるが、FFベースのハイパワー4WDであるA35が、後輪駆動車のように気持ち良く旋回してくれた。グリップが特別高いとは感じなかったが、ハードブレーキングを繰り返すとブレーキの方が先にフェード気味になったから、この車格には十分なレベルだと言えるだろう。ほどよい剛性感とサラッとしたコンパウンドが印象的だった一般道と比べ、高荷重領域ではそこに粘りが出てくる感じだ。
ウェット性能の向上も目覚ましい
そして試乗を終えてトレッドを見て見ると、ブロックのエッジがえぐれることもなく、表面がきれいに溶けているのにも感心させられた。ちなみに今回ウェット性能を確認することはできなかったが、性能を示すスパイダーチャートでは先代PZ4に対して、ウェットグリップでおよそ2.5段階、ウェットブレーキングではほぼ3段階近く性能が向上している。
興味深かったのは、このあと走らせたP ZERO Rも、P ZEROの延長線上のキャラクターだったことだ。決してタイヤだけが先走ることなく、クルマの動きに合わせてジワジワと粘りながらグリップする。しかし絶対的なコーナリングスピードはP ZEROよりもワンランク速く、トラクションもよくかかる。ABSを初めとしたポルシェの電子制御が極めて緻密ということもあるけれど、911という一流スポーツカーをして、国際サーキットを楽しく走れるだけのキャパシティと、懐の深さがP ZERO Rにはあった。
さらに上行くタイヤとしては、P ZERO トロフェオRSもチョイス可能だ。これは同乗走行のみだったのでステアリングフィールこそわからないが、グリップ力がとても高い。キャラクターとしては公道も走行可能なサーキットタイヤであり、つまりP ZEROとはプライオリティが真逆になる。ヨーロッパでライバルとなるのは、ミシュランのパイロットスポーツ CUP2だろう。
その名の通りピレリ P ZEROファミリーは、それぞれの分野に特化しつつも、基本的には同じキャラクターを持つタイヤたちだった。そのコアとなるのはP ZERO(PZ5)であり、それはハイパフォーマンスカーをスポーティかつ、プレミアムに走らせることができるタイヤであった。
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