センチュリー、JMS 2025でブランド独立を宣言
トヨタ自動車が、その歴史において極めて重要な一手に出た。「センチュリー」ブランドの独立が、ジャパンモビリティショー2025(JMS 2025)において公式にアナウンスされたのである。これまでトヨタブランドの最高峰として、あるいはレクサスブランドとの関係性の中でその立ち位置を議論されることもあったセンチュリーが、今、明確に「レクサスの上に位置するトップブランド」として再定義されたのだ。
【画像105枚】「緋色」のクーペと日本の匠。螺鈿、西陣織、江戸彫金…「ジャパン・プライド」の結晶たるセンチュリーのディテール
トヨタがセンチュリーに託す「ジャパン・プライド」
新「センチュリー」ブランドが目指すのは、単なる高級車ブランドではない。「ジャパン・プライドを世界へ発信するブランド」であり、トヨタでもレクサスでもない、「one of one」=「別格」の存在として、その地位を確立することだ。
これまで、トヨタの店舗で販売されてきたこともあり、顧客によってはレクサスの「LS」とセンチュリーの上下関係について迷う声もあったという。今回のブランド独立は、その立ち位置を明確にするという強い意志の表れである。
この新戦略の下、センチュリーは伝統のセダンに加え、新たなSUVタイプ(トヨタはSUVとは呼称せず、単に「センチュリー」と呼ぶ)、さらに「クーペコンセプト」という3つのボディタイプを擁するに至った。ル・ボラン編集部では、このトヨタの野心的な戦略と、センチュリーブランドが提示する新たな価値観について、開発担当者に話を聞いた。
「フォーマル」「ビジネスカジュアル」「色気」── 3つのボディタイプが示す新たな世界観
今回のブランド独立において最も象徴的なのは、ラインナップの拡大だ。センチュリーが持つ世界観は、3つの異なる個性によって表現される。
一つ目は「フォーマル(セダン)」。これまでのセンチュリーの象徴であり、伝統と格式を重んじるショーファーカーとしての役割を担う。
二つ目は「ビジネスカジュアル(SUVタイプ)」。これは、新たな時代のショーファーカー像を提示するモデルだ。開発の背景には、アルファードなどのワンボックスがショーファーカーとして広く使われ、その「広さ」と「リラックス感」が一度体感されると代えがたい価値となっている現実があった。開発担当者はこう語る。
「(ワンボックスの)広さを一度体感されたお客様は、リラックスもちょっとした仕事もできるということで、やはりその広さというものを、ぜひ(自分でも)使いたいと思われるのです」
しかし、ショーファーカーには外観の「風格」も不可欠な要素である。そこで、「アルファードの広さを持ちながらセダンの品格を合わせ持ったクルマ」として、この新しいSUVタイプのセンチュリーが誕生した。このモデルの登場により、従来のフォーマルな軸だけでは振り向かなかった層、例えば女性からも「ぜひ乗りたい」という声が上がるほどの魅力を放っている。
三つ目は「Flair=色気(クーペコンセプト)」。ブランドに新たな「艶」と「色気」をもたらす存在だ。このラインナップ拡大は、センチュリーブランドへの「憧れ」を、より多層的なものにする戦略である。
螺鈿、西陣織、江戸彫金。クーペコンセプトに息づく日本の「匠の技」
センチュリーブランドが世界に示す「ジャパン・プライド」とは、日本の「ものづくり」の力そのものだ。開発担当者は、その品質について胸を張る。
「単に形のいいクルマというだけではなくて、塗装面をはじめ、ひとつひとつの細部をとっても、すべて最高の日本の匠、日本のものづくりのスペシャリストがやっています」
これは、「日本の自動車産業がこれだけの力を持っている」ことを世界に示す試みでもある。そのこだわりは、内外装のディテールに顕著だ。クーペコンセプトには、螺鈿(らでん)や西陣織、緞通(だんつう)の絨毯、江戸彫金のエンブレムといった日本の伝統工芸が惜しげもなく採用されている。外板色の「緋色(ひいろ)」も鳳凰をイメージした日本の伝統色である。
また、運転席と助手席を分ける仕切りは「機(はた)織り」をイメージしている。これは、豊田佐吉翁の織機発明から始まったトヨタグループのルーツを表現するものであり、クーペコンセプトのパーティション役目を果たす「糸」のデザインにも、その思想が受け継がれている。
想定外のドライバーズカー需要。SUVタイプ、半数近くが「自身で運転」する理由
センチュリーは、単なる伝統工芸品ではない。走りの性能においても「別格」を追求している。特に注目すべきは、SUVタイプのボディ剛性だ。ショーファーカーとしての静粛性と乗り心地を極めるため、極めて高いボディ剛性が求められた。その結果、パーティション内部にクロスメンバーを通し、リアにVブレースを入れることで、担当者は「驚くべきことに、レクサスのセダンよりも剛性は高いんです」と断言する。
なぜそこまで剛性にこだわるのか。「やはり、乗り心地を良くしようとすると、ボディ剛性が高くないと、結局サスペンションが有効に働かないんですね」。高い剛性こそが、静粛性と乗り心地のよさを両立させる土台となる。これにより、22インチという大径タイヤを履きながらも、卓越した乗り心地を実現している。
この高い剛性は、ハンドルの手応えといった運転の楽しさにも寄与している。当初、このSUVタイプはショーファー8割、ドライバーズカー2割と想定されていたが、実際には「半数近いお客様がご自身で運転する」という。結果として、新たなドライバーズカー需要をも掘り起こしたのだ。
センチュリーブランドの未来と「クーペ市販化」への期待
この流れは、今回発表されたクーペコンセプトでさらに加速すると予想されている。クーペは、Bピラーレス構造という技術的難題を抱えつつも、フルリクライニング可能な広大な後席スペースと、美しく楽な乗り降りというショーファー性能を追求している。
その市販化について尋ねると、開発担当者からはこんな答えが返ってきた。
「いまはコンセプトカーですが……。お客様からの要望があれば、やはり実現したい、と思っているクルマです。そういう意味ではもう真剣にいろいろ検討していると言っていいでしょう」
ブランドの独立に伴い、販売体制も変革期を迎えている。現在は「センチュリーマイスター」と呼ばれる認定スタッフ(全国に500~600名)がトヨタ販売店で対応しているが、今後は「自然の流れとして、専用の販売店を考えていかなくてはいけない」と認識されている。
センチュリーブランドの独立は、トヨタが日本の「ものづくり」の粋を集め、世界の頂点に本気で挑むという宣言だ。伝統を背負うセダン、時代を捉えたSUVタイプ、そして未来を照らすクーペ。そのどれもが、乗る者に「別格」の体験を約束している。
【画像105枚】「緋色」のクーペと日本の匠。螺鈿、西陣織、江戸彫金…「ジャパン・プライド」の結晶たるセンチュリーのディテール













































































































